エネルギー削減 — 「収益の口座」としての基礎
エアコンの設定温度を1度緩和すると、冷房で約13%・暖房で約10%の消費電力が減るという調査があります。数字を手がかりに、省エネを「我慢」ではなくOTA手数料のかからない「収益の口座」として扱う基礎——記録・1室換算・照明と冷暖房と温水の3箇所——を整理しました。

毎月届く電気代の請求書を、もう一枚の損益計算書として読み直してみます。電気代を1万円下げることは、売上を1万円上げることと同じ利益です。しかも売上と違って、OTA手数料はかからない。清掃も不要、在庫もいらない、追加の接客も発生しない。売上1万円なら客単価5,000円の宿泊が2組必要ですが、電気代1万円の削減は仕組みで届く。これが「収益の口座」という捉え方です。ただし口座は、預けるだけでは増えません。まず、この口座の利率を決める数字を二つ、確認しておきます。
もう一つの数字は「28度」の由来です。環境省がクールビズで示す冷房時の室温目安28度(ウォームビズの暖房時は20度)は、建築物における衛生的環境の確保に関する法律の施行令と、労働安全衛生法の事務所衛生基準規則が定める室温の範囲(17度〜28度)の上限から来ています。つまり28度は、我慢の美学の数字ではなく、法令の衛生基準の上限線。スタッフルームや事務所の温度を決める時に、「法令の範囲内の上限」と説明できるかどうかは、説得力が違います。
測る基本 — 記録・1室換算・季節の山
口座を増やすには、まず残高を知ることです。①直近3ヶ月の請求書から月々の電気代を記録する。②部屋数で割って「1室あたり光熱費」を出す(月10万円・10室なら1室1万円)。これで稼働率の影響を除いた管理ができる。③夏と冬の山がどこまで上がるかを見る。山が冷暖房なら、削減の手は3箇所に限られます。
削減の3箇所 — 照明・冷暖房・温水
- 照明 — 人感センサー+時間割 — 廊下、トイレ、ラウンジの夜間照明。人感センサーへの交換と「22時以降は常時点灯をやめる」時間割の二段構え。照明は最も手が付けやすく、効果が毎晩見える箇所です。
- 冷暖房 — 設定温度のルールと客室のカード — 共用部と事務所は設定温度のルールを決める(参考:冷房26〜28度・暖房20度)。客室には、空室時の設定と、在室中の目安を書いたカードを一枚。1℃で冷房13%・暖房10%が読める数字だからこそ、カードは「我慢のお願い」ではなく「宿の考え」として書けます。
- 温水 — 使用量の見える化 — シャワーは1分で約10リットルの湯を使う目安を、浴室に一枚。給湯はガス代と直結し、冷暖房より見えにくい分、表示だけで意識が変わる箇所です。
スタッフで回す — 見える化と「先月比」
「節電してください」は続きません。続くのは見える化と成果の共有です。①1室あたり電気代を毎月、スタッフが見える場所に貼る。②「先月比でいくら減った」を朝礼でひとこと共有する。③削減できた分の使い道を先に決めておく(備品のグレードアップ、地域の活動への一部還元など)。我慢は続かなくても、達成は続きます。削減額に名前を付けられる宿では、省エネはスタッフの仕事の一つになります。
省エネの反対側 — 快適を削ったら本末転倒
- 客室の温度は、客のもの — 仕組みの対象は空室時と共用部。在室中の設定はゲストに委ねるのが大前提です。温度管理カードも「設定の強制」ではなく「宿の考えの説明」として書く。
- 「28度が正解」ではない — 環境省自身が、28度は外気・湿度・体調を見ながらの目安と注記しています。小さな子どもや高齢者のいる滞在では、柔軟に。28度は上限線であって、快適の保証書ではありません。
- 暗くしすぎる宿 — 照明の削減を灯りの質の低下と混ぜると、防犯と写真と雰囲気を同時に失います。減らすのは「誰もいない場所の光」だけ。灯りの設計そのものは別の話です。
- 設備投資は実測から — LED交換や高効率給湯は、カタログの削減額でなく自宿の記録から回収年限を計算して判断する。まず測る、が投資の順番です。
- やっていない省エネを掲げない — 「環境に配慮した宿」という物語は、実施している削減の実名(照明の時間割、設定温度のルール)で語る。空白の看板は、いずれ効かなくなります。
電気代の請求書は、宿にとって数少ない「毎月必ず届く、改善の余地が書かれた紙」です。まず小さく、今月の請求書を1枚印刷して、3ヶ月分を並べて貼るところから。口座の利率——1℃あたり13%と10%——は、もうこの記事に書いてあります。
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