GOAL 15 · TARGET 15.1 自然・生物多様性・保全 3分 / 2015文字 切らないことから #042

客室の売上で、レンジャーを支える:カンボジアのシンタ・マニ・ワイルドが、森の見回りに客を連れていく理由

カンボジア南西部に広がるカルダモンの熱帯雨林は、アジアでも特に生き物の種類が多い場所の一つだ。その森の川沿いに、15張りのテントだけの宿「シンタ・マニ・ワイルド」がある。客は、見晴らしの塔から川の上をジップラインで渡って、宿に着く。滞在は3泊からだ。

たとえば、2日目の朝。客はレンジャーと一緒に森を歩いている。先頭のレンジャーがしゃがみ込み、落ち葉の下から細いワイヤーを引き抜く。動物の足を締めつける、手づくりのわなだ。客は、その輪の小ささに驚く。

森を守るために建てた宿

公式サイトによると、宿は350ヘクタールの森を守っている。尾根や湧き水、小川、古い木々に囲まれた森で、ゾウが昔からの通り道を使って横切っていく。森は、さらに広い国立公園の一部だ。

この森には、国際的な絶滅のおそれのある生き物の一覧に載る54の種がすむ。マレーグマ、センザンコウ、ウンピョウ、ボウシテナガザルなどだ。一方で、密猟や違法な伐採が、その暮らしをおびやかしてきた。

宿は、この森を守るためにつくられた。公式サイトは、その考え方を「高い収益と、小さな負担」と表す。テントの数を少なく抑え、客室の売上を、そのまま森を守る活動に回す。森を壊す仕事に代わる、本当の選択肢を地元の人たちに用意することも狙いだ。

レンジャーの費用を、宿が持つ

森を実際に見回るのは、1995年に設立された国際的な非営利団体「ワイルドライフ・アライアンス」のレンジャーだ。宿が運営を支える基地は、この団体の14のレンジャーの基地の一つだ。武器を持つレンジャーが森を巡回し、わなを外し、密猟者や違法な伐採者を捕まえ、チェーンソーや手製の銃を押収する。

宿は、このレンジャーの活動の費用と装備のすべてを負担し、谷でいちばん高いところにレンジャーの基地を建てた。公式サイトによると、レンジャーはこれまでに、1万7,711個のわなを森から取り除き、984台のチェーンソーと25台のブルドーザーを押収した。捕まっていた動物のうち、199匹を森に返した。カメが129匹、ニシキヘビが27匹のほか、ジャコウネコやヤマアラシ、スローロリス、マレーグマもいる。

宿で働くのは、約120人。その70%が地元の村の出身で、多くはかつて密猟や伐採をしていた人たちだという。いまは、かつて森から奪っていたものを守ることで、給料を得ている。宿は接客の学校も開き、卒業生の多くがグループのホテルで働いている。

客も、見回りに加わる

この宿の体験には、森を守る仕事が組み込まれている。客は宿の敷地にあるレンジャーの基地を訪ね、押収した道具が並ぶ部屋で、それぞれ何に使われていたのか、どんな動物が助けられたのかを聞くことができる。

もっと深く関わりたい客は、レンジャーと一緒に宿の境界を歩いて見回る。本部からバイクで出る見回りに同行し、わなを外す作業や、わなにかかった動物を助けて放す場面に立ち会うこともある。森の動物を記録する自動のカメラを、宿の生物の専門家と一緒に確かめたり、在来のランを森に植え戻したりする体験もある。

森の記録も続けている。宿には、カンボジアの王立大学を出た生物の専門家がいて、自動のカメラの網で森の生き物を見守っている。これまでに140種を超えるチョウや、ボウシテナガザル、センザンコウ、ベンガルヤマネコがカメラに写った。

宿の母体のグループには、2004年から活動する「シンタ・マニ財団」がある。教育や医療、小さな事業の立ち上げ、自然の保護を通じて、カンボジアの地域を支えてきた。ワイルドライフ・アライアンスとの協力も、その活動の一つだ。客は近くの村を訪ね、伝統の薬草を扱う女性や、ほうきを編む職人、米の酒をつくる人たちに会うこともできる。森で食べられる植物やスパイスを摘み、宿の厨房に届ける体験や、明かりを落として夜の森の生き物を探す散策もある。

公式サイトは客に、ここでは保全の最前線にいて、泊まること自体がこの戦いを助けていると伝えている。客は、森を眺めるだけでなく、守る仕事の重さを体で知って帰る。押収された道具の山や、外したばかりのわなは、説明を聞くだけよりも記憶に残りやすい。

日本の宿に置き換えると

日本の宿の周りの山や海にも、守る人たちがいる。その費用の一部を宿泊が支え、客が活動を見られるようにすることはできる。

InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)として、20室の宿で稼働率を70%とすると、年に5,110室泊。宿泊料金に1室1泊500円の「森の協力金」を含めると、年に約256万円になる。これを、地元の団体の山の見回りや、外から入り込んだ植物の駆除の費用に充てる。月に1回、希望する客が見回りに同行できる日をつくれば、客は協力金の使い道を自分の目で確かめられる。

森を守る費用を、誰が払うのか。シンタ・マニ・ワイルドの答えは、森を見に来る客の宿泊料金だった。

持ち帰れる知識

  • 客室を少なくして、売上を保全に回す設計がある
  • 森を壊していた人を、森を守る仕事に迎えられる
  • 守る活動を体験にすると、客は費用の意味を理解できる
  • 実績を数字で示すと、活動の成果が客に伝わる

宿で考えられること

  • 宿の周りの自然を守っている団体や人を調べてみる
  • 宿泊料金の一部を、その活動に充てられるか試算してみる
  • 客が活動を見たり手伝ったりできる日をつくれるか、相談してみる

事業・予約への接続

シンタ・マニ・ワイルドの客は、泊まること自体が森を守る費用になると知って予約する。見回りや基地の見学が、ほかの宿にない体験として滞在の中心にある。

Sources / 参考情報

  • Shinta Mani Wild(英文) - 保全と影響
    裏付け: ワイルドライフ・アライアンスの1995年の設立、王立大学を出た生物の専門家と自動のカメラ(140種を超えるチョウ、ボウシテナガザル、センザンコウ、ベンガルヤマネコ)、2004年からのシンタ・マニ財団、350ヘクタールの森、ゾウの通り道、国立公園の一部、54の絶滅のおそれのある種(マレーグマ、センザンコウ、ウンピョウ、ボウシテナガザル)、高い収益と小さな負担、客室の売上を保全へ、約120人で70%が地元の村、かつての密猟者や伐採者、接客の学校、ワイルドライフ・アライアンスのレンジャーの活動、費用と装備をすべて負担、レンジャーの基地、1万7,711個のわな・984台のチェーンソー・25台のブルドーザー、199匹(カメ129、ニシキヘビ27など)
  • Shinta Mani Wild(英文) - 体験
    裏付け: 3泊からの滞在、14のレンジャーの基地、村の職人を訪ねる体験、カルダモンの森の生き物と脅威、レンジャーの基地の見学と押収品の部屋、境界の見回り、バイクでの見回りとわなの除去・動物の救助、ランの植え戻し、自動のカメラの確認、保全の最前線にいて泊まること自体が助けになる
  • Shinta Mani Wild(英文) - カルダモンの熱帯雨林
    裏付け: 見晴らしの塔からジップラインで川を渡って到着する
  • Shinta Mani Wild(英文) - 公式サイト
    裏付け: 15張りのテント

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