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ブランディングARTICLE 169

音で記憶に残る — 鐘・風鈴・川の音で記憶に残るアイデア

環境省は1996年、「残したい日本の音風景100選」を選定したのです。サウンドスケープの提唱者は地域の音に「サウンドマーク」と名付けました。音で記憶に残る宿を、音の風景と静けさの設計から組み立てるヒントを集めました。

音で記憶に残る — 鐘・風鈴・川の音で記憶に残るアイデア
2025.01.18Branding5分で読めます

観光の資料は、見えるものを中心に作られます。建物、料理、景色。ところが国はもう四半世紀以上前から、見えないものを風景として認定しています。音です。この記事は、音を「なくて当たり前の背景」から「案内できる資源」に変える話です。

国が選んだ、100の音の風景

1996年、環境省は「残したい日本の音風景100選」を選定しました。人々が地域のシンボルとして大切にし、将来に残したい音の聞こえる環境を全国から公募し、100を選ぶという、世界にも珍しい試みです。選ばれた音を見ると、その幅に驚きます。オホーツク海の流氷の音、那智の滝、鳴門の渦潮。ねぶた祭、長良川の鵜飼、広島の平和の鐘。そして岐阜県郡上の「うだつ町の水琴窟」、岩手・水沢駅の「南部風鈴」、道後温泉振鷺閣の刻太鼓。生き物の声、自然の音、生活文化の音——音は風景と同じく、地域の顔として保存に値するものだと、行政が認めたのです。

FACT環境省は1996年、公募をもとに「残したい日本の音風景100選」を選定した — 流氷・滝・祭り・水琴窟・南部風鈴など100の音。音が「保存すべき風景」として公認された、世界的にも珍しい取り組みである。

シェーファーは、地域の音に「サウンドマーク」と名付けました

この考え方の源流に、カナダの作曲家R・マリー・シェーファーがいます。1960年代後半に「サウンドスケープ(音の風景)」の概念を提唱し、1971年に世界サウンドスケーププロジェクトを組織、1977年に主著『世界の調律』を発表しました。シェーファーは、まちの象徴的な音を「サウンドマーク」と呼びました。ランドマーク(目印の風景)のもじりで、その地域でしか聞こえない、場所の名前の代わりになる音のことです。彼の研究領域は「音響生態学」と名付けられ、音と暮らしの関係を扱います。

FACT「サウンドスケープ」はカナダの作曲家R・マリー・シェーファーの概念(1977年『世界の調律』) — 地域特有の音は「サウンドマーク」と呼ばれる。風景に目印があるように、音にもその土地の目印がある。

翻訳は単純です。宿の周りのサウンドマークを、三つ書き出してみましょう。朝5時半の鳥、雨の日の屋根、夕方の風鈴、下を流れる川。それをカードに一行で書きます——「今夜は、川の音が聞こえる部屋です」。音は案内しなければ、ただの背景音として通り過ぎていきます。案内された瞬間、音は体験になります。

「静けさ」を守った、1平方インチの石

音の話の裏側には、静寂の話があります。アメリカの音響生態学者ゴードン・ヘンプトンは、2005年、ワシントン州オリンピック国立公園の温帯雨林の中で「アメリカで最も静かな場所」を見つけ、丸太の上に小さな赤い石を置きました。その一画を「静寂の1平方インチ」(約6.5平方センチ)と名付け、飛行機などの人工的な騒音から森の静けさを守る運動を始めたのです。ヘンプトンの言う静寂は、完全な無音ではありません。人工の大きな騒音に邪魔されず、周囲の環境の音に気づける状態のことです。

ここから宿が学ぶべきは、音の設計には「足す」と「引く」の両方があるということです。BGMを消しましょう。ロビーの音楽を夜は止めます。テレビの標準音量を下げましょう。「静かにする」という選択は、機材を買うより安く、しかし説明が要ります——なぜ静かなのか、一言添えれば、静寂は「何もないこと」ではなく「聞こえるものが増えること」だと伝わります。

CASE音響生態学者ゴードン・ヘンプトンは2005年、オリンピック国立公園に「静寂の1平方インチ」を設定し、騒音から森の静けさを守る運動を始めた — 静寂とは無音ではなく、人工音に邪魔されずに環境の音へ気づける状態である。

音を集める、預かる

  • 音の宝探し — 鐘、風鈴、川、鳥。聞こえた音にチェックを入れる子ども向けのリスト。耳を澄ます散歩になります。
  • 宿の音を録る — 雨の日の屋根、焚き火、川。スマートフォンで十分。サイトやSNSに音を載せると、宿の案内は「見る」から「聴く」に変わります。
  • 風鈴・鐘には由来を — 音の道具には作り手と産地があります。南部風鈴に産地の一行を添えるだけで、音に履歴が生まれるのです。
  • 何をしないか — 自然音のBGMは館内で流しません。本物の音がある場所では、本物がいちばんの音源です。

音は壁を越えます

  • 苦情の管理 — 音は他の感覚と違い、部屋に閉じ込められません。夜の鐘・風鈴・集まりの声は、近隣と宿内の両方に響きます。時間帯の設計を。
  • 季節と天候 — 音の風景は季節で全滅します(セミの声は夏だけ、川の音は水かさで変わる)。案内には「今は〜が聞こえる季節です」と時期を添えましょう。
  • 録音の配慮 — 人の声が入る録音の公開には、話し手の了解を。祭りや行事の音には主催側への確認を。
  • 向く宿 — 川・山・集落に囲まれた宿はもちろん、町の宿にも「その町の音」はあります。まず耳を澄ませることから。

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音は、案内されなければ風景にならない唯一の感覚資源です。環境省は100の音を選び、シェーファーは音に目印という名前を与え、ヘンプトンは静寂のために石を置きました。まず小さく、宿の周りのサウンドマークを三つ書き出し、そのうちの一つを今夜のカードに一行で載せることから。

この記事はアイデア共有を目的としています。音の体験は季節・天候・時間帯で変わります。近隣と宿内への音の影響を織り込んで設計してください。

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