島全体を実験室にする:テティアロアが贅沢を再定義した方法
マーロン・ブランドが愛した南太平洋の環礁テティアロア。そこに立つリゾート「ザ・ブランド」は、研究所を寄贈し、島からネズミを追い出す取り組みを支えてきた。2024〜2025年の季節には、浜辺から1万5,614匹のアオウミガメの子が海へ向かった。この島では、贅沢と保全が同じ方向を向いている。
たとえば、ウミガメの季節の夜。客は生物学者と一緒に、明かりを落とした浜辺を静かに歩く。砂の上に、何かを引きずったような太い跡が続いている。母ガメが卵を産みに上がってきた跡だ。
映画スターの環礁
テティアロアは、タヒチ島から56km離れた、12の小島(モツ)からなる環礁だ。かつてはポリネシアの王族の土地だったが、20世紀の初めに売られ、1960年代の後半にマーロン・ブランドが買い取った。いまもブランドの遺産管理団体が所有している。
2014年、環礁の小島オネタヒに、エコリゾート「ザ・ブランド」が開業した。リゾートとともに、非営利団体のテティアロア協会が生まれた。協会は、ブランドの遺産管理団体と、リゾートを所有するパシフィック・ビーチコマー社が共同でつくったもので、島の研究、保全、教育を担う。
パシフィック・ビーチコマーのリチャード・ベイリーは、こう語っている。「マーロン・ブランドと私は、最初から一つの確信に導かれていた。テティアロアで成功するには、ただのリゾートではなく、価値観を分かち合う共同体をつくらなければならない、と」。
リゾートが建てた研究所
リゾートのオーナーは、建設中から、研究者が使える施設を島につくる構想を持っていた。完成した施設は協会に寄贈され、研究の拠点「エコステーション」になった。
建物はLEEDプラチナの基準で設計・建設され、5つの寝室に最大18人の研究者とスタッフが泊まれる。40m²の乾いた実験室のほか、屋外の実験室には、真水、海面の海水、そして深海の水まで引き込まれている。サンゴ礁、遺跡、汽水の湖にもすぐ行ける。
研究のテーマは、温暖化や海洋酸性化から、蚊の繁殖の抑制まで幅広い。タヒチの研究所と組んだ蚊の取り組みでは、リゾートのあるオネタヒを蚊のいない島にすることを目指している。
リゾート自体も、深海の冷たい水を使った冷房、太陽光、地元のココナッツ油の燃料で、正味の炭素排出をほぼゼロに抑えて運営されている。2019年5月、国際的な海洋保護団体ミッション・ブルーは、テティアロア環礁を「ホープスポット(希望の海)」に指定した。
ネズミのいない島へ
テティアロアの自然を脅かしてきたのは、昔の入植者が持ち込んだネズミだった。12の小島のうち9つにネズミがいて、4つの島はアシナガキアリという外来のアリに覆われていた。ネズミは海鳥の卵を食べ、アリは巣に群がった。
海鳥が減ると、島の土も海もやせる。海鳥のフンには栄養があり、それがサンゴ礁を育てるからだ。協会によれば、本来なら毎年およそ2万羽の海鳥のヒナがかえるはずだという。
協会は2018年、「テティアロア環礁再生プログラム」を始め、陸と海の変化を記録し始めた。国際的な自然保護団体アイランド・コンサベーションと組んだネズミの駆除は、新型コロナによる中断を経て、2022年7月に完了した。対象は520ヘクタール。60人を超えるスタッフとボランティアが、約260kmの道を切り開いて印を付けた。
成果は、数字に表れている。ネズミを駆除した島では、シロアジサシの巣が2.6倍に増えた。アリを取り除いた島では、1年後にクロアジサシの巣が2.8倍になった。ネズミの駆除の数か月前まで、テティアロアで一度も見られなかったアオツラカツオドリは、2022年以降、毎年1羽のヒナを育てている。
ただし、再生はもろい。2022年10月には再びネズミが見つかり、その後も一つの島でネズミの目撃が報告されている。協会は、新たな対策がまもなく必要になると説明している。
