直径7mのドームに泊まる:ホワイトポッドが標高1,400mで「少ない材料、少ないごみ」の宿をつくる方法
スイス西部、ヴァレー州のレ・セルニエ村。ダン・デュ・ミディの山並みのふもと、標高1,400mの斜面に、丸いドームの客室が並ぶ。「ホワイトポッド」だ。ドームの色は季節で変わり、冬は雪にとけこむ白、夏は草地にとけこむ緑になる。
たとえば、夕方に着いた客は、受付で車を降り、自分のドームまで歩いて上がる。敷地の中の乗り物をできるだけ減らしているからだ。夜になると、敷地の明かりは控えめになる。光で動物を驚かせないためで、そのぶん星がよく見える。
三角形で、少ない材料で建てる
ホワイトポッドは2004年、アルプスで育った起業家ソフィア・ド・メイエールが始めた。自然と暮らす生き方を、多くの人と分かち合いたいと考えたという。2005年には、責任ある観光の賞を受けている。
客室のドームは「ジオデシック・ドーム」と呼ばれる形だ。公式サイトによると、三角形を網の目のように組み合わせた球の形で、三角形どうしが支え合うため、少ない材料で強い骨組みになる。ドームはすべて同じ大きさで、直径7m、床面積40㎡、天井の高さ4.3m。1棟の重さは220kgだ。
ドームは、木の床台の上に建てられている。米国の建築誌は、床台の上にあるため簡単に取り外せ、土地に残す跡がとても小さいと紹介した。大きな基礎で斜面を掘り返さない建て方は、いつか土地を元に戻せる建て方でもある。
ドームの中も、同じ考え方でつくられている。公式サイトによると、ドームには二人向けのもの、中二階に子ども二人が眠れる家族向けのもの、長く泊まる人向けの広めのものがある。「スイス・スイート」と名付けたドームは、古い木材やカウベル、わらを使い、スイスらしい雰囲気に仕上げた。新しく買いそろえるのではなく、土地に昔からある素材を生かしている。
公式サイトは、ドームが省エネになる理由を二つ挙げる。一つは、角がないので中の空気がよどまず、少ないエネルギーで空気を回して温度を保てること。暖房と冷房に要るエネルギーは、ふつうの建物より約30%少ないと説明している。もう一つは、表面の面積に対して中が広いので、少ない材料で多くの空間を包めることだ。
ごみを「出さない」買い方
ホワイトポッドの取り組みは、ごみの量を、捨てる段階ではなく、買う段階で減らすところに特徴がある。
公式サイトによると、品物はできるだけまとめて買い、包装を減らす。ワインや肉は地元の業者から買い、ほかの食材も、まず地元、次にヨーロッパの業者の順で選ぶ。使うのは季節のものだけで、魚は持続可能な漁業の認証を受けたものに限る。出たごみは、生ごみとそれ以外に厳しく分ける。
エネルギーと水にも、小さな工夫を重ねる。暖炉は扉付きにして薪の減りを遅くし、電気製品は省エネの等級が高いものを選ぶ。蛇口とシャワーには節水の器具を付け、湯沸かしの機械にはタイマーを付ける。暖房には、再生可能な木の燃料を使う。
公式サイトは、客に地元の動植物を守る大切さを伝えることも、取り組みの一つに挙げている。泊まる人が分別や節水に手を貸してくれれば、宿だけで減らすより効果は大きくなる。
山小屋は、地元の木と地元の手で
ドームのほかに、ホワイトポッドには、グループや家族向けの山小屋もある。公式サイトによると、山小屋は地元の職人とだけ組んで建てた。外壁にはスイスの森のカラマツを使い、ほかの材料もすべて地域でつくられた。水は湧き水でまかなう。
材料を遠くから運ばなければ、運ぶための燃料も、梱包の材料も減る。壊れたときに直せる職人が近くにいることも、長く使い続けるための備えになる。
車がなくても、たどり着ける
宿までの移動も、環境への負荷のうちだ。公式サイトのアクセス案内は、公共交通での行き方から説明を始める。ジュネーブ空港の駅から列車でエーグルへ行き、地域の列車に乗り換えてモンテーへ。モンテーの駅からは63番のバスが、終点のレ・セルニエまで上がる。車ならモントルーから45分、ジュネーブ空港から1時間30分ほどだ。山の上の宿でも、列車とバスで来られる道筋を示しておけば、客は車を置いてくるという選択ができる。
