処理しない水は、海に流さない:フィリピンのエルニド・リゾーツが島で水を回す方法
フィリピン西部、パラワン島の北の端にあるエルニド。石灰岩の島々が浮かぶバクイット湾は、サンゴ礁や海の生き物の豊かさで知られ、一帯は保護区に指定されている。この湾と周りの海の小さな島々で、「エルニド・リゾーツ」は島のリゾートを運営している。
たとえば、朝のシュノーケリング。客を乗せたボートは、サンゴの上で錨を下ろさない。ガイドが海に浮かぶブイにロープをかけ、客はそこから海に入る。足の下には、サンゴと魚の群れが広がっている。
汚れた水を海に流さない
島のリゾートにとって、使ったあとの水の行き先は、海の健康に直結する。公式サイトによると、エルニド・リゾーツは、下水を処理する設備に、在来のアシを植えたろ過の仕組みを組み合わせている。処理しないままの下水や、洗面やシャワーで使った水を、海に流さないためだ。
処理した水は捨てずに使う。トイレを流す水や、植物の水やり、消火栓の水に回す。そうすれば、そのぶん新しい水をつくらずに済む。
島では、真水そのものが貴重だ。リゾートは、海水を飲める水に変える淡水化の設備を動かしている。公式サイトは、これによって本島の水源を減らさず、地元の人たちと水を取り合わずに済むと説明している。ただ、淡水化には多くのエネルギーがかかる。そこで、雨水を集めてろ過し、客室やスタッフの宿舎で使う。シャワーやトイレも、水の量が少なくて済むものを入れている。
ごみと、海に出るもの
ごみは厳しく分けてから、リゾートの資源回収の施設に運ぶ。リサイクルできるものは地元の回収業者に引き取ってもらい、生ごみは堆肥にして、リゾートの庭や本島の有機農場で使う。2008年には、詰め替えできる飲み水の仕組みを取り入れ、アクティビティ中にペットボトルの水を買わずに済むようにした。厨房では、食用油を新しい容器で買わず、空になった容器を業者に送って詰め替えてもらう。
海の上での遊び方も選んでいる。水上バイクなどのエンジン付きのマリンスポーツは置かず、ガイドが付き添って、客が海の環境を傷めないように見守る。2006年からは、環境への負担の少ないボートのエンジンを使い始めた。料理でも、地元で数が減っているハタは仕入れないことにしている。客室には、地元の村の女性たちが編んだかばんやサンダルを置き、客に贈っている。
ブイとサンゴ礁を、湾のみんなで
錨を下ろせば、サンゴは壊れる。リゾートのダイビングチームは、バクイット湾の21カ所に係留用のブイを設置し、維持してきた。特に、船が多く集まるスモール・ラグーンなどで大切な役割を果たしている。
2006年4月には、地元の人たちや地元の財団と組み、違法な漁やサンゴの白化、台風で荒れたかつてのダイビングの場所に、陶器でできた人工の礁を沈めた。湾では違法な漁が続く脅威になっており、リゾートは見回りを行い、地元の当局と協力して違反者の摘発に関わっている。
海の生き物も見守っている。エルニドの海にいるウミガメは、どれも絶滅のおそれがある種で、少なくとも5種が浜で卵を産むことが知られている。リゾートは保護区の事務所と協力し、ウミガメに標識をつけて放す活動や、スタッフが守った巣から生まれた子ガメを海に放す活動を続けている。ラゲン島のリゾートは、月に2回、浜に流れ着いたごみを拾う清掃を続けてきた。
2008年には、エルニドの動植物をまとめたオンラインのデータベースも立ち上げた。どの生き物が、どこで、いつ見られたかを、写真とともに記録する。客やスタッフの観察に加え、訪れる研究者にも宿や船、潜水の道具を提供し、魚の調査などを支えてきた。
客にも協力を求める。客室には、保護区での振る舞い方をまとめた「十か条」を置き、生き物に触れないこと、貝殻やサンゴを持ち帰らないことを伝える。リゾートが集めて保護区の事務所に納める保全のための料金についても、客に知らせている。スタッフは、2007年から全員が環境の研修を受けている。ごみの扱い方や、水やエネルギーの節約、生き物の保護、環境の法律を学ぶ研修だ。
日本の宿に置き換えると
海辺の宿でも、処理した水をトイレや庭の水やりに回すことは考えられる。
InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)として、20室の宿で稼働率を70%とすると、年に5,110室泊。1室泊あたり250リットルの水を使い、その4分の1をトイレの水が占めるとする。この分を処理した水に置き換えると、年に約319立方メートル。上下水道の料金を1立方メートル500円とすれば、年に約16万円になる。処理や配管の設備の費用は別にかかるため、節約の額だけで元を取るのは簡単ではない。それでも、海に流す水が減ることは、宿の前の海を守ることに直結する。
海の宿にとって、海は眺めであり、客が泊まる理由そのものだ。使ったあとの水やごみの行き先を一つずつ見直すことが、その海を守る一番の近道になる。
持ち帰れる知識
- 使ったあとの水を海に流さないことが、海の宿にとっての基本になる
- 処理した水は、飲み水以外の用途に回せる
- ブイのような設備は、湾を使うみんなで共有できる
- 客に守ってほしいことは、客室にはっきり書いて伝える
宿で考えられること
- 宿から出る水が、どこを通って海や川に出るかを調べてみる
- トイレや水やりに、雨水や処理した水を使えるか検討してみる
- 客に伝えたい海での約束を、短い言葉にまとめてみる
事業・予約への接続
エルニド・リゾーツの客は、サンゴ礁やバクイット湾の景色を見に来る。その海を守る取り組みは、宿の商品そのものを守ることにつながっている。
Sources / 参考情報
- El Nido Resorts(英文) - サステナビリティ(ウェブ・アーカイブの2022年7月29日の保存版で全文を確認)
裏付け: ウミガメ(5種、標識と放流、子ガメ)、ラゲン島の月2回の清掃、2008年の動植物のデータベース、研究者への支援、保全のための料金、下水の処理設備と在来のアシのろ過、処理しない下水や洗面の水を海に流さない、処理した水をトイレ・水やり・消火栓に、資源回収の施設、回収業者と堆肥、2008年の詰め替えできる飲み水、食用油の容器の詰め替え、雨水の利用、節水型の機器、淡水化の設備と本島の水源、エンジン付きのマリンスポーツを置かない、2006年からのボートのエンジン、ハタを仕入れない、村の女性が編んだかばんやサンダル、2006年4月の陶器の人工の礁、21カ所の係留用のブイ(スモール・ラグーン)、見回りと当局との協力、客室の行動規範、2007年からの研修 - Asia Tatler(英文) - エルニドが環境を大切にする楽園になった理由(2020年4月10日)
裏付け: 21カ所のブイの維持、ウミガメの標識と放流、月2回の清掃、見回り - El Nido Resorts(英文) - 現在の公式サイトのサステナビリティのページ(同上のアドレス。検索結果の抜粋で、淡水化、21カ所のブイ、見回りの記述が現在も載っていることを確認)