バンガロー7棟の島:チュンベが海を「獲らない場所」にして守った方法
東アフリカ、ザンジバルの沖に、宿泊用のバンガローが7棟しかない小さな島がある。チュンベ島だ。島の西側のサンゴ礁は、1994年から漁も採取も一切認められない「獲らない海」になった。その保護区を動かすお金を生んでいるのが、7棟のエコロッジだ。
たとえば、潮が引いた夕方。元漁師のレンジャーが、島の灯台にのぼって海を見渡す。保護区の境界の近くに小舟が見えれば、船で向かい、なぜここで漁をしてはいけないのかを話す。レンジャーは武器を持たない。頼りにするのは、説得と、同じ村の漁師どうしの信頼だ。
軍の射撃場だった無人島
チュンベ島は、ザンジバル島の西およそ6kmにある、もとは無人の島だ。長いあいだ軍の射撃訓練に使われ、漁師もあまり近づかなかった。そのため、サンゴ礁と島の森は、驚くほど手つかずのまま残っていた。
これに目をつけたのが、ドイツで開発援助の仕事をしていたシビル・リードミラーだ。1991年、非営利の会社「チュンベ島サンゴ公園(CHICOP)」が生まれ、生態系の基礎調査から活動を始めた。7つの政府部局と交渉を重ね、1994年12月、島の西側のサンゴ礁が保護区として官報に告示された。島の森も保護林として、CHICOPが管理している。CHICOPは、タンザニアで初めて実際に管理された海洋公園となり、世界で初めての民間の海洋保護区とも言われる。
7棟の宿が、保護区を養う
エコツーリズムの営業は1998年に始まった。島の建物は、7棟のバンガロー、ビジターセンター、スタッフの宿舎だけだ。雨水をため、生活排水は植物で浄化し、トイレは堆肥式、お湯と電気は太陽の力でまかなう。建てるときには木を1本も切らず、もともと自然にあった空き地だけを使ったという。
2013年に公表された論文によると、CHICOPの年間の売上は約50万ドルで、2000年からは保護区の運営費をすべて自前でまかなっている。保護区の基本的な運営に必要なのは、ロッジの稼働率がおよそ40%あればよいという。観光客が減る時期にも、保護を続けられる設計だ。
それでも、課題は出た。客が増えるにつれ、栄養の多い厨房の排水が、植物による浄化の力を超えてしまった。仕組みは専門家の手を借りて改良された。さらに、島の中の「リン」の出入りを外部の研究者が計算したところ、堆肥とかまどの灰が限界までたまっていた。サンゴ礁へ栄養がもれ出さないよう、今では島の外へ運び出している。「自然にやさしい設備」も、置いて終わりではなかった。
「獲らない海」で起きたこと
守られたサンゴ礁は、豊かさを取り戻した。基礎調査では、200種を超えるサンゴと、少なくとも432種の魚が確認され、新種と見られるサンゴも見つかった。ザンジバル周辺のサンゴ礁を比べた研究では、チュンベのサンゴの種類の多さが最も高かったという。
1998年、海水温の上昇でサンゴが白くなる現象が起き、保護区のミドリイシの仲間は約30%が失われた。それでも2年ほどで回復と新しい成長が目立つようになった。サンゴを食べるオニヒトデが周辺で大発生したときも、保護区ではレンジャーが取り除き続けて、広がりを止めた。
漁師を、海の守り手に
保護区は、地元の協力なしには成り立たない。CHICOPは1990年代の初め、近くの漁村で話し合いを重ね、漁師を雇ってレンジャーに育てることで合意した。レンジャーは、調査やモニタリングの技術、英語、ガイドの技能を学び、ほかの漁師たちに保護区の意味を伝える役を担った。
レンジャーは、海の救助隊の役割も果たしてきた。タンザニアには海の救助の仕組みがないため、嵐やエンジンの故障で困った漁師を助ける。2013年の論文によると、1994年以降、レンジャーが手を貸したり救助したりした漁師は1,000人を超え、船は160隻にのぼる。2005年の聞き取りでは、周辺の漁師の94%が、保護区の魚が外へ出て、まわりの漁獲を増やしていると答えている。
