遊牧民の家畜とユキヒョウの間に、犬を:ゴビ砂漠のスリー・キャメル・ロッジが、客に子犬を見せる理由
モンゴル南部のゴビ砂漠。古い岩絵が残る土地に、40張りのゲルが並ぶ宿「スリー・キャメル・ロッジ」がある。ゲルは、遊牧民が使ってきたフェルトと帆布の住まいだ。中央の建物は伝統的な仏教寺院の建て方にならい、屋根の木組みには釘を一本も使っていない。
この宿の敷地では、大きな犬たちが暮らしている。モンゴル在来の家畜を守る犬「バンホール」だ。
たとえば、ある日の午後。客が宿の裏手に回ると、ふわふわの子犬たちが転がるように遊んでいる。そばで世話をするスタッフが、この子たちはやがて遊牧民の家族のもとへ行き、家畜を守る仕事をするのだと話す。
消えかけた、家畜を守る犬
公式サイトによると、バンホールは世界でも最も古い、家畜を守る犬の一つだ。家畜を追い立てる牧羊犬とは違い、家畜の群れと一緒に過ごし、落ち着いた存在感で、オオカミやクマ、ユキヒョウを争いになる前に遠ざける。羊、ヤギ、ラクダ、馬、ヤクを守る犬として、何世紀にもわたって遊牧の暮らしを支えてきた。
ところが、約70年続いた共産主義の時代に、伝統的な遊牧のやり方が変わり、純血のバンホールは大きく数を減らした。この犬が生き物の保全と文化の両方で大切だと考えたブルース・エルフストロム氏が、2011年に非営利の「モンゴル・バンホール犬プロジェクト」を立ち上げた。遊牧民の家族と協力して犬を育て、訓練し、群れを守る本来の役割に戻している。
宿が、子犬を育てる場所になった
宿は、このプロジェクトを10年以上支えてきた。きっかけは、宿の創業者とプロジェクトの創設者の長い友情だった。
2015年、宿に1匹の犬がやってきて、協力が本格的に始まった。2021年には、宿で生まれた最初の子犬たちが、ゴビ南部の遊牧民の家族のもとへ送られた。2025年から2026年にかけては3回の出産で16匹の子犬が生まれ、宿にとって最も多い年になった。
宿は、プロジェクトの繁殖の拠点になっている。子犬はここで育ち、人に慣れてから、条件を満たした遊牧民の家族に渡される。公式サイトは、家畜を守る犬を、遊牧民が肉食の動物との出会いに対処する方法の一つだと説明している。
客は滞在中、宿で暮らすバンホールに会い、この犬の歴史や、遊牧民の暮らしと野生の動物を守る役割を学ぶことができる。季節によっては、遊牧民の家族のもとへ行く準備をしている子犬を見られることもある。
井戸を、遊牧民と分け合う
宿の取り組みは、犬だけではない。乾いたゴビでは、水が暮らしの土台だ。宿の敷地の井戸は、近くの遊牧民の家族が飼う何千頭もの家畜に水を与えている。厳しい冬には、家畜のための緊急の飼料や干し草を届けたこともある。
運営でも、限られた資源を大切にしている。宿は、モンゴルで初めて使い捨てのペットボトルの水をやめた宿で、客にはステンレスの水筒を渡し、敷地の浄水の給水所で何度も補充できるようにした。営業期間中は、73.2キロワットの太陽光の設備が電気を送る。正式なリサイクルの仕組みがない地域で、ごみを分けてリサイクルの施設に運び、生ごみは堆肥にして敷地の温室で使っている。
宿は、地域の文化と学びも支えている。2008年からは、地元のハンホンゴルの芸術学校と組み、モンゴルの伝統の音楽と踊りを学ぶ生徒たちに、奨学金や楽器、教材を届けてきた。生徒たちは宿で演奏を披露し、海外との文化の交流にも参加している。ゴビ砂漠は恐竜の化石でも知られ、宿は研究者の調査の拠点にもなってきた。2019年には、アジアの恐竜をテーマにした4回目の国際的なシンポジウムを開いた。食材や物資、サービスは、手に入るときは宿から50マイル(約80キロメートル)以内の生産者から買い、野菜の一部は敷地の温室で育てている。客は、地元の学校や団体が必要としている学用品を旅の荷物に入れて持ってくることでも、地域を支えられる。
スタッフは全員がモンゴルの人で、半数以上がゴビの周りの地域の出身だ。部門の責任者の多くは、研修を重ねて昇進した女性で、料理長は皿洗いから仕事を始めたという。客は遊牧民の家族を訪ね、その暮らしや習わしに触れることもできる。
日本の宿に置き換えると
日本の宿の周りにも、地域が守ってきた生き物や暮らしの知恵がある。宿は、それを客に伝える場所になれる。
InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)として、20室の宿で稼働率を70%、1室2人とすると、年に約1万220人が泊まる。ロビーに地域の保全の活動を伝える小さな展示を置き、1口1,000円の寄付を受け付ける。客の5%が寄付をすれば、年に約511口、約51万円が活動に届く。客は、ただ寄付をするのではなく、その活動の物語を知ったうえで、地域の一員として関わることになる。
子犬を見せることは、この宿にとって、遊牧の暮らしと野生の動物が共に生きる方法を、客に伝えることでもある。
持ち帰れる知識
- 地域に昔からいる生き物が、人と野生の動物の共存を助けることがある
- 宿は、保全の活動を育てる場所にも、伝える場所にもなれる
- 限られた水を地域と分け合うことも、宿の役割になりうる
- 客は、目の前で見たものから学ぶ
宿で考えられること
- 地域が守ってきた生き物や知恵を書き出してみる
- その活動をしている人や団体と、客が出会える場をつくれるか考えてみる
- 宿の設備や資源を、地域と分け合えるものがないか探してみる
事業・予約への接続
スリー・キャメル・ロッジの客は、バンホールや遊牧民の家族と出会い、ゴビの暮らしを知る。その体験が、ほかの宿にない滞在の価値になっている。
Sources / 参考情報
- Three Camel Lodge(英文) - モンゴル・バンホール犬プロジェクト
裏付け: 最も古い家畜を守る犬の一つ、群れと過ごし肉食の動物を遠ざける、羊・ヤギ・ラクダ・馬・ヤク、オオカミ・クマ・ユキヒョウ、約70年の共産主義の時代の減少、2011年の設立、2015年・2021年・2025〜2026年(16匹)、10年以上の支援、創業者どうしの友情、繁殖の拠点、方法の一つ、客がバンホールや子犬に会える - Three Camel Lodge(英文) - サステナビリティ
裏付け: 仏教寺院の建て方と釘を使わない屋根、保存された岩絵、モンゴルで初めてペットボトルの水をやめた、ステンレスの水筒と給水所、73.2キロワットの太陽光(営業期間中、ほかの電源も使用)、ごみの分別と堆肥と温室、井戸と何千頭もの家畜、冬の飼料と干し草、スタッフは全員モンゴルの人で半数以上が地域の出身、女性の責任者と料理長、2008年からのハンホンゴルの芸術学校との協力(奨学金・楽器・教材・宿での演奏・文化の交流)、研究の拠点と2019年の第4回アジア恐竜シンポジウム、50マイル以内の生産者からの購入と温室、客が学用品を持ってくる仕組み - Three Camel Lodge(英文) - 私たちの歩み
裏付け: 40張りのゲル、2002年の開業、遊牧民の家族の訪問