GOAL 15 · TARGET 15.1 人・働き方・包摂 4分 / 2161文字 小さな生き物から見る #023

屋上の約25万匹が、街の受粉も支える:バンクーバーのホテルがミツバチを「地域の仕事」にした方法

カナダ・バンクーバーの港に面したホテル「フェアモント・ウォーターフロント」。その3階のテラスに、2,100平方フィート(約195㎡)の菜園がある。2022年に日本経済新聞社の雑誌に載ったカナダ観光局の記事によると、この屋上では、5つの巣箱で約25万匹のミツバチが暮らしている。

たとえば、夏の午後3時。ロビーに集まった宿泊客が、ホテルの「ビー・チーム」の案内で屋上へ上がる。ガラス越しに巣の中が見える観察用の巣箱の前で、誰かが女王蜂を探し始める。同じ記事によると、こうした見学ツアーには、年に1,000人ほどが参加している。

料理長が始めた屋上の菜園

この菜園は、1990年代の半ばに生まれた。バンクーバー市の観光局の記事によると、当時の料理長が始めたもので、市内で最初の屋上緑化になった(開始年はホテルの案内では1995年、観光局の記事では1996年)。野菜とハーブ、リンゴの木が植えられ、ホテルのレストランの料理に使われてきた。

2008年、ここにミツバチがやってきた。フェアモントのホテルで最初期の養蜂で、同じ年にトロントのフェアモントでも巣箱が置かれている。フェアモントはその後、蜂を守る取り組みを各地のホテルに広げ、20か所を超える養蜂場と、20か所を超える野生のハチのすみかを持つまでになった。

ミツバチだけでは、受粉は足りない

このホテルの取り組みで注目したいのは、蜜をつくるミツバチだけを見ていないことだ。

ホテルの案内によると、3階のテラスは、ブリティッシュコロンビア州にもともと暮らす数百種類の「単独で暮らすハチ」のすみかにもなっている。ミツバチのような大きな群れをつくらず、蜜もためないが、花から花へ動いて受粉を助ける。ホテルは彼らを「スーパー受粉者」と呼ぶ。

ミツバチのほうも、屋上の花だけで暮らしているわけではない。ホテルの案内によると、蜜は菜園の草花と、バンクーバーのほかの緑地から集められる。屋上の巣箱は、周りの公園や街路樹、家々の庭とつながって、はじめて成り立つ。ホテルが市内の各所にハチのすみかを置き、地域の団体と組んできたのは、このつながりを自分たちの敷地の外へ広げるためだと読める。

2014年4月、ホテルは単独で暮らすハチの一種、ツツハナバチ(メイソンビー)の仲間のための巣箱を、市内の23か所に置いた。地元で受粉するハチの通り道をつくる「ポリネーター・コリドー」の取り組みだ。翌2015年には、テラスに「ビー・アンド・ビー」と名付けたハチのホテルを建てた。これらは、化粧品ブランドのバーツビーズ・カナダとフェアモントが全国で進めた、カナダ各地に21のハチのホテルを置く取り組みの一部でもある。2016年には、カナダ野生生物連盟が、この屋上を野生生物の生息地として認定している。

ビー・アンド・ビーの材料には、それぞれ地元の物語がある。ホテルの案内によると、木材は先住民のハイダの人たちから贈られ、耐火れんがはダウンタウン・イーストサイドで集められた。丸太はスタンレー公園で倒れた木を市から譲り受け、マルハナバチの巣は、ボランティアがツタや羊毛、落ち葉を編んで作った。

蜂が、人と農家をつなぐ

この取り組みは、「ハイブズ・フォー・ヒューマニティ」という地元の非営利団体と組んで進められてきた。市内でも生活の苦しい人が多いダウンタウン・イーストサイドで、養蜂と菜園を通じて人のつながりをつくる団体だ。ホテルは、フェアモントの社会貢献の助成金を使って団体の活動を支え、団体が冬のあいだも活動を続けられる屋根付きの場所づくりにも関わった。

ミツバチは、街の外の農業にも役立っている。2018年の取材で、ホテルの広報担当者は、州では昔からブルーベリーやクランベリーの受粉を担う虫が足りないと話した。そのため、当時5つあった蜂の群れを4月にブルーベリー農家へ運び、1か月受粉を手伝ってもらってから屋上に戻すという。担当者は「ここは蜂たちの夏休みの場所」と笑っている。

集まった蜜は、観光局の記事によると毎年数百ポンドにのぼる。地元の蒸留所と組んで、屋上の蜂蜜から造るジンも生まれた。夏には、蜂が受粉を支える食材を集めた3皿のコースも出す。

