放牧地を、蘭372種の森に戻す:マチュピチュのインカテラが、庭から町のごみまで手を広げた方法
ペルー、マチュピチュ遺跡のふもとの町。雲霧林の中に、83棟の日干しれんがの家が並ぶホテル「インカテラ・マチュピチュ・プエブロ」がある。50年前、この土地は牛の放牧と茶の栽培に使われていた。今、その庭には372種の在来の蘭が育つ。
たとえば、朝の散策路。ガイドが足を止め、木の幹に張りついた小さな花を指さす。客がのぞきこむと、花は指先ほどの大きさしかない。この庭では、こうした花の中から、新しい種が見つかってきた。
森を戻すところから始めた
インカテラは1975年から、ペルーでエコツーリズムを切り開いてきた会社だ。創業者のホセ・コエチリンは1976年、アンデスの雲霧林の中に25エーカー(約10ヘクタール)の土地を手に入れ、このホテルを建て始めた。
会社によると、土地はもともと放牧と茶の栽培に使われていた。インカテラは、シダやパイナップルの仲間の植物、ヤシ、そしてケニュアルやピソナイといった在来の木を植え、雲霧林の命のめぐりを取り戻そうとした。森が戻るにつれ、ホテルの敷地は、町の中にありながら、世界でも生き物がとくに豊かな場所の一つになった。
庭が、研究の現場になる
米国蘭協会によると、この庭は、在来の蘭を自然の環境のまま集めた場所として世界最大で、372種が記録されている。鳥は、野鳥の記録アプリ「イーバード」で311種。イワドリや18種のハチドリも見られる。チョウは111種が確認されている。
庭は、研究の現場でもある。会社の研究部門「インカテラ協会」の研究者たちは、この庭の散策路で新しい種の蘭を見つけてきた。2025年3月、会社は、マチュピチュの名を冠した小さな蘭が、新種として科学誌に発表されたことを伝えた。標高2,000〜2,500メートルで木の幹に着いて育つ、珍しい種だ。長いあいだ別の種と混同されていたが、研究者たちが標本や文献を細かく調べ、新種だと確かめた。これで、この庭から見つかった新種の蘭は27種になった。社長のコエチリンは「科学の研究こそが、生き物の多様さを守り、持続可能な発展を支える柱だ」と話している。
研究は、庭の外にも届いている。2023年8月、インカテラ協会はシンガポールの植物園「ガーデンズ・バイ・ザ・ベイ」で、マチュピチュの蘭の展示を開いた。7か月で170万人が訪れ、ペルーの文化と自然を紹介した展示として、これまでで最も多くの人を集めたという。
放牧地だったころの名残も、生かされている。会社によると、土地には100年前からの茶畑があった。木陰で育てて土の力を保ち、昔ながらの方法で茶をつくる。この有機の茶は、2023年にパリの品評会で金賞を、2024年には銀賞を二つ受けた。
町のごみに、手を広げる
森を守るには、ホテルの敷地の外にも目を向ける必要があった。協会によると、マチュピチュの町は、ごみの処理で危機に直面していた。
インカテラ協会は、ペルーの飲料会社AJEグループ、マチュピチュの町役場と組み、「サステナブル・マチュピチュ」という取り組みを始めた。協会によると、町の固形ごみのほとんどを責任を持って処理する、ペルーと中南米で最初の町にすることを目指した。
最初に、ペットボトルを圧縮する機械を寄贈した。会社によると、1日14トンのプラスチックごみを処理できる。
次に、2018年、ホテルの敷地の中に、使い終わった食用油からバイオディーゼルをつくる施設を開いた。協会によると、町の家や宿、レストランから集めた油を、毎月6,000リットル処理し、毎日20ガロンのバイオディーゼルをつくる。油が町を流れるビルカノタ川に流れ込むのを防ぐためだ。協会は、1リットルの油が1,000リットルの水を汚すという研究を紹介している。町でつくった燃料を使えば、約1,150キロ離れた首都リマから燃料を運ぶ必要も減る。つくる途中で出るグリセリンは、町役場に贈られ、石畳の掃除に使われている。