CHICOPの公式サイトによると、島の部屋数は7つだけなのに、1部屋あたりの従業員の数はタンザニアの観光業で最も多い水準で、世界のエコロッジの平均の3倍だという。
子どもたちを、海へ
ザンジバルはサンゴの島なのに、学校ではサンゴ礁の生態をほとんど教えていなかった。CHICOPは1996年から、学校の子どもと先生を島に招く環境教育を続けている。船や車での移動、食事、教材、スタッフまで、費用はすべてCHICOPが負担する。2011年9月までに、4,500人を超える子どもと900人の先生が参加した。大きな浮き具を使い、泳ぐ機会の少ない女の子や女性も、海の中をのぞくことができる。
日本の宿に置き換えると
チュンベ島の教えは、守るためのお金を、宿の稼ぎで計算できる形にすることだ。「何%埋まれば、保全まで賄えるか」を知っていれば、無理に客を増やさずに済む。
InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)として、10室の宿を考える。清掃や里山の手入れなど保全の費用を含めた年間の固定費が1,800万円、1室1泊あたりの粗利が1万5,000円なら、必要なのは年間1,200室泊だ。10室×365日の3,650室泊で割ると、稼働率は約33%。これを超えた分を、保全の上乗せや設備の改良に回せる。
小さな島は、泊まれる人数を絞ることで、海そのものを守る仕組みをつくっていた。
持ち帰れる知識
- 宿の売上で保全を賄えるよう、必要な稼働率から逆算する
- 環境設備も、使いながら測り、直し続ける
- 地元の漁師を守り手として雇い、学校の子どもを無料で招く
宿で考えられること
- 保全や地域活動の費用を含めた「損益分岐の稼働率」を計算する
- 排水や堆肥など、敷地から外へ出るものを一度調べる
- 地元の人に、案内役や見守り役を頼めないか考える
事業・予約への接続
チュンベ島の宿泊は、7棟のバンガローに限られる。客は、元漁師のレンジャーとのシュノーケリングや森の散策を通じて、保護区の仕組みそのものを体験する。泊まることが、そのまま保護区と子どもたちの教育を支える。
Sources / 参考情報
- Marine Policy(英文) - チュンベ島サンゴ公園:ガバナンスの分析(Nordlund, Kloiber, Carter, Riedmiller、2013年1月23日オンライン公開)
裏付け: 1991年設立、7つの政府部局との交渉、1994年12月24日の告示と漁・採取の禁止、世界初の民間MPAとされること、1998年のエコツーリズム開始、7棟と建物の環境設備、排水浄化の改良とリンの収支計算、年間売上約50万ドルと2000年からの自己資金化、稼働率約40%、元漁師のレンジャー、1,000人超・160隻の救助、2005年の94%、200種超のサンゴと432種以上の魚・新種と見られるサンゴ・ザンジバルで最も高いサンゴの多様性、1998年の白化でミドリイシ約30%減と2年での回復、オニヒトデの除去、環境教育の無料提供と2011年9月までの4,500人超・900人、浮き具と女性、灯台からの巡回、武器を持たないレンジャー - チュンベ島サンゴ公園(英文) - 私たちについて
裏付け: 軍の射撃訓練場だった経緯、リードミラー氏、1994年の告示、非営利会社、レンジャーは元漁師、従業員数と部屋数の比率がタンザニアで最も高く世界のエコロッジ平均の3倍 - チュンベ島サンゴ公園(英文) - 環境教育
裏付け: 学校向けプログラムは1996年から、島への日帰り研修の費用をCHICOPが全額負担 - IW:LEARN(英文) - ザンジバルのチュンベ島サンゴ公園:持続可能な海洋公園管理のモデル
裏付け: 木を1本も切らずに自然の空き地だけを使って建設、1990年代初めの村での話し合い