難民がホテルの仕事を学ぶ:ウィーンの社会的企業ホテルが約100人のキャリアの入口になった方法
ウィーンに、難民として逃れてきた人たちがホテルの仕事を学び、働くホテルがある。カトリック系の支援団体カリタスが2015年に開いた「マグダス・ホテル」だ。運営する会社によると、これまでに約100人の難民経験者が、ここでキャリアを始めた。その多くは今、ほかの職場で働いている。
たとえば、チェックインの時間。フロントに立つ新人は、ドイツ語と英語に加えて、自分の母語でも客を迎えられる。言葉に詰まると、隣の先輩がさりげなく助け船を出す。その先輩も、数年前は同じ場所で仕事を覚えていた。
老人ホームを、ホテルに
マグダス・ホテルは、2015年2月14日、ウィーンのプラーター公園の近くで開業した。建物は、1970年代に建てられた古い老人ホームだ。9か月かけて改修し、費用は150万ユーロ。開業時の客室は78室だった。
改修の予算は限られていた。そこで、古い家具を作り変える「アップサイクル」を徹底した。古い戸棚を切ってベンチにし、使われなくなったドアに鏡を付けて掛け直した。客の荷物を置く棚には、オーストリアの列車の網棚を使った。資金の一部は、インターネットで広く寄付を募るクラウドファンディングで集め、カリタスからの融資を受けた。
開業時の報道によると、働いていたのは、難民として認定された20人と、5人のホテルの専門家、1人の就労支援の担当者。スタッフは16か国の出身で、話せる言葉は合わせて24にのぼった。カリタスの代表は、「合法的にここで暮らす人は、合法的にここで働けるべきだ」と語っている。
1人分の仕事を、1.5人で
このホテルの働き方には、特徴がある。新しく入った人は、働きながら学ぶ1年間の育成の計画に沿って仕事を覚える。そのため、同じ規模のホテルより多くのスタッフで一つのシフトを担う。2017年、運営会社の代表、ガブリエラ・ゾンライトナーは取材に対し、「ほかのホテルなら1人でする仕事を、私たちは約1.5人でしている。だから人件費はほかより高い」と語った。
育成の計画には、バーテンダーなら専門の講習、言葉に不安がある人にはドイツ語や英語の授業を組み込む。ホテルは非営利で、借りたお金を返し、収支を合わせることが求められる。利益が出れば、事業に再投資するという。
人を選ぶときは、難民を支援する団体と協力する。最初から仕事を完全にこなせることは求めない。人前で働く自信があり、心が開かれていて、ある程度ドイツ語ができ、接客に向いた人柄かどうかを見るという。2017年の時点で、フロントの夜勤から始めたアフガニスタン出身のスタッフが、副支配人になっていた。
ゴールは、このホテルに長くとどまることではない。スタッフは2〜3年たったら、オーストリアのほかのホテルでキャリアを続けるよう勧められる。次に来る人のために、席を空けるためだ。ゾンライトナーは、人手がいつも足りないホテル業界が、もっと難民を受け入れるようになることも目標だと語っている。
2017年からは、若い難民経験者を中心に、3つの職種で見習いとして育てる取り組みを始めた。2024年の発表では、2016年に社会になじむための1年間の制度を使ってこのホテルに来て、ドイツ語を学び、見習いと簿記の試験を経て、今はおよそ10人のフロントのチームを率いる人の歩みが紹介されている。
新しい建物へ、そして2か所目へ
最初の建物は、もともと2022年までの一時的な利用が認められた「仮の拠点」だった。ホテルは2022年10月、ウィーン3区の元司祭の住まいだった建物に移った。85室のうち、2室は車椅子で使いやすく、2室は目や耳の不自由な人向けの設備を備える。新しいホテルは、オーストリアの環境ラベルを取得し、地中の熱を使った冷房を取り入れた。椅子は、最初のホテルで使っていたものを、カリタスの作業所で修理して持ってきた。
