GOAL 12 · TARGET 12.8 地域・文化・コミュニティ 3分 / 2046文字 足りるを知る旅 #034

客の寄付が、丘の上の僧院の教室になる:シックス・センシズ・ブータンが5つのロッジで伝えていること

ヒマラヤの王国ブータン。「シックス・センシズ・ブータン」は、一つのホテルではない。首都ティンプー、プナカ、パロ、ガンテイ、ブムタンの5か所に、それぞれ別の小さなロッジを持つ。客は、最大で5つのロッジに泊まりながら国を巡る。ガンテイのロッジがあるポブジカの谷には、冬になるとオグロヅルが渡ってくる。シックス・センシズは、この旅を「カムサ(王の散歩)」と呼んでいる。

たとえば、プナカの朝。客が宿を出て、丘の上の古い僧院へ坂道を登っていく。手描きの壁の向こうから、若い見習い僧たちの声が聞こえてくる。

大勢を呼ばない国の観光

シックス・センシズが2024年に公開した記事によると、ブータンはこの年、持続可能な観光のために国境を開いて50年を迎えた。この国の道路や設備は、大勢の観光客を受け入れられるようにはできていない。そして国も、それを望んでいない。首都ティンプーにさえ、ファストフードのチェーン店も信号もない、と記事は紹介する。観光は、自然と文化を守りながら、経済や雇用、教育、医療を支える手段として位置づけられている。記事は、ブータンを世界で最初に「カーボン・ネガティブ」になった国だと紹介し、国土のおよそ70%が今も森に覆われていると書く。

同じ記事には、ブータンの作家アウム・クンザン・チョデンの言葉が載っている。「この世界は、だれか一人のものではなく、私たちみんなのものだ」。そして、「もっと、もっと、と求めることだけではない。何があれば足りるのかをはっきり見ることには、大きな意味がある」と語った。

土と石と木で建てる

5つのロッジの設計は、タイ・バンコクの建築事務所ハビタ・アーキテクツが担当した。事務所の説明によると、課題は、それぞれのホテルを周りの土地に合わせ、しかも一つひとつに個性を持たせることだった。たとえばプナカでは、あたりに広がる田んぼを設計に取りこんだ。

事務所は、ブータンの伝統的な家を「持続可能な建築のすぐれた例」と呼ぶ。材料は木、石、土。どれも地元に豊富にあり、持続可能な形で手に入る。土をつき固めてつくる「版築」の壁は熱を伝えにくく、部屋の中の温度を一定に保つ。

建築の紹介サイトに載った説明によると、ブータンには、建物が「ブータンらしさ」を表すことを求める決まりがあり、地元の当局が設計を確かめて許可する。プナカのロッジは、昔ながらの版築で建てた。地域に伝わる建て方を残すためだ。宿に着くまでの道にも、土地の植物を使った。ティンプーは桜、プナカは段々の田んぼ、ガンテイはシャクナゲ、ブムタンは松の森、パロはリンゴの果樹園だ。

客の寄付が、僧院に届く

運営でも、地元とのつながりを大切にしている。シックス・センシズのブータンのサステナビリティのページによると、食べ物や品物はできるだけ地元から仕入れ、地元の農家や職人を支える。料理はロッジの有機の菜園の野菜を取り入れ、季節ごとに献立を変える。

地域とのかかわりは、客の寄付を通じて行う。その一つが、プナカの丘の上にある16世紀の僧院「チョルテン・ニンポ」への支援だ。最近の取り組みとして、ページは、屋内の教室と、夏に使う屋外の読書のあずまや二つ、休み時間のためのサッカー場、170人の僧侶が使う食堂と台所の改修を挙げている。2階建ての図書館も建てている途中だという。

