ホテルより先に、生物学者がいた:エクアドルのマシュピ・ロッジが26の新種を記載した方法
エクアドルの首都キトの北西、アンデス山脈の西の斜面に広がる雲霧林に、「マシュピ・ロッジ」がある。ガラス張りの建物に泊まれるのは、最大47人。ロッジは3,200ヘクタールの私設保護区の中にあり、この一帯は、世界でも生き物の種類が特に多い地域として知られる。公式サイトによると、ユネスコの生物圏保存地域にも含まれ、ここにしかいない種の割合が地球上で最も高い地域の一つだという。
たとえば、夜の森の小道。ガイドがライトで葉の裏を照らすと、体の透けた小さなカエルがじっとしている。客は息をのむ。その横でガイドは、この森で見つかった新しい種の話を始める。
ロッジが開く前に、研究が始まった
公式サイトによると、マシュピの物語は2001年、700ヘクタールの土地を買い、守る保全の取り組みとして始まった。2010年にホテルの建設が本格的に始まると、同じ年に、保護区で最初の常駐の生物学者を雇った。ロッジが客を迎えたのは2012年だ。
最初の生物学者は、テントで寝泊まりしながら森を調べたという。地元のレンジャーや協力する研究者と一緒に、どんな生き物がいるかを数え、記録していった。初期の取り組みの一つが、自動で撮影するカメラを森に仕掛けることだった。人前に出てこない動物の数や行動を知るためだ。
調査を始めて5年ほどで、最初の大きな知らせが届いた。科学的に知られていなかった、新しい種のカエルだ。森を調べ続けてきたことが、目に見える成果になった瞬間だった。公式サイトは、この発見が始まりにすぎなかったと書く。
ロッジは、研究を客の体験の土台にすると決めていた。森のことを知るほど、ガイドが客に伝えられることも増える。公式サイトは、研究者が生んだ知識がガイドの案内を豊かにし、この地域を守る必要性を伝えることにつながっていると説明している。
研究の場は、客の目の前にもある。ロッジの「ライフ・センター」にはチョウを育てる施設があり、客は卵からチョウになるまでの変化を観察できる。公式サイトは、客が見るだけでなく、ボランティアとして時間を使ったり、研究の道具を寄付したりして関われる方法も、増やそうとしていると書いている。
26の新種と、60を超える論文
いま、研究と生物学の部門は6人になった。エクアドルや世界の大学に何十もの協力者がいて、学部生や大学院生が研究に訪れる。公式サイトによると、10年あまりの研究で、科学的に知られていなかった26の種を新しく記載し、804を超える種の植物を記録した。発表した論文は60を超える。
記録した生き物の一覧を見ると、この森の豊かさがわかる。公式サイトによると、保護区で確認された鳥は411種、カエルなどの両生類は49種、ランは153種、哺乳類は98種にのぼる。チョウやガは約323種だ。
2018年からは、生態学者が研究の部門を率いている。植物の研究や、食べられるキノコ、小さなすみかの再生といった、暮らしや持続可能性に役立つ研究にも力を入れた。協力してきた大学には、キトの大学のほか、イギリスのオックスフォード大学やケンブリッジ大学、アメリカのカリフォルニア大学バークレー校などがある。何百人もの学生が、この保護区で訓練を受け、野生の生き物に直接触れてきた。
この成果を、宿泊料金が支えている。公式サイトは、客が泊まることが、ロッジの研究チームの資金を直接まかなっていると説明する。
研究は、森で暮らしてきた人たちの仕事も変えた。かつてこの森で木を切り、狩りをしていた人たちが、自然を案内するガイドや、研究を手伝う「パラバイオロジスト」として訓練を受けた。森を誰よりもよく知る人たちが、森を守る側に回ったのだ。
新しい種の発見は、思わぬ形でも森に返ってくる。ロッジは、国際的な香料の会社や、絶滅の危機にある植物を守る団体と組み、地域の3種のモクレンを守る活動を支えている。新しく記載された「マシュピ・モクレン」の花の香りをもとに、合成の香りがつくられた。その使用料が、地域の人たちによる苗づくりや植林の資金になる。
日本の宿に置き換えると
宿の周りの生き物を調べ、それを客への案内に生かすことは、日本の宿でもできる。
InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)として、20室の宿で稼働率を70%とすると、年に5,110室泊。1泊につき200円を宿の周りの生き物調査に充てると、年に約102万円になる。自動で撮影するカメラを1台3万円で10台そろえて30万円。残る約72万円を、地元の大学や自然の会の人たちへの調査の謝礼や交通費に回す。撮れた写真や見つかった生き物の記録は、館内の掲示や、夕食後の短い話の材料にする。記録を地元の学校に届ければ、子どもたちが地域の自然を知るきっかけにもなる。
森に何がいるかを知らなければ、守ることも、客に伝えることもできない。マシュピは、ホテルより先に、それを調べる人を森に置いた。
持ち帰れる知識
- 森を調べた知識は、ガイドの案内を通して客の体験になる
- 宿泊料金が研究を支えると、研究と事業が同じ方向を向く
- 森をよく知る地元の人を、守る側の仕事に迎えられる
- 発見そのものが、新しい資金を生むことがある
宿で考えられること
- 宿の周りにどんな生き物がいるか、記録を始めてみる
- 地元の大学や自然の会に、調査の協力を相談してみる
- 調べたことを、客に伝える掲示や話にしてみる
事業・予約への接続
マシュピは、客が泊まることが研究を支えると伝えている。研究から生まれた話をガイドが客に届けることで、ほかでは得られない滞在の価値になっている。
Sources / 参考情報
- Mashpi Lodge(英文) - 研究と生物学
裏付け: ユネスコの生物圏保存地域、固有の種の割合が高い、鳥411種・両生類49種・ラン153種・哺乳類98種・チョウやガ約323種、2018年からの研究部門の体制と研究の分野、協力した大学、何百人もの学生、2001年に700ヘクタールから、2010年の建設開始と最初の常駐の生物学者、2012年の開業、テントでの調査、カメラ、5年ほどで新種のカエル、研究を客の体験の土台に、部門は6人、大学との協力、26の新種、804を超える植物の種、60を超える論文、研究がガイドの案内を豊かにする、香料の会社と植物を守る団体との3種のモクレンの保護、マシュピ・モクレンの香りと使用料による苗づくりや植林 - Mashpi Lodge(英文) - サステナビリティ
裏付け: 3,200ヘクタールの保護区、泊まることが研究チームの資金を直接まかなう、かつて伐採や狩りをしていた人たちがガイドやパラバイオロジストに - Mashpi Lodge(英文) - 保護区
裏付け: ロッジの完成前に生物学者を雇った、研究の知識を地域や客と共有する、ライフ・センターのチョウの施設、ボランティアや研究の道具の寄付で関わる方法 - Mashpi Lodge(英文) - 公式サイト
裏付け: 最大47人