シフト希望は、誰が言い出しやすいですか?
シフトの公平さは、勤務表の上だけでは測れない。希望を「言えたかどうか」で、休めるかどうかが決まってしまうことがあるからだ。
たとえば、離島の15室の宿。スタッフは8人で、勤務表は支配人が毎月手書きで作る。休みの希望は、口頭かメッセージで受け付けている。「今月は土曜日に休みたい」「子どもの運動会がある」。月末、事務所の引き出しを開けると、出しそびれたシフト希望の紙が3枚、残っていた。書いたのに、渡せなかったのだ。
「言い出しやすさ」が、休みを決める
支配人は、公平にしているつもりだった。だが、半年分の勤務表を並べてみると、土日の休みは、決まった何人かに偏っていた。希望をよく口にする人、支配人と話す機会が多い人だ。逆に、入ったばかりの人、遠慮がちな人、言葉に自信のない外国人スタッフの希望は、紙のまま残りやすい。
シフトは時間割であると同時に、職場の人間関係を映す鏡でもある。誰の希望が通り、誰の希望が後回しになるのか。その偏りは、本人たちが一番よく知っている。
法律で「言う権利」を守る州
この問題に、法律で向き合った場所がある。アメリカのオレゴン州には「予測可能なスケジュール法」がある。対象は、世界で500人以上を雇う小売・ホテル・飲食の事業者だ。州の労働局が働く人向けに配っている案内を読むと、決まりはとても具体的だ。
勤務表は、少なくとも14日前に書面で示し、見やすい場所に貼り出す。14日を切ってから勤務を変えるときは、追加の賃金を払う。本人が望むか同意しない限り、前の勤務の終わりから10時間以内に次の勤務を入れてはならず、入れた場合は、その時間の賃金を1.5倍にする。採用のときには、平均で何時間働くことになるかの見込みを書面で渡す。人手が急に足りなくなったときのために、追加で働いてもよい人が自分から登録する名簿も用意するが、登録を迫ってはいけない。
注目したいのは、もう一つの決まりだ。働く人には、勤務表に意見を言う権利がある。子育ての事情も含め、働ける時間の制約を伝え、特定の時間や場所に入れないよう求めることができる。雇う側はすべての希望をかなえる必要はないが、希望を出したことを理由に不利な扱いをしてはならない。
つまりこの法律は、「希望を言える状態」そのものを守ろうとしている。急な変更に追加の賃金を払う決まりも、同じ考え方の上にある。勤務が急に減れば、時給で働く人の収入はその分だけ減る。急に増えれば、子どもの迎えや別の仕事の予定が崩れる。勤務表の安定は、働く人の暮らしの安定でもある。
日本の「休む時間」のルール
日本にも、勤務と勤務の間に休む時間を確保する「勤務間インターバル制度」がある。企業の努力義務とされ、厚生労働省は、EUの指令が24時間ごとに連続11時間の休息を求めていることを目安の一つとして紹介している。
国は、制度を導入する企業の割合を15%以上にする目標を掲げてきた。だが、厚生労働省の2025年の調査で、導入している企業は6.9%にとどまる。早番と遅番が入れ替わるホテルや旅館では、遅番の翌朝に早番が入ることも珍しくない。休む時間をどう守るかは、シフトの公平さと切り離せない。
人の出入りの多さも、宿の現場の課題だ。厚生労働省の雇用動向調査によると、2025年の1年間の離職率は、全産業の13.7%に対して、宿泊業・飲食サービス業は23.7%で、産業の中で最も高い。辞める理由は一つではないが、休みの取りにくさや、決め方への不満が積み重なれば、人は静かに職場を離れていく。
宿に置き換えると
InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)として、8人の宿で、ある月に土日が8日あり、1日に休めるのは2人までだとする。土日の休みの枠は、8日×2人で16。8人で均等に分ければ、1人2日になる。
ところが、希望をよく口にする2人が6日ずつ休むと、それだけで12枠が埋まる。残りの4枠を、6人で分けることになる。言い出しやすさの差が、そのまま休みの差になる計算だ。
この偏りは、たいてい誰かの悪意から生まれるわけではない。急な欠勤の穴を埋めてくれた人の次の希望を、つい優先してしまう。家庭の事情を話してくれた人の希望を、先に入れてしまう。一つひとつは善意でも、積み重なると、話さない人ほど損をする仕組みになる。
こうした偏りは、記録をつけるだけで見えてくる。小さな宿でもできることは、次の三つだ。
まず、希望は紙やメッセージなど決まった方法で、締め切りを決めて集める。口頭の希望は、聞いた側が忘れやすいからだ。次に、土日や連休に誰が休んだかを月ごとに一覧にして、全員に見せる。偏りが見えれば、翌月の調整の根拠になる。最後に、勤務表を出す日を決め、出したあとに変えるときは本人の同意をとる。
希望が通らない月があってもいい。大切なのは、「次は自分の番だ」と全員が思えることだ。
シフト希望を誰もが言い出せる職場は、公平さを、話し合える職場でもある。
持ち帰れる知識
- シフトの偏りは「言い出しやすさ」から生まれることがある
- 希望の集め方、勤務表を出す日、変更の手順を決めておく
- 勤務と勤務の間に休む時間を確保することも、公平さの一部
宿で考えられること
- 土日や連休に誰が休んだかを、月ごとに一覧にする
- シフト希望の締め切りと、勤務表を出す日を決める
- 遅番の翌朝に早番が入っていないか、勤務表を見直す
事業・予約への接続
シフトの決め方が見える職場は、人が辞めにくく、採用のときにも伝えやすい。求人の段階で「勤務表は何日前に出るか」「希望はどう集めるか」を示せれば、働く人にとって安心できる宿として選ばれやすくなる。
Sources / 参考情報
- オレゴン州労働産業局(英文) - 予測可能なスケジュール法:オレゴン州の法律はあなたを守る(2026年7月〜2027年6月版)
裏付け: 500人以上の小売・ホテル・飲食事業者が対象、14日前の書面の勤務表、14日を切った変更への追加賃金、10時間の休息と1.5倍の賃金、勤務表に意見を言う権利と不利益取扱いの禁止、採用時の見込み時間、自分から登録する追加勤務の名簿(登録の強要は禁止) - 厚生労働省 - 勤務間インターバル制度(食料品製造業向けマニュアル)
裏付け: 過労死等防止大綱の数値目標(導入企業の割合15%以上) - 厚生労働省 - 勤務間インターバル制度について
裏付け: 企業の努力義務であること、EUの労働時間指令(24時間ごとに連続11時間の休息)を目安として紹介 - 厚生労働省 - 令和7(2025)年就労条件総合調査の概況(2025年12月)
裏付け: 勤務間インターバル制度を導入している企業6.9%(2024年調査5.7%) - 厚生労働省 - 令和7年雇用動向調査結果の概況 産業別の入職と離職(2026年8月)
裏付け: 2025年の離職率 産業計13.7%、宿泊業・飲食サービス業23.7%(表4-2)