ウミガメの季節
ウミガメの保護は、地元の団体テ・マナ・オ・テ・モアナが2007年から続けている。2024〜2025年の季節、生物学者たちは環礁で430を超えるウミガメの上陸跡を記録し、113頭のメスを識別し、約161の巣を確認した。浜に残った卵の殻を一つずつ数えた結果、1万5,614匹を超える子ガメが巣を出たことが分かった。
この観察には、リゾートの客も加わることができる。ウミガメの季節には、生物学者と夜の浜辺を歩く体験が用意されている。
日本の宿に置き換えると
テティアロアの順番は、リゾートが研究を支え、研究が自然を戻し、戻った自然が客を迎える、という循環だ。小さな宿にも、まねできる部分がある。宿の庭や裏山で、季節ごとに見られる鳥や虫、植物を記録し、地元の大学や自然保護団体に観察を手伝ってもらう。記録がたまれば、それ自体が客に語れる物語になる。
InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)として、延べ宿泊者が年8,000人の宿が、1泊1人200円の「自然保全協力金」を任意でお願いし、半分の人が応じてくれたとする。年に80万円になる。地元の団体の調査費や、庭の在来種の植え替えに回せる金額だ。
島全体を実験室にしたこの環礁では、贅沢の中身が変わった。夜の浜辺で、ウミガメの跡を見つけること。それが、いちばんの贅沢になっている。
持ち帰れる知識
- ネズミは12の小島のうち9つに、外来のアリは4つの島にいた
- 海鳥のフンはサンゴ礁の栄養になる。海鳥を守ることは、海を守ることにつながる
- ネズミを駆除した島ではシロアジサシの巣が2.6倍、アリを取り除いた島ではクロアジサシの巣が2.8倍に
- 2019年5月、ミッション・ブルーがテティアロア環礁を「ホープスポット」に指定
宿で考えられること
- 宿の庭や周辺で見られる生きものを、季節ごとに記録する
- 地元の大学や自然保護団体に、観察を手伝ってもらう
- 観察の記録を、客に見せられる形にする
事業・予約への接続
ザ・ブランドでは、生物学者と夜の浜辺を歩く体験そのものが、泊まる理由になっている。保全の取り組みは、客が参加できる形にすると、宿の価値として伝わる。
Sources / 参考情報
- IOCC(英文) - テティアロア環礁の再生
裏付け: タヒチから56km、12の小島、王族の土地と20世紀初めの売却、1960年代後半の購入、2014年の開業と協会の設立、入植者が持ち込んだネズミ、2022年7月の完了、520ヘクタール、60人超、約260km、2022年10月の再発見、2018年からの観測 - テティアロア協会(英文) - エコステーション(ベイリー・フィールド・ステーション)
裏付け: オーナーの構想と寄贈、LEEDプラチナの基準、5つの寝室に最大18人、40m²の実験室、深海の水を引いた実験室 - テティアロア協会(英文) - テティアロアの海鳥の回復(ギビング・チューズデー2025)
裏付け: 2018年開始の再生プログラム、9つの島のネズミと4つの島のアリ、年約2万羽、2.6倍と2.8倍、アオツラカツオドリ、フンとサンゴ礁、ネズミの目撃と新たな対策 - ザ・ブランド(英文) - テティアロア協会
裏付け: 協会の成り立ち、研究テーマ、蚊の取り組み、テ・マナ・オ・テ・モアナとの協力、2024〜2025年の430・113・161・1万5,614、夜の観察体験 - ミッション・ブルー(英文) - テティアロア環礁をホープスポットに指定(2019年5月)
裏付け: ホープスポットの指定、2007年からのウミガメ調査、深海水の冷房・太陽光・ココナッツ油、ベイリー氏の発言