GOAL 12 · TARGET 12.5 廃棄物・循環経済 3分 / 2032文字 循環を追う #020

屋上の温室で魚と野菜を育てたホテル:アムステルダムの288室が「輪を閉じる」設計

アムステルダムのアムステル川沿いに、288室のホテルがある。2018年に「QO(キューオー)」として開業し、2022年からは「ルビー・エマ」の名で営業している。設計の目標は、エネルギー、排水、材料の「輪」を、できる限り建物の中で閉じることだった。屋上には、魚と野菜を一緒に育てる温室までつくられた。

たとえば、冬の晴れた午後。客が外出した部屋では、窓の外のパネルが静かに動き、日差しを部屋の中へ通す。夕方、冷え込み始めると、パネルは閉じて断熱材の役目をする。客が戻るころ、部屋はちょうどよい温度になっている。

「捨てる前提」を設計から外す

QOは、パウル・デ・ロイテル建築事務所と、ムルダーブラウ建築事務所が共同で設計した。開業当時、ヨーロッパで最初期にLEEDプラチナ認証を取ったホテルの一つになった。LEEDは、建物の環境性能を評価する国際的な認証で、プラチナは最上位にあたる。

建物の中心には、エレベーターや設備をまとめた芯があり、その周りに客室を並べて、どの部屋にもできるだけ日の光が入るようにした。客室の窓は床から天井までのガラスで、20階の部屋でも窓を開けて自然に換気できる。オランダの高層建築の団体によると、建物の明かりの80%を自然の光でまかなう。

空気の輪も考えられた。使い終わった換気の空気から熱を回収して使い直し、その空気に含まれる二酸化炭素は植物に吸わせる計画だった。建材には再生材を使い、できるだけ地元の業者やメーカーから調達する方針をとった。

動く外壁と、地下の熱の貯金

目を引くのは、外壁だ。窓の外に、約1,600枚の可動式のアルミのパネルが付いている。客がいないとき、パネルは外の天気と、客が設定した温度に合わせて動く。寒い日は断熱を足し、日差しで温めたいときは光を通す。設計事務所によると、この仕組みで暖房のエネルギーを65%、冷房を90%減らした。外壁は建物の管理システムにつながり、その情報は清掃や警備、予約の管理とも連携している。

地下70mには、熱をためる仕組みがある。夏の熱を地下の帯水層にためておき、必要なときに温水として取り出す。食器を洗うお湯にも使われる。

水の輪も閉じる。シャワーと洗面台の排水は地下で浄化し、トイレを流す水に使い直す。利用が集中する時間に備えて、地下には10m³の排水をためるタンクがある。雨水は、屋上の温室のハーブに使う。

屋上の温室と、材料の「次の使い道」

屋上の温室では、アクアポニックスという方法で魚と植物を一緒に育てる設計だった。魚のふんが植物の栄養になり、植物が水をきれいにして魚に戻す。とれた野菜やハーブは、ホテルの料理に使われた。開業当時、1階のレストランは温室の収穫に合わせて毎日メニューを調整し、21階のレストランでは、温室の野菜を41℃を超えない温度で調理した料理を出していた。

厨房の機器選びにも、循環の考え方が持ち込まれた。厨房を設計した会社によると、LEEDプラチナの条件を満たすため、水や電気、洗剤の使用量だけでなく、どこでつくられ、何km運ばれてきたかまで、機器ごとに数字で確かめた。大きなコンベアから木の取り皿まで、一つひとつ話し合って選んだという。

厨房から出る生ごみも、輪の中に入れられた。厨房機器のメーカーの事例紹介によると、生ごみは堆肥にして温室で使い、熱と電気をつくるバイオ燃料の発電設備の燃料にもなる。

材料も「次の使い道」を探した。建物に使ったコンクリートの約3分の1は、アムステルダムの旧シェルのビルから運んだものだ。漁網を100%再生したタペストリーで、オランダの海の歴史を表した。

名前が変わっても、建物は残る

2022年、ホテルは投資会社に売却され、運営がルビー・ホテルズに移って「ルビー・エマ」になった。売却時の発表でも、屋上の温室と動く外壁は、ホテルの特徴として挙げられている。一方、屋上の温室とアクアポニックスが今も当時の形で動いているかは、今回、公開情報では確認できなかった。

