GOAL 12 · TARGET 12.5 廃棄物・循環経済 4分 / 2104文字 素材から読み解く #008

廃材が主役になるホテル:ブルックリンが194室で証明したこと

砂糖工場の梁、植物園の倒木、蒸留所の床板、竜巻で剥がれた屋根のゴム。ニューヨークの1ホテル・ブルックリン・ブリッジは、建物の材料の54%を地域の材料と再生材でまかなった。捨てられるはずだったものが、このホテルでは、来歴を語る主役になっている。

たとえば、チェックインを待つ間。フロントの上を見上げると、何百本もの黒いゴムの帯が、垂れ下がるように吊るされている。ロビーの奥では、高さ25フィート(約7.6m)の壁一面を植物が覆っている。この二つが、同じ「自然の力」をテーマにしていると気づく客は、多くないかもしれない。

公園の桟橋に立つ10階建て

1ホテル・ブルックリン・ブリッジは、2017年2月に開業した。ブルックリン・ブリッジ・パークの「ピア1」にある10階建てで、客室は194室。そのうち29室が2〜6寝室のスイートだ。1ホテルズにとって3軒目、そして初めて更地から建てたホテルだった。

ブランドの創業者バリー・スターンリクトは、ホテルの考え方を一言でこう表す。「私たちのまわりの世界は美しい。それを、そのままにしておきたい」。そして開業時には、「すべての材料を選び、心を配って開発することができた」と語っている。

材料の54%が、地域の材料と再生材

このホテルの設計では、材料の54%を地域の材料と再生材が占める。代表的なものは三つある。

  • かつてのドミノ・シュガー工場の、ハートパイン(松の芯材)の梁
  • ブルックリン植物園のクルミ材
  • ケンタッキー州のオールド・クロウ蒸留所の松の床材

植物園の木には、もう一つの物語がある。地元の木工工房ビエン・エチョは、ハリケーン・サンディで倒れた植物園の木を使い、レストラン、カフェ、ロビーのテーブルをつくった。ロビーのソファやテーブルを手がけた家具工房も、ドミノ・シュガー工場の木を使っている。屋上の座席は、使われなくなった鉄道の枕木でできている。

フロントの上のゴムの作品「All OVEREACHOTHER」は、アーティストのジャロッド・ベックがつくった。材料は、2014年の夏、ニューヨーク州北部のユーティカを襲った竜巻で、大型店の屋根から剥がれたゴムだ。ホテルは、この作品で客に、自然の力と、自然とどう暮らすかを考えてほしいとしている。

ハリケーンを、隠さなかった

このホテルの計画は、2011年の終わりに始まった。ところが2012年、図面ができあがった直後に、ハリケーン・サンディが東海岸を襲う。被害を受けて、水辺の建築のルールが変わった。建物を3フィート(約90cm)高くし、機械設備を屋上へ移さなければならない。それでいて、建物全体の高さは上げられない。設計はやり直しになった。

1ホテルズは、この遅れと変更をなかったことにはしなかった。ブルックリンのアーティストに頼み、角部屋のスイートの壁に、サンディの記憶として水位の線を描いてもらった。自然の力に敬意を払う、という選択だ。

水と電気も、自然から

ホテルは、雨水を集める仕組みを持つ。敷地を開発する前と比べて、近くの水路へ流れ出る雨水を50%以上減らし、集めた水は夏の間、公園の水やりに使う。ホテルから出る水は、約5,000立方フィート(約140m³)と見込まれていた。

電気は100%風力でまかなう。客室のシャワーには、水を使いすぎないよう5分の砂時計が置かれ、マットレスは麻を混ぜた特注品、シーツはオーガニックコットンだ。照明の傘や植木鉢の一部は、キノコの菌糸と、トウモロコシの茎などの農業廃棄物でつくられている。

客室とロビーの、小さな仕掛け

開業を伝えた米国のメディアは、館内にペットボトルが1本もないことを紹介した。客室の蛇口からは、ろ過した水が出る。丸い木の板のように見えるルームキーには、花の種が練り込まれていて、植えれば芽が出るという。

ロビーには、新鮮な野菜や果物を並べた農産物の売り場がある。客はテスラの電気自動車に無料で乗ることができ、自転車を預ける係もいる。客室での食事とミニバーの売上の一部は、飢餓と闘う国際団体アクション・アゲインスト・ハンガーに寄付される。

どれも、ひとつひとつは小さい。けれど、客が手に取り、目にするところに置かれている。廃材の梁と同じように、ホテルの考え方を、言葉ではなく物で伝えている。

日本の宿に置き換えると

1ホテルが教えてくれるのは、材料には来歴があるということだ。古い梁、建具、瓦。改修で外したものを捨てる前に、どこで、何に使われていたのかを記録しておく。その来歴を、客室やロビーの小さな札に書いてみる。それだけで、ただの古材が、宿の物語になる。

InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)として、10室の宿の改修で、古い木材が5トン出るとする。処分費が1トンあたり3万円なら、15万円かかる。そのうち2トンを、テーブルやベンチ、ヘッドボードとして使い直せば、処分費は6万円減る。金額は小さい。けれど、使い直した2トンには、宿の歴史が刻まれている。

廃材が主役になるホテルは、捨てられるはずだったものに、もう一度、語る場所を与えていた。

持ち帰れる知識

  • ハリケーン・サンディの後、建物を3フィート高くするなどの設計変更が必要になった。ホテルはそれを隠さず、水位の線として客室に描いた
  • 集めた雨水は夏の公園の水やりに使う(約5,000立方フィートの見込み)
  • シャワーの5分の砂時計、麻を混ぜたマットレス、菌糸と農業廃棄物でつくった照明の傘

宿で考えられること

  • 改修で外す梁や建具の来歴を、捨てる前に記録する
  • 使い直した古材に、来歴を書いた小さな札を付ける
  • 地元の木工所や作家に、古材の使い道を相談する

事業・予約への接続

材料の来歴は、そのまま客に語れる物語になる。1ホテルでは、砂糖工場の梁や植物園の倒木が、ホテルの個性そのものになっている。

Sources / 参考情報

  • Hotel Management(英文) - 自然を主題にした高級ホテル、1ホテル・ブルックリン・ブリッジが開業(2017年2月17日)
    裏付け: 194室・スイート29室、3軒目で初の新築、ピア1の10階建て、25フィートの緑の壁、スターンリクト氏の発言、54%と3つの材料、雨水50%以上・夏の公園の水やり・約5,000立方フィート、100%風力、サンディによる設計変更と水位の線、All OVEREACHOTHER、5分の砂時計、麻のマットレスとオーガニックコットン、屋上の枕木の座席、ろ過した水、ロビーの農産物の売り場、テスラの無料送迎と自転車の預かり、アクション・アゲインスト・ハンガーへの寄付
  • Observer(英文) - 風力だけで動く、ブルックリンの新しいホテル(2017年2月)
    裏付け: 館内にペットボトルがない、種を練り込んだルームキー、194室、54%、100%風力
  • 1ホテルズ(英文) - ブルックリンのアート:1ホテル・ブルックリン・ブリッジの作家たち(2017年5月13日)
    裏付け: フロント上のベックの作品と作家の意図、サンディの倒木のテーブル(ビエン・エチョ)、ドミノ・シュガー工場の木の家具、菌糸と農業廃棄物の照明の傘と植木鉢、緑の壁の造園

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