さらに、生ごみを処理する施設も開いた。酸素のない状態で高い温度をかけて分解し、「バイオ炭」という肥料に変える。協会のページでは、処理できる量は1日8トン(2019年の報道では7トン)。肥料は、雲霧林の植林や、町の農業に使われる。町で処理するので運ぶ費用がかからず、つくる費用は肥料の市場価格より安いため、町にとっても利益になるという。
日本の宿に置き換えると
すべての宿が森を持っているわけではない。けれど、庭や裏山の生き物を調べ、客に見せることはできる。
InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)として、20室の宿が、庭と裏山を1時間で歩く自然ガイドを1回2,000円で始めるとする。1日平均3人が参加し、年に300日開けば、年に180万円の売上になる。案内するスタッフの時給を1,500円とすると、人件費は年に45万円。差し引き135万円が、庭の手入れや生き物の調査に回せる。庭で見つけた花や鳥の記録は、地元の研究者や学校と分け合うこともできる。
散策路の小さな花は、50年かけて戻ってきた森の一部だ。インカテラは、その森を守るために、町のごみまで引き受けていた。
持ち帰れる知識
- 在来の植物を植え戻すと、生き物が戻ってくる
- 庭を、研究者と一緒に調べる場所にする
- 宿の外のごみの問題に、町や企業と組んで取り組む
- ごみから生まれたものを、町の役に立つ形で返す
宿で考えられること
- 庭や裏山の植物と鳥を、季節ごとに記録してみる
- 地元の研究者や学校に、庭の調査を呼びかけてみる
- 使い終わった食用油の回収を、近くの店と一緒に考えてみる
事業・予約への接続
インカテラ・マチュピチュ・プエブロは、蘭の庭や茶畑、鳥を探す散策を、滞在中の体験として用意している。森を戻してきた歩みそのものが、客を呼ぶ理由になっている。
Sources / 参考情報
- インカテラ(英文) - ニュースレター 2025年3月
裏付け: 新種の蘭の発見(標高2,000〜2,500メートル、着生、別の種との混同、標本と文献の分析)、新種27種、社長の言葉、1975年からの先駆者、放牧と茶の栽培、1976年からシダ・パイナップルの仲間・ヤシ・ケニュアル・ピソナイで回復、町の中で生き物が豊かな場所、米国蘭協会による世界最大の在来の蘭(372種)、イーバードで鳥311種、チョウ111種、2023年の金賞と2024年の銀賞二つ、ガーデンズ・バイ・ザ・ベイでの展示(2023年8月、7か月で170万人)、83棟の日干しれんがの家、イワドリと18種のハチドリ - インカテラ(英文) - インカテラの有機の茶(2024年12月10日)
裏付け: 1976年に25エーカーの土地を取得、100年前からの茶畑、木陰で育てて土の力を保つ、昔ながらの方法 - インカテラ協会(英文) - サステナブル・マチュピチュ
裏付け: AJEグループと町役場との連携、固形ごみのほとんどを責任を持って処理するペルーと中南米で最初の町、2018年にホテルの敷地内にバイオディーゼルとグリセリンの施設、毎日20ガロン、毎月6,000リットル、ビルカノタ川、1リットルの油が1,000リットルの水を汚す、リマから1,150キロ、グリセリンを町役場へ、生ごみを1日8トン処理するバイオ炭の施設、植林と農業、町にとっての利益 - インカテラ(英文) - ニュースレター 2018年12月
裏付け: 1日14トンのプラスチックを処理する圧縮機の寄贈、町で最初のバイオディーゼル施設をホテルに、ビルカノタ川への流出を防ぐ - ETBトラベルニュース(英文) - マチュピチュ・プエブロ、固形ごみを100%管理(2019年4月23日)
裏付け: 生ごみの施設は1日7トン