それでも、動く外壁や地下の熱の仕組みは、建物そのものに組み込まれている。運営者が変わっても残る循環は、設計の段階でしか生み出せない。

日本の宿に置き換えると

QOの教えは、循環を「後から足す設備」ではなく、建物の設計と運営の両方に組み込むことだ。大きな温室がなくても、小さな輪から始められる。

InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)として、1日100食を出す宿が、料理に添えるハーブを屋上や庭のプランターで育てるとする。1食あたり3gなら1日300g、年間で約110kg(300g×365日)。1kgあたり4,000円で買っていたとすると、年間で約44万円分になる。全量をまかなえなくても、半分を育てれば約22万円分。育てる手間と比べて、続けられる量を決めればいい。

屋上の温室から地下70mまで、このホテルは、建物全体を一つの輪として設計していた。

持ち帰れる知識

  • エネルギー・水・材料の「輪」を、設計の段階から考える
  • 生ごみ、排水、雨水に、建物の中での次の使い道を用意する
  • 運営者が変わっても残る循環は、建物に組み込む

宿で考えられること

  • 排水、雨水、生ごみのうち、敷地の中で使い直せるものを一つ選ぶ
  • 改修のときに、解体材や再生材を使えないか設計者に相談する
  • 料理に使うハーブを、少量から自分たちで育ててみる

事業・予約への接続

開業時のQOは、屋上の温室でとれた野菜やハーブを、ホテルのレストランやバーの料理に使った。建物の仕組みそのものが、滞在の体験と料理の物語になっていた。

Sources / 参考情報

  • ムルダーブラウ建築事務所(英文) - QO
    裏付け: 288室、パウル・デ・ロイテル建築事務所との共同設計、ヨーロッパで最初期のLEEDプラチナ認証ホテルの一つ、すべての輪を閉じる目標、グレーウォーターをトイレに、雨水を温室のハーブに、換気の空気の熱回収と植物によるCO2吸収、再生材と地元調達、2018年完成
  • MEIKO(英文) - ホテルQOアムステルダム:徹底した持続可能性
    裏付け: 地下70mの帯水層に熱をため食器洗いの温水などに、シャワーと洗面台の排水をトイレに、屋上温室のアクアポニックスの仕組み、コンクリートの約3分の1は旧シェルのビル、漁網100%再生のタペストリー、生ごみを堆肥とバイオ燃料の発電設備に、1階レストランは温室の収穫に合わせ毎日メニュー調整、21階のジュニパー&キンは41℃以下で調理、LEEDのため機器ごとに水・電気・洗剤の使用量と産地・輸送距離を確認(コンベアから木の取り皿まで)
  • Stichting Hoogbouw(オランダ語) - QOアムステルダム(2019年)
    裏付け: 設備の芯と日当たりのよい客室配置、明かりの80%を自然光、1,638枚の可動パネル、暖房65%・冷房90%減、温室のアクアポニックス
  • Archilovers(英文) - LEEDプラチナのホテル、QOアムステルダム
    裏付け: 288室、2018年完成、厨房で使う食材の一部を屋上温室のアクアポニックスで生産、外壁が客の在室・天気・時間・季節に応じて変化、20階でも自然換気が可能
  • パウル・デ・ロイテル建築事務所(英文) - 私たちの物語
    裏付け: ルビー・エマ(旧QO)の動く外壁、暖房65%・冷房90%のエネルギー削減
  • Equicap Magazine(英文) - 海外のグリーンな宿(2022年9月2日)
    裏付け: 地下70mの季節間蓄熱、シャワー・洗面台の排水を地下で浄化しトイレに、10m³のバッファータンク、外壁と管理システムの連携(清掃・警備・外壁清掃・予約)、屋上温室で野菜・果物・ハーブ
  • Hospitality & Catering News(英文) - トリスタン・キャピタル、QOホテルを9,200万ユーロで取得(2022年5月9日)
    裏付け: 288室、ヨーロッパで最初期のLEEDプラチナ、運営はルビー・グループ、ルビー・エマへの改名、屋上温室・動く外壁・1,600枚の可動パネルを特徴として紹介

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