朝食の収益 — 「人数×単価×追加」の計算基本
朝食は「サービス」ではなく計算できる収益。人数×付帯率×単価+追加の4つの数字を順に動かし、粗利と物語を同時に育てる計算の基礎です。

朝食は「サービス」ではなく「計算できる収益」です。里山の野菜、海の幸、地元の卵——素材の物語がある宿ほど、朝食は「収益+体験」の口座になります。本記事は、その口座の計算式を整理する基礎編です(数字はすべて参考値です)。
一汁三菜 — 豊かに見せる組み合わせの知恵
日本の朝の定番、一汁三菜。ご飯と汁と香の物、そして主菜が1品。栄養と美学の設計とされますが、コストの面から見ると、これは見事な組み合わせです。ご飯・汁・香の物は安くお腹を満たし、原価を主菜の1品に集中させる。皿数は多いのに、高い素材は1つ。原価を守りながら卓を豊かに見せる、江戸の食卓のアセンブリ設計だった、と考えることもできます。
この「基本は安く豊かに、原価は1点に集中」という構造は、そのまま現代の朝食の単価設計に使えます。
計算式 — 4つの数字
朝食売上=宿泊人数×付帯率×単価+追加売上。この式に現れる数字は、4つだけです。
- 宿泊人数 — 前泊の人数。朝食の入口となる数字。
- 付帯率 — 宿泊客のうち朝食を食べる人の割合。写真と案内で動く数字。
- 単価 — 朝食の価格。部屋代に込む含み値か、単品かで、自由度が変わります。
- 追加売上 — 地元牛乳、果物、1品追加。朝食の中の小さな売り場。
計算を歩く — 参考値で1ヶ月を見る
10室20人が泊まる宿で、付帯率50%、単価1,500円とします(すべて参考値)。食べる人は20人×50%で10人。1日の朝食売上は10人×1,500円=1万5,000円。30日で45万円。ここへ「+500円で海の幸の小鉢」を追加して、1日4人が頼めば2,000円、30日で6万円。原価率35%なら、45万円の粗利は約29万円。数字を動かせる場所は、たった4つ。朝食の議論はすべて、この4つのどれを動かすかの話に帰着します。
3つのレバー
- 付帯率を上げる — チェックイン時の一言「明日の朝食は、里山の野菜が主役です」。費用ゼロで動くレバーはここだけです。朝食の写真1枚も同じ働きをします(写真の作法は「写真が9割」— 予約が入るホテル写真の共通点)。
- 単価を設計する — 基本+選べる追加の2層にします。基本は安く豊かに(一汁三菜の構造)、追加に原価と物語を集中させます。
- 追加を声かけする — 配膳時の1文「地元の豆を使ったコーヒー、追加もできますよ」。声かけは1回まで。押し付けは単価ではなく評価を下げます。
売上ではなく粗利を見る、というのが式の裏の約束です。仕込み量を記録して食品ロスを減らす(食品ロス — キッチンの「仕込み量」を減らす)、メニューに生産者の名前を書く(朝食で地域を伝える — 1品に地域の物語を乗せる朝食のアイデア)——粗利と物語は、同じ1行で上がります。
形式と舞台で単価を押す
朝食の形式(並べ方・見せ方)の設計は、朝食をメディア化するビュッフェ設計が扱います。また、朝食の舞台を食堂の外へ広げる発想——森の中で食べる朝食など——は、単価を上げるもう一つの方向です(森のピクニック — 自然の中で食べる朝食の体験設計)。式の中の「単価」は、味と形式と舞台の3方向から押せる数字です。
反対側 — 数字が朝食を疲れさせるとき
- 付帯率100%の幻想 — 朝を抜きたいゲストもいます。無理に上げれば、仕込みの無駄と満足度の低下が同時に来ます。付帯率は上げる対象というより、まず知る対象です。
- 物語なき値上げ — 単価は最後のレバーです。理由のない300円は、レビューの星を1つ落としかねない数字です(価格の決め方の基礎は、部屋単価の決め方 — プライシングの基礎が扱います)。
- 含み値の自由度 — 部屋代に込んだ朝食は値上げできません。単価を設計したいなら、まず「見える価格」に置き直すことから始まります。
- 追加販売の押し売り — 声かけは1回、メニューには1行。朝の穏やかな時間に、売り込みの空気は要りません。
- 数字の振り回し — 付帯率が2ポイント動いた月に方針を変えない。朝食の数字は、3ヶ月の傾きで読むものです。
最初の一歩は、今月の4つの数字(人数・付帯率・単価・追加)を1枚の紙に書き出すことです。書き出した瞬間、どの数字が「決めないまま」になっているかに気づきます。朝食の収益化は、おいしさを損なうことなく始められます——式は、すでにあなたの食堂で回っているのですから。
次に読む
- 朝食をメディア化するビュッフェ設計 — 形式の設計の話
- 朝食で地域を伝える — 1品に地域の物語を乗せる朝食のアイデア — 1品1行の物語の話
- 食品ロス — キッチンの「仕込み量」を減らす — 仕込み量と粗利の話
- 部屋単価の決め方 — プライシングの基礎 — 価格づくりの土台の話


