聖地がないことを確かめてから建てた:ウルルを望むロンギチュード131°が、砂の上に「浮かぶ」理由
オーストラリアの中央部、赤い砂丘が続く砂漠に、巨大な一枚岩ウルルがそびえる。ウルルと、近くの岩山カタ・ジュタを含む国立公園は、まず自然の価値で、のちに文化の価値でも世界遺産に登録された。この土地の先住民アナングの人たちにとって、どちらも大切な意味を持つ場所だ。国立公園の土地は1985年10月26日に伝統的な所有者へ正式に返され、いまは国の機関とアナングの人たちが共同で管理している。
国立公園のすぐそばの砂丘に、16張りのテントの宿「ロンギチュード131°」がある。2002年に開業し、どのテントからもウルルが見える。運営会社の資料によると、宿を所有しているのは先住民の事業にかかわる組織で、2013年11月からは、オーストラリアの家族経営の会社ベイリー・ロッジズが借りて運営している。
たとえば、夕暮れのバー。客はグラスを置き、カウンターを飾る手描きのタイルを一枚ずつ見比べている。模様は一枚ごとに違う。描いたのは、砂漠の向こうの村に住むアナングの画家たちだ。
建てる前に、地図と動物を調べた
この宿は、オーストラリアの環境保護と生物多様性の保全の法律のもとで建設が認められた。宿の運営会社の資料によると、建設の許可は、先住民の聖地を守る公的機関と、地域の土地評議会から出された。そのために、詳しい評価と、独立した文化の地図づくりの調査が行われた。宿の場所に聖地がないことを確かめるためだ。
絶滅のおそれのある生き物への影響も、専門の調査会社が独立して評価した。とくに注意を払ったのが、「マルガラ」という小さな肉食の有袋類だ。宿は毎年マルガラの数を調べ、その結果を国の回復チームや国立公園などと共有している。12平方キロメートルの土地をマルガラの保全区とし、主なすみかを守った。
調査の途中では、大型のトカゲの一種が暮らす巣穴も見つかった。巣穴には目印をつけて立ち入らない区域を設け、計画していた宿への道路を、巣穴を避ける位置に移した。
砂の上に「浮かぶ」テント
建て方も、土地を傷めないように選んだ。工事の前に道路と小道を決め、柵と目隠しで囲み、工事はその範囲だけで行った。完成後は、その道がそのまま車と人の通り道になった。
重いコンクリートの車を入れないよう、テントは工場でつくった部品を、パズルのように現地で組み立てた。現場に入れる車は小型のトラックまでとし、部品の大きさもそれに合わせた。テントはねじ込み式の杭の上に立ち、砂の上に「浮かぶ」ように置かれている。建物の下の砂を取り除く必要があるときは、手作業で掘った。
資料によると、宿全体は解体して移せるように設計されていて、そのときは土地を建てる前の状態に戻せるという。宿の水も砂漠に残さない。使ったあとの水は2キロメートル離れたリゾートの下水処理場に送り、砂漠に本来ない緑地ができないようにしている。
アナングの文化を、宿の中に迎える
宿は、地域のアナングの芸術の拠点と組んでいる。とくに深いのが、1948年に生まれ、オーストラリアで最も長く続く先住民の芸術センター「エルナベラ・アーツ」との協力だ。公式サイトによると、宿は陶芸の先生の費用と地域の継続的な教育を支え、季節ごとに芸術家を宿に招く滞在制作の場を設けた。客と先住民の芸術家が、直接出会う機会になっている。
バーを飾る約500枚の手描きのタイルも、エルナベラの人たちの作品だ。客室にも、地域の先住民の芸術家に依頼した作品や道具が置かれている。
宿のスパの名前「キナラ」は、地域の言葉で「月」を意味する。建物は、アボリジナルの人たちが砂漠で使ってきた伝統的な小屋「ウィルチャ」に着想を得た。施術には、砂漠の植物も使う。その一つ「イルマンカ・イルマンカ」は、地域で万能の薬草とされてきた植物で、先住民の女性たちの団体が営む社会的な事業から仕入れている。
ガイドは、この土地の地質や生き物に詳しいだけでなく、アナングの社会と暮らしの土台である「チュクルパ」の手ほどきも受けている。客は特別な取り決めのもとでエルナベラの村を訪ね、芸術家から技法や作品に込めた物語を聞くこともできる。
日本の宿に置き換えると
日本の宿の周りにも、受け継がれてきた工芸や祭りがある。その担い手を宿に招き、客と出会う場をつくることはできる。
InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)として、年に4回、地元の工芸の作家を5日ずつ宿に招くとする。謝礼を1日2万円とすれば、年に40万円。泊まる部屋は空いている客室を使う。滞在中につくった作品を売店で年に60点、1点1万円で売り、売上の7割を作家に渡せば、作家の手元には42万円が入る。客は作家と話し、つくる様子を見たうえで、作品を持ち帰る。
ロンギチュード131°は、建てる前に土地の意味を確かめ、建てたあとは土地の文化を宿の中に迎え入れた。守ることと見せることは、同じ一つの姿勢から始まっている。
持ち帰れる知識
- 建てる前に、土地の文化的な意味を地元の人たちと確かめる
- 工事の範囲と車の大きさを決めると、土地を傷めにくい
- 地域の芸術家を宿に招くと、客と文化が直接出会える
- 作品を宿に置き、買うことが、担い手を支えることになる
宿で考えられること
- 宿の周りの工芸や祭りの担い手を書き出してみる
- 空いている時期に、作家を招いて滞在制作をしてもらえるか相談してみる
- 客室や売店に、地域の作品を置けるか考えてみる
事業・予約への接続
ロンギチュード131°の客は、ウルルの景色だけでなく、アナングの文化に触れる体験を目当てに泊まる。文化を守る姿勢が、宿の価値そのものになっている。
Sources / 参考情報
- Longitude 131°(英文) - ロッジ
裏付け: 2002年の開業、解体して土地を元に戻せる設計、エルナベラ・アーツ(1948年、最も長く続く先住民の芸術センター)、陶芸の先生と地域の教育の支援、季節ごとの滞在制作、ガイドとチュクルパ、芸術センターとの協力 - Longitude 131°(英文) - 客室
裏付け: 16張りのテント - Baillie Lodges(英文) - ロンギチュード131°の報道資料(2022年9月、運営会社の資料)
裏付け: 世界遺産(自然と文化の二段階)、法律のもとでの承認、公的機関と土地評議会の許可、独立した文化の地図づくりの調査、絶滅のおそれのある種の独立した評価、マルガラの毎年の調査と共有、12平方キロメートルの保全区、トカゲの巣穴と道路の移設、工事の範囲、部品の組み立てと小型トラック、ねじ込み式の杭、手作業の砂の除去、解体と原状回復、2キロメートル先の下水処理場、約500枚の手描きのタイル、客室の先住民の作品、エルナベラ訪問、国立公園の1985年10月26日の返還と共同管理、所有する組織と2013年11月からのベイリー・ロッジズの運営、スパ「キナラ」(月)とウィルチャ、イルマンカ・イルマンカと女性たちの団体の社会的な事業 - Luxury Lodges of Australia(英文) - ロンギチュード131°の人と目的(検索結果の抜粋で確認)
裏付け: 聖地がないことを確かめた、2013年からのエルナベラ・アーツとの協力、滞在制作、村の訪問