地域メディアに取り上げられるプレスリリースの書き方
プレスリリースは「宿の宣伝」ではなく「地域への情報公開」——1906年にこの道具が生まれた時の話から、地域メディアが取り上げたくなる3つの素材、1枚の書き方、送る前にやるべきことまで。

プレスリリースを送っても、地域メディアに取り上げられない。理由の多くは、「宿の宣伝」として書いていることです。「新しい宿ができました」ではなく「地域の醸造所と宿が組んで、地ビールの新しい楽しみ方を始めます」——主語が「宿」から「地域」に変わると、紙の運命が変わります。本記事は、その書き換えの技術を、プレスリリースという道具が生まれた1906年の話から整理します。
1906年 — 事故を秘密にしなかった会社
1906年10月28日、米国ニュージャージー州アトランティックシティの近くで、ペンシルベニア鉄道系の列車が鉄橋から水面へ転落し、50人が亡くなりました。当時の鉄道会社の慣例は、事故を秘密にすることでした。記者を現場に近づけず、原因を語らない。うわさがうわさのまま走るのを放置する。それが普通の時代でした。
なぜ面白いか。この時、リーがやったことは「会社を良く見せること」ではありません。事実を、うわさより先に、会社自身の言葉で渡すことでした。結果として、大惨事にもかかわらず会社への非難はほとんど起きなかったとされます。ここに、プレスリリースという道具の正体があります。宣伝は信頼を借りにいく行為で、情報の公開は信頼を渡す行為です。載らないリリースの多くは、借りに来ています。渡しに来る紙に変わった瞬間、地域メディアの扱い方が変わります。
載る素材は3つ — すべて「地域」が主語
宿の周りには日々ニュースがあるのに、「宿のニュース」として書くと載りません。「地域のニュース」として書くと載ります。素材の選び方は3つに絞られます。
- 地域の人が関わるニュース — 「宿が地ビールを始めました」ではなく「里山の醸造所と宿が組んで、地ビールのペアリング体験を始めます」。醸造家という「地域の人」が登場すると、紙面はこれを地域のニュースとして扱えます。
- 地域の課題を解決するニュース — 空き家を宿にした、若手が定着する学びの場を作った。観光の話でなく、空き家・雇用・人口という地域の課題に触れている話ほど、編集部は「読者に関係がある」と扱いやすい。
- 地域の人が行きたくなるニュース — 「地元住民限定の飲み比べ会」のような、その土地に住む人への扉。地域の読者が「行ってみたい」と思える出来事は、地域メディアにとって自然な記事になります。
なぜこの3つでいいのか。報道研究には、出来事が「ニュース」として選ばれる条件を整理した古典的な理論があり、その構造は宿のこの3つと重なります。理論の話と、取材されやすい材料を常備する「プレスキット」の作り方は、地方ホテルがメディアに取り上げられる術が扱います。ここでは、1枚を書く技術に絞ります。
1枚の書き方 — タイトル・本文・写真
タイトルは「地域+人+何をする」。「〇〇(宿の名前)、クラフトビール提供開始」ではなく「里山の醸造所と宿が組む、地ビールで地域を味わう体験」。タイトルを読んだだけで「地域のニュース」だと分からせます。
本文は「背景+取り組み+地域への影響」の3段落。「当宿は…」から始めない。第1段落は背景(地域の醸造所が販路を探している)、第2段落は取り組み(宿と醸造所の体験づくり)、第3段落は地域への影響(売上と、若手が醸造所で学ぶ機会)。書く順番をこの並びにするだけで、宣伝の匂いが消えます。事実は、リーがやったように「いつ・どこで・誰が・何を・なぜ」で並べます。決まっていないことは「予定」と書き、決まったことを決まったように書く。形容詞(日本一、革新的、感動の)は、原則すべて削ります。
写真は「人が写っている」3枚。建物の外観より、醸造家とスタッフが一緒に注いでいる1枚、地域の若手が学んでいる1枚。人は人に興味を持ち、編集部は使える写真に弱いのです。写る方の承諾を取ってから、高精細で3枚添えます。
送る前にやるべきこと
記者に会いに行く。紙を送る前に、地域メディアの記者に会って「こんな取り組みを考えているのですが、地域のニュースになりますか」と相談する。相談された記者は、送られてきた紙を覚えています。送って終わりの関係と、相談してから送る関係では、同じ1枚の重さが違います。
地域の人に先に伝える。醸造所、地域の若手、近所の人——登場する人に「プレスリリースを出します」と先に一声かける。取材の電話が来た時、地域の人が「あの取り組み、知っています」と答えられるかどうかは、紙が「地域のニュース」になれるかの分かれ目です。
地域限定のイベントを同時に出す。「地元住民限定、地ビール飲み比べ会」のような、地域に開いた扉を紙と同じ日に出す。地域の人が参加する出来事は、紙面に載りやすい形そのものです(地域との組み方は、近隣事業との連携 — 「予約につながる協業」の基本が扱います)。そして、載ったら。記者にお礼を、登場した地域の人にも「掲載されました」と伝える。次の1枚の下地は、この2つの連絡です。
反対側 — リリースが宿を疲れさせるとき
- 宣伝の匂い — 「宿の紹介」が3行続いた時点で、編集部は紙を置きます。宣伝は載らないだけでなく、次の紙の信用まで下げます。
- 事実の誤り — 日程・数字・肩書きの間違いは、記事になってから倍になって返ってきます。信頼は1回の誤りで消え、取り戻すには1年かかります。送る前の確認は、書く時間と同じだけかけます。
- 写真の承諾 — 写る本人だけでなく、子どもは保護者の承諾が必要です。1枚の写真のために、地域との関係を売らない。
- 送りすぎ — 毎月「何かを始めました」を送ると、何を始めても届かなくなります。地域の角度のあるネタが溜まった時だけ出す。年4回の良質な紙が、毎月の紙に勝ちます。
- 地域メディアの事情 — 地域紙・地域局の取材の人数は限られています。だからこそ、事実・写真・地域の人の言葉が揃った材料は扱いやすい——一般的な考え方として、まず「使える形に整える」ことを自分の側で終わらせておく必要があります。
- 載らない時期との付き合い — 大きな報道・選挙・災害の前では、どんなに良い紙も積まれます。載らないのは紙の質とは限らない。折り返しの連絡がないまま次々送り続けず、半年に1回、相談に行く関係を保つ。
最初の一歩は、「地域+人+何をする」の3行を1つ書くことです。今週あなたの宿の周りで起きているできごとから、主語が「宿」になっているものを「地域」に書き換える。1906年にリーがやったのは、実はこれと同じことでした。事実を、先に、自分の言葉で。宣伝をやめると、紙はやっと働き始めます。
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