黒字をすべて島に戻すホテル:フォゴ島が29室で経済を回す方法
カナダ東端の小さな島に、29室のホテルがある。フォゴ・アイランド・インは、慈善団体が所有し、運営で生まれた黒字をすべて島の地域づくりに戻している。タラ漁の崩壊で揺らいだ島で、ホテルは、お金を島の中で回す「エンジン」として生まれた。
たとえば、到着した日の午後。客は、島で生まれ育った「コミュニティ・ホスト」の案内で、島をひと巡りする。漁の小屋が並ぶ入り江、手づくりのキルト、昔からの暮らしの話。宿泊料金には、この案内も、島のどのレストランでの食事も含まれている。
タラ漁が止まった島
フォゴ島は、ニューファンドランド島の北東沖にある。人口は約2,500人。何世代にもわたり、タラ漁で暮らしてきた島だ。1992年、タラ漁が禁止され、島の経済は大きな打撃を受けた。
ジタ・コブは、この島で生まれ育った。島を出てハイテク業界で成功を収めたのち、故郷に戻り、2004年、兄弟とともに慈善団体ショアファストを立ち上げた。ショアファストとは、タラの網を岸につなぎとめる綱のことだという。
コブは自分の資金を何百万ドルも投じ、州と国の支援も受けて、島の経済の立て直しに取りかかった。その中心として2013年に開業したのが、フォゴ・アイランド・インだ。
島の形をした建物
設計したのは、ニューファンドランド生まれでノルウェーを拠点とする建築家、トッド・ソーンダーズ。建物は岩がちな海岸に、細い柱で持ち上げられるように立つ。島の漁師たちが魚を干す、高床の作業小屋を思わせる形だ。29の部屋は、床から天井までの窓で、北大西洋に向き合っている。
島の伝統の技も、ホテルの中に生きている。家具は、島の木工職人が手でつくる。キルトなど昔からの手仕事も、守り、受け継ぐ対象だ。ショアファストは、使われなくなった建物を20軒以上買い取り、修復や再利用を進めてきた。島には、ソーンダーズが設計した4つのアトリエもあり、世界から芸術家が滞在する。
黒字は、どこへ行くのか
ホテルの公式サイトには、こう書かれている。「あなたの滞在から、私的な利益は生まれない。運営で生まれた黒字は、すべてショアファストを通じて地域に再投資される」。
ショアファストは、ホテルのほかに、島の家具や工芸品を扱う店と、昔ながらの手釣りでタラを獲る水産会社も運営している(2019年時点)。手釣りのタラは、ホテルで出されるほか、トロントやオタワの高級レストランにも売られている。
お金の行き先を、客に見せる工夫もある。ショアファストが考えた「経済の栄養表示(Economic Nutrition)」だ。食品の栄養成分表示のように、支払ったお金がどこへ行き、誰の役に立つのかを示す。ホテルは、料金にこの考え方がどう反映されているかを、この表示で説明している。
島に残った数字
2019年、地元の大学の研究者は、カナダの公共放送CBCに対し、ショアファストが200人以上を雇い、その事業が島の民間GDPの20%以上を占めていると語った。2025年12月には、ショアファスト自身が、過去10年間で島のGDPに2億5,000万カナダドル以上貢献したと発表している。
島の人々の仕事も変わった。コブは2022年のインタビューで、島の世帯の3分の1が、ホテルか財団で直接働いていると語っている。
研究者が見つけた、5つの原則
フォゴ島は特別な例で、ほかでは真似できない。そんな声もある。地元の大学で経営を教えるナタリー・スラウィンスキーは、その批判に向き合い、ほかの地域でも使える原則を、頭文字をとって「PLACE」とまとめた。
- 地域のために動く人を、後押しする
- 地元の人と、外から来た人をつなぐ
- その土地にあるもの、得意なことを洗い出す
- 土地の真実に根ざした物語を語る
- 「どちらか」ではなく「どちらも」で考える
彼女は、ほかの土地の真似をしないことが大切だと強調する。どの地方にも美しい景色と伝統はある。その奥にある、その土地だけのものを掘り当てることが出発点だという。
日本の宿に置き換えると
フォゴ島の教えは、29室の宿でも、お金の流れは変えられるということだ。食材をどこから買うか。家具を誰につくってもらうか。客を誰が案内するか。一つひとつの選択で、島に残るお金が変わる。
InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)として、年間で延べ5,000人が泊まる宿を考える。食材費が1人1泊2,500円で、そのうち地元から買う割合を30%から60%に上げると、地元に落ちるお金は年間375万円増える。その内訳を、客室の案内やサイトで見せてみる。それが、日本の宿の「経済の栄養表示」の第一歩になる。
黒字をすべて島に戻すホテルは、泊まることそのものを、島を支える行為に変えていた。
持ち帰れる知識
- 1992年のタラ漁禁止で揺らいだ島で、ホテルを地域経済のエンジンにした
- 島の職人の家具、手釣りのタラ、修復した古い建物、芸術家のアトリエ
- 「経済の栄養表示」で、支払ったお金の行き先を見せる
宿で考えられること
- 食材や備品のうち、地元から買っているものの割合を調べる
- 地元の人に、客の案内役を頼めないか考える
- 宿泊料金のお金の行き先を、客にわかる形で示してみる
事業・予約への接続
フォゴ・アイランド・インの料金には、3食の食事、島のどのレストランでの食事、コミュニティ・ホストによる島の案内、滞在中の移動を含めたカーボンオフセットまでが含まれる。島での体験そのものが、宿の商品になっている。
Sources / 参考情報
- フォゴ・アイランド・イン(英文) - 料金と含まれるもの
裏付け: 私的な利益なし・黒字はすべてショアファストを通じて再投資、経済の栄養表示、3食と島のレストランでの食事、コミュニティ・ホストの案内、カーボンオフセット - フォゴ・アイランド・イン(英文) - フォゴ・アイランド・イン開業(2013年)
裏付け: 29室、細い柱で立つ建物と床から天井までの窓、コブ氏の帰郷と私財・州と国の支援、1992年のタラ漁禁止、ソーンダーズ氏、ショアファストの2004年設立と名前の由来 - CBC News(英文) - フォゴ島は地方の経済と文化の再生に何を教えるか(2019年3月17日)
裏付け: 3つの社会的事業と黒字の再投資、200人以上の雇用と民間GDPの20%以上、手釣りのタラとトロント・オタワのレストラン、スラウィンスキー氏のPLACEの原則 - ショアファスト(英文) - ショアファスト・インスティテュートの発足(2025年12月3日)
裏付け: 2004年設立、過去10年で島のGDPに2億5,000万カナダドル以上 - Condé Nast Traveler(英文) - フォゴ・アイランド・イン
裏付け: 漁の作業小屋を思わせる建築、4つのアトリエ、20軒以上の建物の修復、木工やキルトの保護 - Global Heroes(英文) - フォゴ・アイランド・イン、贅沢と持続可能性が出会う場所(2022年2月14日)
裏付け: 「島の世帯の3分の1が直接働いている」というコブ氏の言葉、経済の栄養表示