ロッジの体験の紹介では、この僧院を、約50人の若い見習い僧と5人の先生が暮らす共同体として紹介している。サステナビリティのページの数字とは違い、どちらが今の人数かは、ページからはわからない。客は僧院を訪ね、僧と一緒に朝食をとることができる。僧院を率いるラマ・ナドは、国からの資金に加えて自分で資金を集め、僧たちの教育や食事、衣服、住まいをまかなっている。大学までの授業、新しい寮、図書館をつくる計画もある。ロッジは地域を再生するための基金を通じて僧院に資金を出し、客が訪ねることも、さらに直接の支えになる。2024年の記事では、客からの資金にも支えられて、計画が進んでいると伝えている。記事を書いた一行が訪ねると、見習い僧たちは、僧院の壁の外の世界のことを熱心に知りたがったという。

日本の宿に置き換えると

地元の寺や学校、図書館の小さな取り組みを、宿の客と一緒に支えることはできる。大切なのは、寄付がどこに届き、何になったのかを、客に見せることだ。

InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)として、30室の宿で稼働率を70%とすると、年に7,665室泊。チェックアウトのときに1泊100円の寄付をお願いし、3割の客が応じたとすると、約2,300件で年に約23万円になる。地元の小学校の図書室に本を贈るなら、1冊1,500円として約150冊分だ。贈った本の写真を館内に貼れば、次の客にも、寄付の行き先が伝わる。

丘の上の僧院の教室は、客の寄付から生まれた。旅の満足は、どれだけ受け取ったかだけでなく、何を残せたかでも測ることができる。

持ち帰れる知識

  • 地元の材料と建て方は、そのまま宿の個性になる
  • 寄付は、行き先と成果が見えると続けやすい
  • 地域の人と会う体験が、客にとっての学びになる
  • 「何があれば足りるか」を考える旅を提案できる

宿で考えられること

  • 地元の寺や学校、図書館で、宿が支えられる小さな取り組みを探す
  • チェックアウトのときの任意の寄付と、行き先の報告を用意してみる
  • 館内の建材や家具で、地元の材料を使っているものを客に紹介する

事業・予約への接続

シックス・センシズ・ブータンは、5つのロッジを巡る旅そのものを商品にしている。僧院での朝食のような地域の人と会う体験は、他では得られない泊まる理由になり、客の寄付は地域の支えにもなっている。

Sources / 参考情報

  • Six Senses(英文) - シックス・センシズ・ブータンのサステナビリティ
    裏付け: 地元の仕入れ、農家と職人の支援、有機の菜園と季節の献立、客の寄付による地域とのかかわり、プナカの16世紀の丘の上の僧院、屋内の教室、夏の屋外の読書のあずまや二つ、サッカー場、170人の僧侶の食堂と台所の改修、2階建ての図書館の建設
  • Six Senses(英文) - 僧侶との朝食
    裏付け: 車か朝の散歩で行ける丘の上、約50人の若い見習い僧と5人の先生、ラマ・ナド、国の資金に加えた資金集め(教育・食事・衣服・住まい)、大学までの授業・新しい寮・図書館の計画、基金による資金、訪問による直接の支え
  • Six Senses(英文) - ブータンで学ぶ人生の教訓(2024年7月16日)
    裏付け: 持続可能な観光のための開国50年、大勢の観光客を受け入れない方針、カムサと最大5つのロッジ、ティンプーにファストフードのチェーン店と信号がない、ポブジカの谷のオグロヅル、見習い僧たちとの交流、カーボン・ネガティブと国土の約70%の森、アウム・クンザン・チョデンの言葉、客の資金に支えられた僧院の計画の進み具合
  • Habita Architects(英文) - シックス・センシズ・ブータン
    裏付け: 5か所、それぞれの土地に合わせた個性、プナカの田んぼ、伝統的な家と持続可能な建築、木・石・土、版築の壁の断熱と一定の温度
  • Archello(英文) - シックス・センシズ・ブータン
    裏付け: 「ブータンらしさ」を求める決まりと当局の確認、プナカの版築と伝統の建て方、到着までの道の植物(桜・段々の田んぼ・シャクナゲ・松の森・リンゴの果樹園)

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