GOAL 7 · TARGET 7.3 エネルギー・脱炭素 4分 / 2195文字 測ることから始める #010

測ることから始める:アルバの104室がカリブ海初のカーボンニュートラルになった理由

カリブ海のアルバ島にある104室のリゾートは、2018年8月、カリブ海で初めてカーボンニュートラル認証を取得したホテルになった。近道はなかった。環境認証を地図にして、電気、水、食べ残し、ごみをひとつずつ測り、減らしてきた。その積み重ねが、国連の気候行動賞につながった。

たとえば、朝のビーチ沿いのジム。宿泊客がトレッドミルで走ると、その力で生まれた電気が、リゾートの電力網に送られる。画面には、自分の運動でどれだけの電気をつくったかが、身近なたとえで表示される。思わず写真を撮りたくなる仕掛けだ。

「絵はがきのような島」から

ブクティ&タラ・ビーチリゾートは、アルバ島のイーグルビーチに立つ、大人専用の104室のリゾートだ。オーナーのエワルド・ビーマンスがこの島に来たのは、50年以上前。当時の島を、彼は「手つかずの、絵はがきのよう」だったと振り返る。

転機は、1992年にリオデジャネイロで開かれた地球サミットだった。そこからホテルの環境認証団体グリーン・グローブを知り、カリブ海のホテルとして初めて加盟した。以来、グリーン・グローブ、ISO、LEED、トラベライフと、認証を道しるべにして、取り組みを一段ずつ深めてきた。

ビーマンスはこう語っている。「観光が経済の柱なのではない。自然が柱なのだ。手つかずの自然がなければ、観光もない」。

まず、すべてを測る

認証を取るまでの7年間で、取り組みは大きく前に進んだ。測る範囲は広い。電気や水だけでなく、スタッフの通勤、出張、仕入れる商品やサービスまで、ホテルで生まれうる排出をすべて追いかける。専任のサステナビリティ・マネージャーとグリーンチームを置き、米国のコンサルタントの力も借りている。

測ると、見えてくるものがある。数年前の監査では、エネルギーにかかる費用の60%が空調だと分かった。そこで、細かく制御できる空調方式(可変冷媒流量方式)に切り替え、空調費を35%減らした。外壁と内装には、日差しの熱を通しにくく、冷気を逃がしにくい塗装を施した。ホテルは、こうした取り組みで一つの棟のエネルギー消費が15%減り、リゾート全体では14%減ったとしている。

太陽光、食べ残し、ごみ

2016年11月、建物の屋上に太陽光パネルを設置した。グリーン・グローブによると、2021年の時点で発電量は1,086,361kWh。電気代を30万5,429ドル減らし、250トン分のCO2排出を防いだ。投資の回収は2022年5月、設置から5年7か月と見込まれていた。太陽光でまかなうのは必要な電力の15%で、島の風力などの電気25%と合わせ、40%がクリーンな電気だという。

食べ残しも測った。2016年、1食のうち30%が捨てられていることが分かり、盛り付けの量を減らした。客の満足度は下がらなかった。2年後には世界自然保護基金(WWF)と組み、食品ロスをさらに30%減らした。それでも残る食べ物は、地元の農家に家畜の餌として渡している。一般廃棄物は65%減った。

海に沈む砂浜を、見ている

ビーマンスには、強い危機感がある。アルバ島のような小さな島は、気候変動の最前線にいる。海岸線は長く、土地は海面すれすれだ。彼は国連の紹介記事の中で、気候変動を逆転させなければ、20〜30年後には、いまの白い砂浜を見るために、客はシュノーケルを付けて潜らなければならなくなる、と語っている。

だから取り組みは、リゾートの敷地の外にも広がる。ビーマンスは、数年前に買った街なかの土地を、森を再生する自然保護区にした。地域の団体が植林を担い、住民が歩いたり運動したりできる緑地になっている。厨房では、ガスではなく電磁調理器を使い、客室とジャグジーのお湯は太陽熱で温める。

