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ホテル運営ARTICLE 012

F&B売上を上げる — 朝食・レストラン収益の基本

F&Bの売上は「延べ人数×付帯率×1人単価」の3つの数字に分解でき、最も弱い1つのレバーを動かすだけで管理された収益になります。3つのレバーと朝食の設計に加え、外食産業の食品ロスの推計と、令和6年12月に策定された食べ残し持ち帰りのガイドラインまでを整理しました。

F&B売上を上げる — 朝食・レストラン収益の基本
2026.08.30Hotel Operations6分で読めます

「うちの食事は赤字でも仕方ない——宿の本体は泊まることだから」。宿の食の話は、しばしばこの一言で終わります。しかし、この一言を分解すると、別のものが現れます。赤字が仕方ないのではない。収益が計算式で見えていないだけです。F&Bの売上は、たった3つの数字の掛け算に分解できます。分解できるものは、管理できる。管理できるものは、口座になる。この記事は、宿の食を「仕方ない赤字」から「管理できる収益の口座」に変える、計算式と3つのレバーの話です。

計算式 — 延べ人数 × 付帯率 × 1人単価

F&B売上=延べ人数×付帯率×1人単価。延べ人数は宿に泊まった人数、付帯率はそのうち食を利用した人の割合、1人単価は利用した1人あたりの単価です。3つの数字のどれかが動けば、売上は動きます。そして、最初に動かすのは3つのうち「最も弱い1つ」です。付帯率が低い宿で単価を上げても、土台に人数が乗ってこない。朝食だけに絞った計算(人数×単価×追加)は「朝食の収益」の記事に譲り、ここではF&B全体の構造を見ます。

3つのレバー

  1. 延べ人数 — 泊まる人以外を呼ぶ — プランの朝食込み(延べ人数そのものを増やす)、外部ゲスト(近隣の方や旅先の方のランチとディナー)、催事(宴会・会議・行事)。宿の食が泊まらない人にも開かれると、延べ人数の天井が外れます。
  2. 付帯率 — 知らない人は来られない — 利用が伸びない最大の理由は、知られていないことです。客室への案内置き、チェックイン時の一言(「朝食は地元の野菜のスープが主菜です」)、メニューの見える化。告知は勧誘ではなく、情報の形で。
  3. 1人単価 — 上を選べるようにする — 追加メニュー(地ビール、デザート)、セット、ランクの選択肢(通常の朝食と、少し豊かな朝食)。単価を上げるコツは、値段を吊り上げることではなく、選べる上を用意することです。

朝食の3つの設計 — 時間枠・追加・待ち時間

  • 時間枠 — 7時・8時・9時の枠に分けて、混雑の山を平らにする。山はスタッフの負担になり、食の体験を下げます。
  • 追加の1品 — 「デザートはいかがですか」の一言。断りやすい空気であることが、勧誘との境界線です(受付のもう一押しの記事で扱いました)。
  • 待ち時間の演出 — 待ちを体験に変える(煎茶と土地の情報誌、厨房の見える席)。待ちが長いことと、暇なことは別の問題です。

コストの側 — 粗利を守るのは、仕込みと食べ残し

売上の式の裏側には、原価の式があります。F&Bの管理で見るべきは売上の増えではなく、粗利の増えです。そして粗利を静かに削るのが食品ロスです。日本では、外食産業から年間66万トンの食品ロスが出ていると推計されています(令和5年度推計。農林水産省・環境省の推計を消費者庁が取りまとめた資料による)。レストラン・ホテル等の外食で出るロスの大宗は、食べ残しと仕込みです。

FACT農林水産省・環境省の推計(令和5年度)では、事業系の食品ロス231万トンのうち外食産業からは66万トン(29%)が発生している(消費者庁の取りまとめ資料による) — 宿の厨房の仕込みと食卓の食べ残しは、この全国の数字の一部である。

ここで、宿の食卓に直接関わる制度を一つ紹介します。令和6年12月、消費者庁と厚生労働省は「食べ残し持ち帰り促進ガイドライン」を策定しました。対象は「客に飲食させる施設(レストラン、居酒屋、ホテル等、宴会やパーティ等の食事を含む)」と明記され、宿の宴会も最初から想定されています。柱は三つ。①大前提は食べきること。②やむを得ず残る場合の持ち帰りは、持ち帰った後の食品の管理の責任が基本的にお客様にあることの説明と、清潔な容器の提供。③生ものや加熱の不十分な食品は対象から外すといった運用です。環境省には、持ち帰りの愛称「mottECO」のステッカーも用意されています。宴会の食べ残しについては、開始前に幹事さんと食事量を相談する作法や、乾杯後30分は料理を楽しみ、お開き前10分は席に戻って再度料理を楽しむ「30・10」の呼びかけも、公の資料に並ぶ定番です。

CASE農林水産省の好事例集に載る北海道の宿は、宿泊予約の際にお客様の年齢層などを聞き取り客層に合わせた料理にし、食べ残しの傾向からメニューを工夫し、持ち帰りパックの提供で食品ロスを減らした — 仕込みの精度は厨房の中だけでなく、予約時の会話から作られる。

この北海道の宿の例が面白いのは、食品ロスの削減が「厨房の努力」ではなく「予約時の聞き取り」から始まっている点です。予約の会話で出てくる年齢層や食の好みは、仕込み量の精度を上げます。すると食材は無駄になりにくく、料理は客層に合い、付帯率も単価も体験も同時に守られる。ロスの削減と3つのレバーは、別の話ではないのです。

F&Bの反対側

  • 付帯率を上げる勧誘 — 一言は情報の形で、一度だけ。しつこい朝食の勧誘は、追加の利益より大きい不満を残します。
  • 単価だけを上げるメニュー — 選べる上を用意することと、値段を吊り上げることは別物です。後者は、次の滞在の付帯率を下げます。
  • 催事の薄い粗利 — 宴会は延べ人数を一気に稼げる一方、原価と人件費が跳ね上がる場所です。受ける前に、粗利で計算し直す。
  • 衛生とアレルギー — 食数が増えるほど、アレルギーへの備えは複雑になります。朝食の時間帯は厨房が最も忙しい時間でもあり、記録と確認の仕組みが命綱です。
  • 持ち帰りの線 — 持ち帰りは、お客様の自己責任を前提とした衛生上の説明と、生ものを外す運用がセットで初めて成立します。ガイドラインのひな型の活用を。
  • 「体験」の押し付け — 地域の食を語ることは価値ですが、食べる人の好みと量は人それぞれ。小盛りの選択肢のある宿は、どんな宿より豊かです。

口座を開くのは、今月の3つの数字を書き出すことです。延べ人数・付帯率・1人単価。レシートと宿帳を並べれば、電卓を叩かなくても1時間で出ます。一番弱いレバーに、来月、一つだけ手を入れる。F&Bが「仕方ない赤字」から「管理できる口座」に変わるのは、その1時間からです。

この記事はアイデア共有を目的としています。記載の推計・ガイドラインは公表資料の紹介です。食品衛生・アレルギー対応・持ち帰りの運用は、関係法令と自治体の指導に沿って設計してください。

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