その制服、誰が決めましたか?
制服は、スタッフが毎日いちばん長く身につけるものだ。それなのに、着る人の声を聞いて決めたという宿は、意外に少ない。
たとえば、1棟貸しの古民家宿。制服は、開業のときに選んだ作務衣だ。動きやすいが、ポケットが小さく、スマートフォンを入れる場所がない。冬は寒く、夏は暑い。誰も文句は言わない。言い出しにくいからだ。ある日、新しく入ったスタッフが「制服、選べませんか?」と聞いた。支配人は驚いた。制服は、宿が「決めるもの」だと思っていたからだ。
着る人に聞いて、制服を変えたホテル
着る人の声から制服を変えた例がある。全国にビジネスホテルを展開するスーパーホテルは、2024年6月から、女性のフロントスタッフの制服を5年ぶりに新しくした。発表によると、171店舗のホテルに順に導入し、男性の新しい制服も同じ年の秋に変える予定だとしている。
新しい制服をつくる前に、同社は全国の現場で働くスタッフにアンケートを行い、古い制服の困りごとを集めた。そこで多く挙がったのが、動きやすさという「機能」と、スタッフの多様な価値観を大切にできる「多様性」への要望だった。
その結果、これまでのジャケットとスカートの組み合わせに加えて、ワンピースと、ジャケットとパンツの組み合わせを新たに用意した。3つのスタイルから、自分の好みや働きやすさに合わせて自由に選べる。色は紺を基調に、会社の色であるオレンジを差し色に使い、どの年代のお客さまにも親しみを持ってもらえるようにした。お客さまからの見え方と、着る人の働きやすさ。その両方を満たすことが、新しい制服の条件だった。同社は、着るスタッフの作業効率とやる気が上がる制服を目指したと説明している。
「選べる」が広がっている
制服を選べるようにする動きは、ホテルの外でも広がっている。日本航空は2025年11月から、グループ6社の客室乗務員と、国内外の空港の旅客サービススタッフ、約1万4,000人が、仕事中にスニーカーを選べるようにした。長い時間立ったまま働き、広い空港を長く歩く仕事の、体への負担を軽くするためだという。これまでの革靴やヒール、パンプスもそのまま選べる。
海外の航空会社では、さらに一歩進んだ例もある。英国のヴァージン・アトランティック航空は、2019年に女性スタッフの化粧の義務をなくし、パンツと低いかかとの靴を選べるようにした。2022年には、客室乗務員、パイロット、地上スタッフが、性別で分けられた制服ではなく、自分を最もよく表す制服を選べるようにしている。米国のアラスカ航空は、制服の組み合わせの名前を、性別ではなく体型への合い方で呼ぶように改めたと説明している。
これらの例に共通するのは、一つの「正解」を決めるのではなく、選べる幅をつくったことだ。そして、その幅を決めるときに、実際に着て働く人の声を聞いている。
制服は、職場の決め方を映す
制服を誰が決めるかという小さな問いは、「職場のルールを誰が決めているか」という大きな問いにつながる。厚生労働省の2024年度の調査では、課長に相当する役職以上の管理職に占める女性の割合は13.1%だった。働く人の中に女性が多い職場でも、ルールを決める側に女性が少なければ、着る人の困りごとは、決める人に届きにくい。
SDGsのターゲット5.5は、あらゆるレベルの意思決定に、女性が参画できるようにすることを求めている。制服選びは、その入り口として取り組みやすい。会議の席に呼ばれなくても、アンケートに答えることはできる。小さな決めごとに声が届く経験が、次の大きな決めごとに声を上げる力になる。
宿に置き換えると
InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)として、スタッフ20人の宿が、制服を1人2着ずつ新しくする場合を考える。1着1万5,000円とすると、40着で60万円だ。3つの型から選べるようにしても、買う枚数は40着のまま変わらない。増えるのは、型ごとに持っておく予備くらいだ。予備を型ごとに2着ずつ、計6着持つとしても9万円で、合わせて69万円。費用は15%ほど増えるが、全員に同じ型を押しつけないで済む。
ただし、選べるようにしただけで終わらせないことも大切だ。学校の制服で選択制が広がるなかでも、周りの目が気になって本当に着たい型を選べない、選んだことで何かを打ち明けたと受け取られないか不安になる、といった壁が指摘されている。型の名前を「女性用」「男性用」ではなく「スカート型」「パンツ型」のように形で呼ぶ。誰がどれを選んでも話題にしない。そうした小さな配慮が、「選べる」を本当の意味で選べるものにする。
始め方は難しくない。次に制服を新しくする時期を決め、その前に、スタッフにアンケートをとる。困っていること、欲しい機能、選べたらうれしい型を聞く。答えは名前を書かずに集める。そのうえで、選べる型と、その理由を全員に伝える。
着る人が決めることに加わった制服は、毎日の仕事の中で、自分たちの声が届いたことを思い出させてくれる。
持ち帰れる知識
- 制服を変える前に、着る人に困りごとを聞く
- 一つの正解ではなく、選べる幅をつくる
- 小さな決めごとに声が届く経験が、職場の意思決定への参加につながる
宿で考えられること
- 次に制服を新しくする時期を決め、その前に名前を書かないアンケートをとる
- ポケット、動きやすさ、暑さ寒さなど、仕事に合った機能を確かめる
- 選べる型と、その理由を全員に伝える
事業・予約への接続
着る人が動きやすい制服は、仕事の効率を上げ、スタッフの表情にも表れる。求人の場面でも、「制服は選べる」「スタッフの声で決めた」と伝えられることは、働きやすい宿であることの具体的な証しになる。
Sources / 参考情報
- スーパーホテル - スーパーホテル スタッフのユニフォームをリニューアル(2024年6月13日)
裏付け: 2024年6月1日から女性フロントスタッフの制服を5年ぶりに刷新、171店舗に順次導入、男性は秋に刷新予定、全国の現場スタッフへのアンケート、「機能面」と「多様性」の要望、3スタイルを自由に選択、紺を基調にオレンジのアクセント、作業効率とモチベーション - 日本航空 - 客室乗務員・空港スタッフがスニーカー着用を選べる運用を開始(2025年11月13日)
裏付け: グループ6社の客室乗務員と国内56・海外40空港の旅客サービススタッフ約1万4千人、身体的負担の軽減、革靴・ヒール・パンプスに加えてスニーカーを選べる - ユーロニュース(英文) - ヴァージン・アトランティック、性自認に基づく制服の選択を認める(2022年9月29日)
裏付け: 客室乗務員・パイロット・地上スタッフが性別で分けない制服を選べる、2019年に化粧の義務をなくしパンツと低いかかとの靴を認めた - ABC7(英文) - アラスカ航空、性別にとらわれない制服の方針を開始
裏付け: 制服の組み合わせの名前を性別ではなく体型への合い方で呼ぶように改めた - PATCH THE WORLD - 2025年、制服は「選ぶもの」へ。広がるジェンダーレス制服という選択肢(2025年9月)
裏付け: 選択制の制服でも、周りの目が気になり選べない、カミングアウトと受け取られる懸念などの壁が残る - 厚生労働省 - 「令和6年度雇用均等基本調査」結果(2025年7月30日)
裏付け: 課長相当職以上の管理職に占める女性の割合13.1%