15年たったら、ばらして別の場所へ:ユトレヒトのレストラン「ザ・グリーンハウス」が、照明を「使った時間」で借りる理由
オランダ・ユトレヒト。中央駅のすぐそばに、ガラス張りの2階建ての建物がある。レストランと会議室、屋内の菜園を備えた「ザ・グリーンハウス」だ。2018年4月に開業した。ホテルではないが、宿の建て方と備品の持ち方を考えるうえで、参考になる例だ。この建物は、最初から15年たったらばらして、別の場所で建て直せるように設計されている。
たとえば、昼どきの店内。厨房の上の大きな文字を見上げた客が、店の人から、もとは隣の建物の看板の文字だったと聞いて驚く。
空き地を、15年だけ使う
建築の紹介サイトに載った設計事務所の説明によると、始まりは隣の建物の改修だった。オランダの設計事務所セペゼッドは2014年、古い兵舎「クノープ兵舎」を国の新しい庁舎に改修する仕事を任された。国の不動産を管理する機関は、兵舎と隣の銀行の本社のあいだの土地についても、案を求めた。この土地の最終的な使い道は、15年後に決まる。それまで空き地のままにせず、にぎわいをつくる仮の使い方が求められた。
そこで生まれたのが、この建物だ。建設会社のストルクトンとバラスト・ネダム、外食・給食の会社アルブロンが立ち上げた計画で、店はアルブロンが運営している。
古い窓ガラスで、建物の寸法を決めた
建物は、ばらして組み直せる部品の組み合わせとして設計された。骨組みは、さびにくい加工をした鋼材で、取り外せる。2018年の技術誌の記事で、設計者のロナルド・スフルールホルツは、柱と梁をすべて同じ長さにしたと説明している。使い道が変わっても、組み替えられるからだ。基礎もコンクリートの既製品のブロックで、鉄筋を入れていない。15年後に運ぶとき、材料を傷めないためだ。
外壁の大きなガラスは、すべて改修した兵舎の窓から外したものだ。スフルールホルツは「ガラスの大きさが、建物の寸法まで決めた」と話す。角の部分もガラスを切らずに、まるごとの板で組んだ。外壁には、あとでばらすときに散らからないよう、発泡剤の接着を使わなかった。1階の床には、オランダの町ティールの古い岸壁のれんがを、中の壁と引き戸には古い事務所の建物のものを使った。店の公式サイトによると、厨房やバーの天井には古いドアを使っている。厨房の上の標語の文字も、兵舎の正式な名前の文字を並べ替えたものだ。
一方で、基礎のように新しい材料も使っている。スフルールホルツは「大事なのは、ときどき新しい材料を使うことになっても、使う材料をできるだけ少なくすることだ」と語った。
いすではなく、「座ること」を借りる
この建物でとくに注目されたのが、「使った分だけ払う」仕組みだ。技術誌の記事によると、運営するアルブロンは、建物の中の設備や家具をすべて借りている。品物の持ち主は納めた会社のままで、15年後に引き取る。たとえば照明は、電球ではなく明かりをつけた時間に、いすは、いすそのものではなく使った分に支払う。
厨房では、同じ規模の普通の店に比べて、調理の機器を4割減らした。電気は屋根の太陽光パネルでまかなう。調理には、国の森林を管理する機関から出る木くずを燃やすピザ窯と、オリーブの種でつくった燃料を使うオーブンを使う。食べ残しを堆肥にする機械も置いた。アイスクリームは、製油所で副産物として出る液体窒素で冷やしてつくる。運営会社の紹介によると、客は料理を、味や値段だけでなく、二酸化炭素の排出や地元産かどうかといった基準でも選べる。2階には80平方メートルの温室の菜園があり、野菜とハーブを育てて料理に使う。温室の世話は、専門の会社が担っている。室内の大きな植物の壁は、室内の空気をよくする役目も果たす。
計画を担当したロヒール・ヨーステンは、2018年に「完全に循環させることは、今はまだできない。できることを、できるだけやっている」と話した。考え出した技術や考え方は、ほかの人が自由に使ってよい、とも語っている。開業5年目の2023年のインタビューでは、開業から働くスタッフのロヒールが「まず、手元に何があって、何に使えるかを考える。それでも必要なら、中古品を探す」と答えた。建物を見学したいという依頼は多いという。
日本の宿に置き換えると
宿でも、「新しく買う前に、手元のものと中古品を探す」ことから始められる。
InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)として、客室のいす20脚を入れ替えるとする。新品を1脚3万円で買えば60万円。中古品を探して張り替え、1脚1万2,000円で整えられれば24万円で、差は36万円になる。古いいすも捨てずに、引き取ってくれる業者や、次に使う人を探す。照明や空調も、入れ替えの前に、機器を「借りる」契約ができないか、業者に聞いてみる価値がある。
15年たてば、この建物はばらされ、部品は次の場所へ移る。建てるときから、ばらすときのことを考えておけば、建物はごみにならない。
持ち帰れる知識
- 建てるときから、ばらすときのことを考える
- 手元にある材料の寸法から、設計を考える
- 品物を買わずに「使うこと」を買う契約がある
- 完全でなくても、できることからやる
宿で考えられること
- 備品を買い替える前に、館内に使えるものがないか探す
- 家具や照明を、借りる契約ができないか業者に聞いてみる
- 古い家具の引き取り先を、捨てる前に探す
事業・予約への接続
ザ・グリーンハウスでは、循環の仕組みを見たい企業や見学者が多く訪れる。建物そのものが、店を知ってもらう理由になっている。
Sources / 参考情報
- e-architect(英文) - ユトレヒトのザ・グリーンハウス
裏付け: 2018年4月9日の開業、レストランと菜園と会議室、ストルクトン・バラスト・ネダム・アルブロンの計画、設計事務所セペゼッド、2014年の兵舎の改修の依頼、国の不動産の機関、15年後に使い道が決まる土地、ばらして別の場所で建て直せる、取り外せる鋼材の骨組み、兵舎のガラスの寸法、80平方メートルの菜園 - De Ingenieur(英文) - ユトレヒトの循環型レストラン(2018年4月12日)
裏付け: 中央駅のそば、標語の文字(兵舎の名前の並べ替え)、ガラスで寸法を決めたこと、切らずに組んだ角、発泡剤の接着を使わない、同じ長さの柱と梁、鉄筋のない基礎、ティールの岸壁のれんが、古い事務所の壁と引き戸、スフルールホルツとヨーステンの言葉、使った分だけ払う仕組み(照明の時間、いすの利用)、15年後の引き取り、調理機器4割減、液体窒素のアイスクリーム、温室の世話をする会社、植物の壁、太陽光、木くずとオリーブの種の燃料、堆肥の機械 - The Green House(オランダ語) - 未来のために建てた建物
裏付け: 15年後に新しい行き先、ばらせる建物、兵舎のガラス、古いドアの天井、借りる・使った分だけ納める仕組み、2階の菜園、運営はアルブロン - Albron(オランダ語) - ザ・グリーンハウス:建物から献立まで循環
裏付け: 味・値段と、二酸化炭素の排出や地元産かどうかといった基準で料理を選べる - cepezed(英文) - ザ・グリーンハウスの5年(2023年2月10日)
裏付け: 開業から働くスタッフの言葉(手元のもの、中古品)、見学の依頼が多いこと