排水が資源に戻る時:シンガポールのホテルが水をもう一度使う方法
マレーシアからの輸入水にも頼る島国シンガポール。386室のカールトン・シティ・ホテルは、空調から落ちる水を冷却塔に回し、ベッドの上のカード1枚で洗濯の水を減らした。国の最高位の水の賞を受けたホテルがやったのは、大きな設備投資ではなく、水の行き先を一つずつ見直すことだった。
たとえば、朝の客室。清掃係がドアを開けると、ベッドの上に小さなカードが置いてある。「シーツとタオルは、そのままで大丈夫です」という合図だ。同じころ、館内の空調機の下では、冷えた空気がつくった結露の水が、捨てられずに冷却塔へ送られていく。
4つの蛇口を持つ国
シンガポールの水道局PUBは、国の水源を「4つの蛇口」と呼ぶ。雨水をためる貯水池、マレーシア・ジョホール州からの輸入水、下水を再生したNEWater、そして海水の淡水化だ。
NEWaterの歴史は1970年代にさかのぼる。下水から水をつくる研究は、当時は費用と信頼性の壁を越えられなかった。膜の技術が進んだ1998年、PUBは改めて実験チームをつくり、2000年に1日1万m³をつくる実証プラントを動かした。2002年8月9日の建国記念日のパレードでは、6万人がNEWaterのボトルで乾杯した。
つくり方は3段階だ。まず細かい膜で微粒子や細菌をこし取る。次に逆浸透膜で、ウイルスや重金属、農薬などを取り除く。最後に紫外線で、残ったわずかな細菌やウイルスを不活性化する。できた水は飲み水より厳しい水質を求める半導体工場や、商業ビルの空調の冷却に使われ、雨の少ない時期には貯水池に足されて、浄水場を経て水道水にもなる。
国の水を、建物が左右する
2017年の時点で、シンガポールの水の使用量は1日4億3,000万ガロン。そのうち55%は家庭以外が使い、2060年には家庭以外が全体の70%を占めると見込まれていた。PUBは2015年から、年に6万m³以上を使う大口の利用者に、水の効率化計画を毎年出すことと、用途別の子メーターを付けることを義務づけた。
建物の冷却塔も大きな使い手だ。PUBの推計では、国内の冷却塔が使う水は1日3,000万ガロンを超える。冷却塔は、水を蒸発させて熱を捨てる仕組みなので、水が空へ逃げ続ける。
カールトン・シティがやったこと
カールトン・シティ・ホテル・シンガポールは、中心業務地区のタンジョン・パガーに立つ29階建て、386室のホテルだ。PUBの資料には、このホテルの取り組みが8つ並んでいる。
- PUBの「節水型建物」認証を取得
- 漏水や壊れた水栓を見つけたら、すぐに報告するよう促す
- 給水設備を定期的に点検し、漏水を防ぐ
- 蛇口、小便器、トイレは、節水ラベルの最高ランク「3ティック」
- ポスターで、客と従業員に節水を呼びかける
- 客に、シーツとタオルの交換を控えてもらう
- 空調機の結露水を回収し、冷却塔に再利用する
- 冷却塔にNEWaterを使う
遠隔監視の仕組みと、すぐに直す保守の体制が、水のむだを未然に防いでいる。
客室のカードについて、エグゼクティブ・アシスタント・マネージャーのオーガスティン・チョンはこう話す。「客の反応は、たいてい行動で返ってくる。ベッドにカードを置いて、交換しなくていいと伝えてくれる。それでも衛生のため、2日に1回は替えている」。節水のために清潔さを手放さない線引きが、はっきりしている。
結果は、国内の上位1割
こうした取り組みで、ホテルの水の使用量は2014年から2016年にかけて約4,233m³減った。五輪サイズのプール1杯半を超える量だ。
PUBはホテルの水の効率を、「使用中の客室1室あたり、1日に何m³使ったか」で比べる。冷却塔のあるホテルの中央値は0.88m³、上位1割の境目が0.58m³。カールトン・シティは0.58m³で、上位1割に入った。リットルに直すと、1室1日あたり約580リットルで、中央値より約300リットル少ない。