日本の宿に置き換えると

日本でミツバチを飼うなら、まず手続きを知っておきたい。養蜂振興法により、2013年1月からは趣味で飼う人も含めて、毎年1月31日までに都道府県知事への飼育届が必要になった。巣箱を置く前に、地元の県と養蜂家に相談するのが近道だ。

始めやすいのは、ハーブの鉢と、単独で暮らすハチのための小さなすみかだ。すみかは、竹や葦の筒を束ね、雨の当たりにくい日なたに置くだけでもつくれる。あわせて、庭で殺虫剤を使う場所や時期を見直すと、せっかくのすみかが生きる。InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)として、厨房のハーブの仕入れが月2万円の宿が、5〜10月の6か月だけ、その4分の1を屋上や中庭の鉢でまかなえたとする。2万円×1/4×6か月で、年約3万円の仕入れが減る。金額は小さいが、朝食の皿に添える一枝が「この宿の庭のもの」になり、館内を案内する話題が一つ増える。

屋上の約25万匹は、ホテルを、街の受粉と人のつながりの拠点に変えていた。

持ち帰れる知識

  • 蜜をつくるミツバチだけでなく、野生の受粉するハチのすみかもつくる
  • 巣箱の材料を地域から集め、設備そのものを地域の物語にする
  • 地元の非営利団体と組み、ホテルの外の人の仕事やつながりに広げる
  • 夏の見学ツアーと季節のコースで、取り組みを体験として届ける

宿で考えられること

  • ミツバチを飼う前に、県への飼育届と地元の養蜂家への相談から始める
  • 厨房で使うハーブを一種類、鉢で育ててみる
  • 庭に、竹筒を束ねた小さなハチのすみかを置いてみる

事業・予約への接続

フェアモント・ウォーターフロントは、夏の屋上ツアーと、蜂が支える食材のコース、屋上の蜂蜜から造るジンを、泊まる理由と食べる理由に変えている。

Sources / 参考情報

  • フェアモント・ウォーターフロント(英文) - 蜂と菜園
    裏付け: 観察用の巣箱、ブリティッシュコロンビア州原産の数百種類の単独で暮らすハチ、6月1日〜8月31日の毎日のツアー、3皿のコース、ビー・アンド・ビーの材料(ハイダの木材、ダウンタウン・イーストサイドの耐火れんが、スタンレー公園の丸太、ボランティアが編んだマルハナバチの巣)、2014年4月に市内23か所、バーツビーズ・カナダとの全国の取り組みで21のハチのホテル
  • フェアモント・ウォーターフロント(英文) - 屋上の蜂のツアー(2025年。現在は掲載終了)
    裏付け: 毎日午後3時、ロビー集合、2,100平方フィート、1995年から、市内初の屋上緑化
  • フェアモント・ウォーターフロント(英文) - サステナビリティ
    裏付け: 観察用の巣箱、ビー・アンド・ビー、屋上の蜂蜜とハーブ
  • THE NIKKEI MAGAZINE(日本経済新聞社) - バンクーバー 訪れる人をサステナブルな人に変える街(2022年9月15日、カナダ観光局の広告記事)
    裏付け: 5つの巣箱で約25万匹のミツバチ、見学ツアーの参加者は年1,000人ほど
  • デスティネーション・バンクーバー(英文) - 持続可能性に取り組むバンクーバーの2つのホテル
    裏付け: 料理長が1996年に始めた市内初の屋上緑化、野菜・ハーブ・リンゴの木、毎年数百ポンドの蜂蜜、2008年にフェアモント初の養蜂の場、2016年にカナダ野生生物連盟が生息地に認定、ハイブズ・フォー・ヒューマニティ
  • モノクル(英文) - 蜂の健康を支えるブランド(2018年)
    裏付け: 2008年にトロントとバンクーバーのフェアモントで最初の巣箱、2015年に単独で暮らすハチを導入、広報担当者の発言(州の受粉する虫の不足、5つの群れを4月にブルーベリー農家へ、夏休みの場所)
  • ARCレストラン(英文) - 蜂と菜園
    裏付け: 2015年にハイブズ・フォー・ヒューマニティと単独で暮らすハチを導入、フェアモントの助成金、地元の蒸留所と屋上の蜂蜜から造るジン
  • フェアモント「ビー・サステナブル」(英文) - 取り組みの紹介
    裏付け: 2008年に開始、20か所を超える養蜂場と20か所を超えるハチのホテル、2015年にハチのホテルを追加
  • The Incentivist(英文) - フェアモントの持続可能性の鍵は蜂(2021年)
    裏付け: ハイブズ・フォー・ヒューマニティが冬も活動できる屋根付きの常設の場所
  • 神奈川県 - 蜜蜂を飼育する場合/北海道 - 蜜蜂を飼育するには、飼育届の提出が必要です
    裏付け: 業か趣味かを問わず毎年1月31日までに知事へ届出、2013年1月施行の改正養蜂振興法

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