日本の宿に置き換えると
日本では2022年4月1日、プラスチック資源循環促進法が施行された。ホテルや旅館が客に出す歯ブラシ、ヘアブラシ、くし、かみそり、シャワーキャップは、使い方を見直す対象の製品になった。年に5トン以上を出す事業者は、取り組みが著しく足りなければ、勧告や命令を受けることもある。
InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)として、20室で稼働率70%の宿なら、年に約5,110室泊になる。1室泊あたりの個包装のアメニティが60円、大きなボトルへの詰め替えにすると25円とすれば、差は35円。年に約18万円の仕入れが減り、捨てる小袋も同じだけ減る。
標高1,400mのドームは、少ない材料で建て、少なく買い、少なく捨てる宿が、ぜいたくな体験にもなることを示していた。
持ち帰れる知識
- 三角形の骨組みで、少ない材料で強い客室をつくる
- 床台の上に建て、土地を元に戻せるようにする
- ごみは、捨てる段階より買う段階で減らす
- 夜の明かりを控え、敷地の中の乗り物を減らすことを体験に変える
宿で考えられること
- 1か月分のごみを、包装・生ごみ・アメニティに分けて量ってみる
- よく使う消耗品を一つ、まとめ買いか詰め替えに切り替えてみる
- 夜の外灯を見直し、星が見える時間をつくってみる
事業・予約への接続
ホワイトポッドは、歩いてドームへ向かう道のりや、季節で色が変わるドーム、控えめな夜の明かりを、環境への配慮であると同時に、ここでしかできない体験として打ち出している。
Sources / 参考情報
- ホワイトポッド(英文) - コンセプトと持続可能性
裏付け: 三角形の網の目の球、少ない材料、全ドーム同じ大きさ(直径7m・40㎡・天井4.3m・220kg)、暖房と冷房のエネルギーが約30%少ない、面積に対して中が広い、山小屋は地元の職人とスイスのカラマツ・地域の材料・湧き水、扉付きの暖炉・高い省エネ等級・節水器具・タイマー、地元のワインと肉・地元次にヨーロッパ・季節のもの・持続可能な漁業の認証の魚、まとめ買いで包装を減らす、生ごみの分別 - ホワイトポッド(フランス語) - トップページ
裏付け: 季節で変わるドームの色(冬は白・夏は緑)、夜の明かりを控える、受付からドームまで歩く、再生可能な木の燃料の暖房、客に地元の動植物の保護を伝える - ホワイトポッド(英文) - アクセス
裏付け: ヴァレー州レ・セルニエ、ダン・デュ・ミディのふもと、ドームは標高1,400m、ジュネーブ空港駅からエーグル・モンテー経由、63番のバスで終点レ・セルニエ、モントルーから45分・ジュネーブ空港から1時間30分 - ホワイトポッド(英文) - ドームの客室
裏付け: 二人向け・中二階に子ども二人の家族向け・長期滞在向けのドーム、スイス・スイートの古い木材・カウベル・わら - ホワイトポッド(英文) - 山小屋
裏付け: 最大8人で泊まれる山小屋 - Architect Magazine(英文) - スイスのリゾートの環境にやさしいスパ
裏付け: 創業者ソフィア・ド・メイエール、木の床台の上にあり簡単に取り外せる、2005年の責任ある観光の賞 - europa.tips(英文) - ホワイトポッド(2026年1月20日)
裏付け: 2004年の創業 - 広島県 - プラスチック資源循環法
裏付け: 2022年4月1日施行、特定プラスチック使用製品12品目(ヘアブラシ・くし・かみそり・シャワーキャップ・歯ブラシを含む) - 全日本ホテル連盟 - プラスチック資源循環促進法について
裏付け: ホテルは5品目が対象、年5トン以上で取り組みが著しく不十分な場合の勧告・公表・命令・罰則