さらに、最初の建物を環境に配慮して改修し、2027年に2か所目のホテルとして開く計画だ。運営会社は、約40人分の仕事と育成の場が新たに生まれるとしている。
日本の宿に置き換えると
マグダス・ホテルの教えは、「すぐに戦力になる人」だけを探すのではなく、育てる時間を最初から仕組みに入れることだ。人手不足の宿ほど、この発想が効いてくる。
InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)として、10人分の仕事を回している宿が、育成中のスタッフを2人加え、12人で回すとする。1人あたりの人件費が年300万円なら、増えるのは年600万円だ。一方、欠員を人材紹介で埋めるたびに1人あたり80万円かかっていたとすると、年に2人辞める宿なら160万円になる。育てた2人が1年後に一人前として定着すれば、その後の採用の費用と、欠員で止まっていた部屋の売上が戻ってくる。
難民が働くホテルは、人を雇うことを、人を育てることとして設計していた。
持ち帰れる知識
- 1人分の仕事を約1.5人で担い、育てる時間を仕組みに入れる
- 2〜3年でほかのホテルへ送り出し、次の人のために席を空ける
- 一人ひとりに1年間の育成の計画をつくる
- 家具の作り変えで、限られた予算でも個性のある部屋をつくる
宿で考えられること
- 新人とベテランが組む持ち場を、一つ決めてみる
- 採用のたびにかかっている費用と、欠員の期間を記録する
- 外国籍のスタッフの母語を、案内やおもてなしに生かす
事業・予約への接続
マグダス・ホテルは、客室のアップサイクルの家具や、多くの言葉で迎えるスタッフを、ホテルの魅力として打ち出している。泊まることが、そのまま人の育成を支える。
Sources / 参考情報
- VIENNA.AT(ドイツ語) - 難民が働くカリタスの新ホテル「マグダス」開業へ(2015年2月11日)
裏付け: 難民認定を受けた20人・専門家5人・就労支援担当1人、16か国・24言語、カリタス代表の発言、元老人ホームを9か月で改修、150万ユーロ、78室 - マグダス(ドイツ語) - マグダス・ホテル
裏付け: 2015年2月14日開業、2022年10月にウンガーガッセ38へ移転、85室(車椅子対応2室、目や耳の不自由な人向け2室)、椅子をカリタスの作業所で修理、カリタスが2012年に設立した社会的企業グループ - マグダス・ホテル(ドイツ語) - 公式サイト
裏付け: オーストリア環境ラベル、地中熱による冷房、85室、2027年に2か所目、約40人分の仕事と育成 - カリタス(ドイツ語) - マグダスがプラーターに戻り、ウィーンに2軒目のホテルを開く(2024年8月29日)
裏付け: 元介護施設、2022年秋に元司祭の住まいへ、約100人がキャリアを開始、2022年までの一時利用の拠点、2027年の2か所目と約40人分の仕事、2017年からの見習い育成、フロント責任者の歩み - Hotel Management(英文) - 難民が運営するウィーンのホテル、2周年(2017年3月1日)
裏付け: ゾンライトナー氏(マグダス社会的企業グループCEO)の発言、1年間の現場研修のため1シフトのスタッフが多いこと、約1.5人で1人分の仕事・人件費が高いこと、2〜3年でほかのホテルへ、業界に難民の受け入れを広げる目標、難民支援団体との協力と採用の基準、夜勤のフロントから副支配人になったアフガニスタン出身のスタッフ、非営利で借入の返済と収支均衡、利益は再投資、1年間の育成計画と講習・語学、1970年代の老人ホーム、クラウドファンディングとカリタスの融資 - UNHCR(英文) - 元難民がウィーンの客を迎える特別なホテル
裏付け: 元介護施設、戸棚をベンチに・ドアに鏡・列車の網棚、限られた予算でのアップサイクル