ゴミ箱から始まる発酵:ノーマが「捨てる部分」を調味料に変えた方法
コペンハーゲンのレストラン、ノーマには、厨房と並んで発酵の研究室がある。野菜の皮や搾りかす、肉の切れ端。ふつうなら捨てるものが、そこでは酢や味噌、魚醤のような調味料の材料になる。ホテルの厨房にも持ち帰れる考え方と、その限界を見ていく。
たとえば、夏の終わりの厨房。野バラの花びらを大量に摘み、香りの強いオイルをつくる。オイルを搾ったあとには、同じくらいの量の花びらのかすが残る。料理人は、そのかすを捨てずに、発酵の研究室へ運ぶ。
駐車場のコンテナから始まった研究室
ノーマは2003年に開業し、世界のレストランのランキングで5回1位になった。北欧の土地の食材を、季節に合わせて探し、料理してきた店だ。発酵の研究室は、もとの店の駐車場に置いた輸送用のコンテナの中から始まった。
2018年、店はクリスチャニアの近く、湖のそばの土地に移った。建築事務所BIGが、レストランや試作用の厨房、温室など11の建物を新しく設計し、もともと弾薬の保管に使われていたコンクリートの建物を、仕込みの厨房、発酵の研究室、スタッフの部屋に変えた。新しい研究室では、黄色いエンドウ豆の味噌が1回で約100kg仕込まれ、牡蠣の魚醤は60℃で2週間発酵させる。2018年の取材では、約60℃に保たれた発酵室で、貝やニンニク、古くなったパンまでが発酵されていた。2018年には、研究室の手法をまとめた本『ノーマの発酵ガイド』も出版された。
「ゴミ箱から考え始める」
研究室を率いていたデヴィッド・ジルバーは、2018年、こう書いている。「ノーマの発酵の研究室では、アイデアはしばしばゴミ箱から始まる」。黒ニンニクの皮の山は「バルサミコ風」の酢に、オイルを搾った野菜のかすは黄色いエンドウ豆の醤(ジャン)に、牛のあばら肉を掃除した切れ端は魚醤のような調味料に生まれ変わった。
2014年、創業者は食品ロスをテーマにした催しで、「何も捨てないことが、私たちの料理のきっかけだ」と語っている。2024年の取材では、商品部門「ノーマ・プロジェクト」の最高経営責任者が、レストラン、試作の厨房、発酵の研究室、製造の場が一つの小さな生態系として、廃棄物や副産物を使い切る仕組みを説明している。ある料理で出た残りは研究室に戻り、新しい味に変えられて、また厨房や商品づくりに使われる。
発酵には、限界もある
ジルバーは同じ文章で、正直に限界も書いている。発酵でできた調味料は、塩や酸が強く、少しずつしか食べられない。野バラのかすは、味噌にも、魚醤にも、発酵茶にもなる。それでも、本来の目的であるオイルを使い切るほうが、かすから作った調味料を使い切るよりずっと早い。そのため、研究室には発酵品がたまっていくこともあるという。「廃棄物と、余りものは、同じではない」。発酵は、捨てる量を減らす強い道具だが、すべてを救う魔法ではない、ということだ。
ジルバーは文章の冒頭で、「料理しても、人はそれを食べるだろうか」と問いかけている。そして、ある業界の廃棄物を別の業界が使う道も探るべきだと書く。例として挙げたのは、大きなコーヒー会社が使い終わったコーヒーの粉を香水の工場に売り、残った香りを取り出してもらうという話だ。一つの厨房で使い切れないなら、外の誰かの材料になれないかを考える。
研究室で使い切れない生ごみには、別の出口もある。ノーマは2014年8月、オーストラリアの会社が開発した生ごみの処理機を入れた。微生物の力で、生ごみの量を24時間で90%減らし、土に返せる形にする機械だ。発酵で生かす、堆肥で土に返す。出口を一つに決めないことが大切になる。
2026年のノーマ
ノーマは2024年の終わりに通常の営業を終え、試作と商品開発の拠点になった。2026年3月には、元従業員らによる虐待の告発を受け、創業者が店を離れると表明した。同年8月、ノーマは長く働いてきた料理人たちのもとで、毎月メニューを変える形で営業を再開している。食べものを大切にする仕組みと、働く人を大切にする仕組み。その両方がそろってはじめて、持続可能な厨房と言える。
日本の宿に置き換えると
ノーマの教えは、「捨てる部分」を材料として見る目と、その使い道を出口から逆算することだ。
InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)として、夕食を1日40食出す宿を考える。野菜くずから作った自家製の調味料を1食に小さじ1杯(5ml)使うと、1か月で6L(40食×5ml×30日)。原料が液の量の1.5倍必要だとすると、使う野菜くずは月9kgだ。厨房から出る野菜くずが1日10kg、月300kgなら、発酵で生かせるのは約3%にとどまる。残りは、仕入れや切り方を見直して減らすか、堆肥にして土に返す。
ゴミ箱をのぞくことから始まった研究室は、捨てる前に「これは何になるか」と問う習慣を、厨房に残していた。
持ち帰れる知識
- 捨てる部分を「材料」として見直す
- 発酵品は少しずつしか使えないので、使い道から逆算する
- 発酵、堆肥、仕入れの見直しなど、出口を複数持つ
宿で考えられること
- 1週間、厨房から出る野菜くずの種類と量を記録する
- まかないや朝食で使える調味料を一つ、試作してみる
- 使い切れない分を、堆肥など別の出口につなぐ
事業・予約への接続
ノーマは、研究室と試作の厨房で生まれた調味料を、商品部門「ノーマ・プロジェクト」を通じて販売している。厨房の工夫が、料理だけでなく商品にもなっている。
Sources / 参考情報
- MOLD(英文) - ノーマの研究開発ラボ、発酵の先へ(デヴィッド・ジルバー、2018年)
裏付け: 「アイデアはゴミ箱から始まる」、黒ニンニクの皮・野菜のかす・牛肉の切れ端の行き先、発酵品は少しずつしか食べられないこと、野バラのかすと味噌・魚醤・発酵茶、発酵品がたまること、「廃棄物と余りものは同じではない」、「料理しても食べるだろうか」という問い、コーヒーの粉を香水工場に売る例と業界をまたいだ活用 - Archello(英文) - ノーマ2.0
裏付け: 2018年、湖のそばの土地、元弾薬保管の建物を仕込みの厨房・発酵の研究室・スタッフの部屋に、BIGによる11の新しい建物 - The Boston Globe(英文) - ノーマの発酵ラボの内側(2018年10月15日)
裏付け: 旧店舗の駐車場のコンテナ、エンドウ豆の味噌1回220ポンド(約100kg)、牡蠣の魚醤を60℃で2週間 - The Sydney Morning Herald(英文) - ノーマ、オーストラリア生まれのゼロウェイスト装置を導入(2014年8月14日)
裏付け: Closed Loop社の処理機を導入、24時間で量を90%減らす - CBS News(英文) - ノーマの新しいレストランと発酵ラボの内側(2018年10月17日)
裏付け: 発酵室は華氏約140度(約60℃)、貝・ニンニク・古いパンを発酵 - Food and Wine Gazette(英文) - ボットゥーラとレゼピ、食品ロスを訴える(2014年9月)
裏付け: 「何も捨てないことが料理のきっかけ」 - Foodism(英文) - 発酵は高級料理の未来か(2024年12月2日)
裏付け: ノーマ・プロジェクトのCEO、レナ・ヘネシー氏の発言。ノーマ・プロジェクトは2022年開始、商品は自社の廃棄物削減やアップサイクルから生まれることが多い、レストラン・試作の厨房・研究室・製造が小さな生態系として廃棄物や副産物を使い切る、残りが研究室に戻る流れ - Restaurant Business(英文) - ノーマ、レストランを閉じて食のイノベーション・ラボへ(2023年1月9日)
裏付け: 2024年末までの営業、ノーマ・プロジェクトは2022年に開始、2018年の移転 - The Guardian(英文) - ノーマのシェフ、スタッフへの暴力の告発を受け辞任(2026年3月11日)
裏付け: 2026年3月の辞任表明、2024年末に通常営業を終了 - PBS NewsHour / AP(英文) - ノーマ、創業者不在で再開へ(2026年7月30日)
裏付け: 2003年開業、「新北欧料理」、世界ランキング1位5回、8月5日の再開、長く働いてきた料理人による新体制、毎月変わるメニュー