ホテルは2017年に「水効率賞」を受け、2018年3月には、PUBが2007年に始めた国の最高位の水の賞「ウォーターマーク賞」を受けた。その年の受賞は、企業3社と学校2校だけだった。総支配人のダレン・ウェアは「限られた貴重な水を守るため、環境に優しい取り組みを続けていく。客にも、節水の取り組みに加わってもらいたい」と語っている。
なぜ、結露水なのか
空調機は、空気を冷やすときに水分を結露させる。高温多湿の土地では、その量がばかにならない。結露水は、空気中の水蒸気が冷えて水に戻ったものなので、ミネラル分がほとんど含まれない。冷却塔の補給水に回せば、そのまま上水の使用を減らせるうえ、冷却塔の中でミネラルが濃くなるのも遅くなる。捨てれば排水、回せば資源になる水だ。
日本の宿に置き換えると
まず、測る。夏の日に、エアコンのドレンホースの先にバケツを置いて、1日でどれだけ水が出るかを見る。植栽の水やりや、駐車場の清掃に回せる量かどうかが分かる。
次に、夜のメーターを読む。客も厨房も水を使わない深夜の2つの時刻で、メーターの数字が動いていれば、どこかで水が漏れている。カールトン・シティが漏水の報告と点検を取り組みの柱に置いたのは、気づかない漏水がいちばん高くつくからだ。
最後に、PUBの物差しを借りる。InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)として、30室・稼働率70%の宿を考える。使用中の客室は1日21室。1室1日あたりの水を50リットル減らせば、1日1,050リットル、年に約383m³になる。上下水道料金を1m³あたり500円とすると、年に約19万円だ。まずは、自分の宿の「使用中の客室1室あたりの水」を出してみるところから始めたい。
排水が資源に戻る国のホテルは、水の行き先を一つずつ見直していた。ベッドの上のカードも、空調の下の結露も、その一つだ。
持ち帰れる知識
- PUBはホテルの水の効率を「使用中の客室1室あたり1日の使用量」で比べる(冷却塔あり:中央値0.88m³、上位1割0.58m³)
- カールトン・シティは0.58m³で上位1割に入った
- NEWaterは、細かい膜、逆浸透膜、紫外線の3段階でつくられ、半導体工場や商業ビルの空調冷却に使われる
- シンガポールでは2015年から、年6万m³以上を使う大口利用者に水の効率化計画の提出と子メーターの設置が義務づけられている
宿で考えられること
- 夏の1日、エアコンのドレン水をバケツで受けて量を測る
- 深夜の2つの時刻で水道メーターを読み、漏水がないか確かめる
- 「使用中の客室1室あたり1日の水」を計算し、毎月の推移を見る
- シーツ・タオルの交換を控えるカードを置く。ただし衛生のための交換の間隔は決めておく
事業・予約への接続
水の効率を「使用中の客室1室あたり」で測ると、稼働率の上下に左右されずに改善を追える。数字が出れば、節水の取り組みを、根拠を持って客に伝えられる。
Sources / 参考情報
- PUB(英文) - 2017年水効率賞 ファクトシート(2017年11月21日、シンガポール国立公文書館所蔵)
裏付け: 29階建て・386室、約4,233m³の減少、結露水の冷却塔への再利用、遠隔監視と保守、8つの取り組み、0.58m³と中央値0.88m³、総支配人の発言、1日4億3,000万ガロン、家庭以外55%→70%、2015年からの大口利用者の義務、冷却塔の水は1日3,000万ガロン超 - ストレーツ・タイムズ(英文) - 企業と学校の5者に、シンガポール最高位の水の賞(2018年3月28日)
裏付け: ウォーターマーク賞(2007年創設)、受賞は企業3社と学校2校、タンジョン・パガー、386室のカード、2014〜2016年に約4,233m³減少(五輪プール1杯半超)、チョン氏の発言 - PUB(英文) - NEWater
裏付け: 1970年代の研究、1998年の実験チーム、2000年の1日1万m³の実証プラント、2002年8月9日の6万人の乾杯、3段階のつくり方、用途、4つの蛇口