GOAL 7 · TARGET 7.3 エネルギー・脱炭素 3分 / 2050文字 未来から逆算する #024

「発電するホテル」:スヴァルトの設計図から学ぶ、建てて壊すまでのエネルギー収支

ノルウェー北部、北極圏のすぐ上にあるスヴァルティセン氷河。その麓のフィヨルドに、円い輪のようなホテルを浮かべる計画がある。名前は「スヴァルト」。設計したノルウェーの建築事務所スノヘッタは、使うエネルギーより多くのエネルギーを生む「パワーハウス」という基準のホテルを目指した。

このホテルは、2026年10月の時点でまだ開業が確認されていないが、設計図から何を学べるかを考えてみる。

名前の「スヴァルト」は、ノルウェー語で「黒」を意味する。古い北欧の言葉では黒と青が同じ語だったことから、氷河の深く青い氷へのオマージュになっている。スノヘッタの共同創業者キェティル・トレーダル・トーセンは、「このような貴重な環境に建てるには、自然の美しさと動植物を守るという明確な責任がともなう」と語り、珍しい植物、澄んだ水、氷河の青い氷を挙げた。

「60年で元を取る」という基準

パワーハウスは、スノヘッタ、不動産会社のエントラ、建設会社のスカンスカ、環境団体のZERO、設計コンサルタントのアスプラン・ヴィアクによる共同の取り組みだ。スノヘッタの説明によると、パワーハウスと呼べるのは、60年のあいだに、毎日の運用に加えて、建材をつくり、建て、最後に壊すまでに必要なエネルギーの合計より多くの再生可能エネルギーを生む建物だ。

ふつうの「省エネ建築」は、運用中の電気や熱だけを数える。パワーハウスは、コンクリートや鉄をつくる工場で使われたエネルギーや、解体の工事まで数に入れる。建物の一生を、一枚の収支表で見る考え方だ。

設計図に描かれた工夫

スヴァルトの形は、太陽から決まった。スノヘッタは、山に囲まれたこの場所で、日射が1年を通してどう当たるかを詳しく調べた。その結果が円い形の前提になり、客室やレストラン、テラスは、1日と季節の太陽を生かせる位置に置かれた。屋根には、水力発電の電気でつくられたノルウェー製の太陽光パネルを張る。夏の白夜が長い土地なので、年間の発電量は大きくなるという。

たとえば、設計どおりに建てば、夏と冬で窓の役割が入れ替わる。太陽が高い夏は、外壁のテラスが日差しをさえぎり、冷房をいらなくする。太陽が低い冬は、大きな窓から光と熱を取り込む。2018年の発表時の報道によると、暖房には地中の井戸とつないだヒートポンプを使う計画だった。こうした工夫で、年間のエネルギー消費を現代のホテルより約85%減らし、そのうえで自ら発電することを目指した。

建物は、フィヨルドの水面下数メートルまで延びる木の柱で支える。魚を干す木の棚と、漁師が季節ごとに使う小屋という、土地の伝統的な建物から生まれた形だ。柱は自然への影響を小さくし、夏は散歩道、冬はボートやカヤックの置き場を兼ねて、車庫や倉庫を減らす。柱の高さがあるので、カヤックで建物の下をくぐることもできる。2018年の報道では、近くの町ボードーからホテルまで、エネルギーの収支がゼロになる船で客を運ぶ構想も紹介された。泊まる人の移動まで、収支表に入れようとしていたことになる。

計画は、何度も先送りされた

2018年の発表では、翌年に工事を始め、2021年に開業するとされた。設計を担ったスノヘッタは、自社のサイトでこの仕事を「設計の提案」とし、2019年に自分たちの作業を終えたと書いている。2022年には、高級ホテルブランドのシックスセンシズが94室のホテルとして運営すると発表し、開業は2024年とした。ただ、当時の米国の旅行サイトは、運営会社は建設や資金に責任を負わず、それを担うのは開発会社だと指摘している。2026年6月の旅行誌の記事では、開業は早くても2026年末か2027年とされた。

建った例から、収支表を読む

パワーハウスの基準で実際に建った建物もある。スノヘッタが設計し、2019年にノルウェーのトロンハイムで完成したオフィスビル「パワーハウス・ブラットーカイア」だ。英国の建築誌によると、見込みは1㎡あたり年に、使うエネルギーが21kWh、建材などに含まれるエネルギーを年に割り振ると22kWh。これに対して発電は49kWhだ。21+22=43より49が大きいので、一生の収支がプラスになる。数字で見ると、「建てるエネルギー」が、使うエネルギーと同じくらい大きいことがわかる。

日本の宿に置き換えると

スヴァルトの設計図が教えるのは、発電の前に、まず減らすという順番だ。

InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)として、年に30万kWhの電気を使う宿が、屋根に10kWの太陽光パネルを載せるとする。1kWあたり年1,000kWh発電し、すべて館内で使えたとすると年1万kWhで、使う電気の約3%にあたる。1kWhを30円とすれば年約30万円だ。一方、照明や空調、給湯の見直しで使う電気を1割減らせれば、それだけで年3万kWh、約90万円になる。

スヴァルトの設計図は、建物の一生を一枚の収支表で見る目を残していた。

持ち帰れる知識

  • 建物の一生(建材製造・建設・運用・解体)のエネルギーを一枚の収支表で見る
  • まず消費を大きく減らし、そのうえで発電する
  • 夏の日差しをさえぎり、冬の日差しを取り込む窓と外壁の設計
  • 計画段階の「世界初」は、開業までの道のりと分けて見る

宿で考えられること

  • 1年分の電気とガスの使用量を、月ごとに表にしてみる
  • 改修のときは、建材の量と種類も比べる項目に入れる
  • 南向きの窓に、夏だけ日差しをさえぎる庇やすだれを試す

事業・予約への接続

計画は未完成でも、スヴァルトの設計は、エネルギーの収支を建物の形と体験に落とし込む方法を示している。宿の省エネも、窓辺の光や庭の日陰として客に伝えられる。

Sources / 参考情報

関連する記事