GOAL 10 · TARGET 10.2 人・働き方・包摂 4分 / 2115文字 働く人の声から #013

障がいのあるスタッフが働くとき、何が変わりますか?

障がいのある人と一緒に働く。そう聞くと、多くの宿は「設備」から考え始める。スロープ、手すり、点字。もちろん大切だ。だが、最初に変わるのは、たいてい設備ではない。一緒に働くスタッフの「見え方」だ。

たとえば、職場体験の日の朝。視覚に障がいのある参加者を迎える前に、フロントのスタッフが目隠しをして、同僚の腕につかまりながらロビーを歩いてみる。いつも何気なく通っている通路に、ベルスタンドがはみ出していることに、そこで初めて気づく。

1日、ホテルの仕事を体験してもらう

この「目隠しの練習」は、作り話ではない。世界的なホテルグループのアコーは、障がいのある人を1日ホテルに招き、さまざまな仕事を体験してもらう「アコー・ワールド・デュオデイズ」という取り組みを続けている。地域の団体や非営利組織、学校と組んで行うもので、もとはフランスで始まり、各国に広がった。

中国を中心とする地域(グレーター・チャイナ)では、2016年からこの取り組みを続けている。2022年には、視覚障がい者を支援する現地の団体と組み、視覚に障がいのある人たちを迎えた。準備として、ホテルのスタッフは目隠しをし、同僚に導かれて歩く体験をした。アコーは、この練習が互いへの信頼と理解を育て、お客さまに安心してもらう方法を学ぶ機会にもなったと説明している。

2024年12月のアコーの発表によれば、この地域では過去7年間に約500回の催しを開き、障がいのある人約8,400人と、スタッフ約2万5,000人が参加した。グループの公式サイトでは、その後の数字として、8年間で570回、障がいのある参加者9,500人以上、スタッフ2万7,000人と紹介している。

体験を、仕事につなげる

1日の体験で終わらせない工夫もある。2024年5月のアコーの発表によると、中国では、デュオデイズの参加者が、人事チームから100日間、仕事のスキルやキャリアづくりの支援を受けられる。障がいのある卒業生には6か月のインターンシップを用意し、長く働く道も開いている。上海の一つのホテルだけで、167人の研修生を受け入れてきたという。

アコーは同じ発表で、障がいの80%は外から見えないものだとも述べている。車椅子や白杖だけが障がいではない。だからこそ、「障がいがあると言い出しにくい」空気をなくすことも、取り組みの一部としている。

客室の側でも、同じ考え方が進んでいる。アコーは、高さを変えられるベッド、足元を照らす照明、壁を外せるシャワーなど、一人ひとりに合わせて調整できる客室の工夫を取り入れ始めている。働く人のための工夫と、泊まる人のための工夫は、根っこでつながっている。

日本の数字を見てみる

日本では、一定の規模以上の企業に、障がいのある人を一定の割合以上雇う義務がある。厚生労働省によると、2025年6月1日時点で、民間企業の実際の雇用率は2.41%。当時の法定雇用率2.5%に届いた企業は46.0%だった。宿泊業・飲食サービス業では、雇用率が2.32%、達成した企業の割合は44.1%で、どちらも全体を下回る。

法定雇用率は、2026年7月から2.7%に上がり、対象も従業員37.5人以上の企業に広がった。さらに、2024年4月からは、事業者にも、障がいのある人への「合理的配慮」の提供が義務になっている。負担が重すぎない範囲で、バリアを取り除くための対応をすることだ。これは、お客さまに対しても同じである。

宿に置き換えると

InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)として、常に雇っている従業員が120人のホテルを考える。法定雇用率2.7%を掛けると3.24人。端数は切り捨てるので、雇う義務があるのは3人になる。いま2人を雇っているとすると、1人足りない。従業員が100人を超える企業は、足りない1人につき月5万円の納付金を納めるので、年間では60万円になる。実際の数え方には、障がいの程度や短時間勤務による違いがあるので、細かくは制度の案内で確かめたい。

ただ、数字を合わせることだけが目的ではない。デュオデイズが示しているのは、一緒に働く前の「準備」が、職場全体の見え方を変えるということだ。

受け入れの準備では、仕事を細かく分けてみることも役に立つ。たとえば、客室の準備を「タオルをたたむ」「備品を数える」「チェック表に印をつける」と分けていくと、得意なことを生かせる持ち場が見えてくる。手順を写真つきの紙にしておけば、新しく入ったスタッフや外国人スタッフにもわかりやすい。障がいのある人のための工夫は、結果として、職場の誰にとってもわかりやすい仕事の形になる。

小さな宿でもできることはある。まず1日、地域の支援学校や支援団体に声をかけて、仕事を体験してもらう。その前に、スタッフ自身が目隠しや車椅子で館内を回ってみる。気づいたことは、そのまま記録しておく。その記録は、障がいのあるスタッフにとっても、障がいのあるお客さまにとっても、働きやすく、泊まりやすい宿をつくる手がかりになる。

障がいのあるスタッフが働くとき、変わるのは、その人のまわりにいる全員の目線だ。

持ち帰れる知識

  • 障がいのある人を迎える前に、スタッフ自身が体験してみる
  • 1日の体験で終わらせず、研修やインターンシップにつなげる
  • 障がいの多くは外から見えない。言い出しやすい空気も取り組みの一部

宿で考えられること

  • 地域の支援学校や支援団体と、1日の職場体験を企画する
  • スタッフが目隠しや車椅子で館内を回り、気づいたことを記録する
  • 自社の法定雇用率と、2026年7月からの変更を確認する

事業・予約への接続

アコーなどの2024年5月の発表は、2022年の調査で、米国の回答者の4分の3以上が、宿を利用できるか確かめるために事前の準備を重ねていると紹介している。スタッフが体験から得た気づきを、設備の改善や館内情報の公開につなげれば、障がいのあるお客さまが安心して予約できる宿に近づく。

Sources / 参考情報

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