客もスタッフも巻き込む

125人のスタッフ全員が、省エネと持続可能な滞在の研修を受け、持続可能な働き方を約束する書面に署名する。客には、EVの充電器を無料で開放し、送迎には島初の電気自動車タクシーを優先して使う。スタッフがEVや太陽光パネル、節水機器を買うための資金も融通している。

2020年、ブクティ&タラは国連の気候行動賞(気候中立部門)を受賞した。その年、ホテルとして受賞したのはここだけだった。国連は、この取り組みを「小さな会社が成し遂げた、大企業にも広げられる成功例」と紹介している。

2026年2月には、グリーン・グローブの再認証を受け、満点を2度取った世界で唯一のホテルと報じられた。カーボンニュートラル、LEEDゴールド、トラベライフ・ゴールドの認証も保っている。

日本の宿に置き換えると

ブクティ&タラの最初の一歩は、高価な設備ではなく、測ることだった。空調が何割を占めるのか。1食のうち、どれだけ捨てているのか。数字が見えると、手を打つ場所が決まる。

InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)として、朝食を1日80人に出す宿を考える。1人あたり100gが食べ残しや作りすぎで捨てられているとすると、1日8kgになる。盛り付けや品数を見直してその30%を減らせば、1日2.4kg、年間876kgの食材が無駄にならない。食材の原価を1kgあたり800円とすると、年間約70万円になる。

カリブ海初のカーボンニュートラルは、宣言ではなく、測ることの積み重ねから生まれていた。

持ち帰れる知識

  • 認証を道しるべにし、スタッフの通勤や仕入れまで排出を測る
  • 太陽光15%と島の風力など25%で、40%がクリーンな電気
  • 新型コロナ前は年間を通じて稼働率97%だったと、グリーン・グローブは伝えている

宿で考えられること

  • 電気代のうち空調が何割かを、まず1か月分の明細から調べる
  • 朝食の食べ残しと作りすぎを、1週間はかりで量ってみる
  • スタッフと客が参加できる、小さな省エネの仕掛けを考える

事業・予約への接続

グリーン・グローブによると、ブクティ&タラは新型コロナ前、年間を通じて97%の稼働率だった。持続可能な運営と、休暇の楽しさと、収益は両立できる。それを、104室の独立系リゾートが示している。

Sources / 参考情報

  • One Planet Network(英文) - ブクティ&タラの事例:認証がどう気候行動を導いたか(2023年10月23日)
    裏付け: 50年以上前の来島と「絵はがき」の言葉、地球サミットとグリーン・グローブ、認証の段階、排出の測定範囲とOBM、一般廃棄物65%、太陽光15%と島の電気25%、2016年の食品ロス30%と2年後のWWFとの30%、家畜の餌、塗装と棟15%・全体14%、太陽熱の給湯、EV充電・EVタクシー・スタッフ融資、植林の自然保護区
  • グリーン・グローブ(英文) - ブクティ&タラ:カーボンニュートラルな島のリゾート
    裏付け: 104室・大人専用、コロナ前の稼働率97%、2016年11月の太陽光と1,086,361kWh・30万5,429ドル・250トンCO2e・回収5年7か月、空調60%と35%削減、電磁調理器、発電するジム
  • Caribbean Journal(英文) - グリーン・グローブで2度の満点を取った、世界で唯一のホテル(2026年2月26日)
    裏付け: グリーン・グローブの再認証と2度の満点、カーボンニュートラル・LEEDゴールド・トラベライフ・ゴールドの保持
  • UNFCCC(英文) - ブクティ&タラ:カーボンニュートラルのその先へ
    裏付け: 2018年8月の認証、7年の準備、2020年の受賞、スタッフ125人の研修と署名、ビーマンス氏の「自然が柱」の言葉、20〜30年後の砂浜についての発言、大企業にも広げられる成功例

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