GOAL 11 · TARGET 11.7 自然・生物多様性・保全 3分 / 2018文字 空中に地面を作る #048

赤い網に、21種のつる草:シンガポールのオアシア・ホテル・ダウンタウンが、ビル街に「毛深い塔」を建てた理由

シンガポールの中心のビジネス街。ガラスとコンクリートのビルが並ぶ中に、一棟だけ、緑に覆われた塔が立っている。「オアシア・ホテル・ダウンタウン」だ。高さは約190メートル。赤いアルミの網が建物を包み、その網を、21種類のつる植物がはい上がっている。

設計したシンガポールの建築事務所WOHAは、この塔を「穴だらけで、風が通り、毛深く、緑あふれる塔」と表現している。

たとえば、12階の空中庭園。客は芝生の上でヨガマットを広げている。頭上には次の階の床が屋根のように張り出し、横は開いていて、風が抜けていく。網の向こうに、隣のビルのガラス窓が見える。

網と、21種のつる植物

建設は2012年に始まり、2016年4月に完成した。ホテルの客室は314室で、下の階にはオフィスも入る複合ビルだ。

外壁の赤い網には、21種類のつる植物が植えられた。ホテルの資料を紹介した米国の報道によると、植物は、日当たりの必要さ、風への強さ、育つ速さに合わせて、高さごとに植え分けられている。花が咲く時期は種類によって違うため、塔の見た目は季節とともに変わる。設計事務所の役員は、この外壁を、光と影、雨、植物の命のめぐりとともに姿を変える「自然の生きた芸術作品」だと表現している。建物の内側から見ると、緑と網が厚い壁のようになって、日差しをさえぎる。網は屋上よりさらに上まで伸び、植物が育つための「冠」になっている。

設計事務所によると、植物を育てるための網の面積は2万5,490平方メートルにのぼり、屋上の上に伸びる冠の部分は高さ42メートルある。網を赤くしたのは、緑の植物と青い空との対比をはっきりさせ、くすんだ色の高層ビルが並ぶ街の中で目立たせるためだ。建物の造りは風が通り抜けるように開かれていて、館内の風通しを良くしている。

地面を、何層にも重ねる

この塔の特徴は、外側の緑だけではない。WOHAは、建物を何層かに分け、それぞれの層に空中庭園をつくった。サンドイッチのように、層と庭を重ねていく考え方だ。空中庭園は6階、12階、21階、27階の4か所にある。

ビルの足元の地面は限られている。地上より上に「地面」を何層もつくれば、人が集まり、くつろぐ場所を何倍にも増やせる。12階には芝生とラウンジがあり、27階には二つのプールがある。プールの周りも、つる植物が囲んでいる。

空中庭園は、上の階に覆われて日差しを避けながら、横が開いていて風が通る。冷房で閉ざした空間の代わりに、風と自然の光の入る、街の規模の縁側のような場所だ。空中庭園には33種類の植物と木が植えられ、外壁と合わせると54種類になる。

緑の量を、数字で測る

シンガポールでは、建物にどれだけ緑があるかを「緑の容積率」という数字で測る。都市再開発庁が使う指標で、敷地の広さに対して、建物の緑の面積がどれだけあるかを示す。

設計事務所の役員は、この塔の緑の容積率は1,100%で、同じ広さの敷地10か所ぶんの緑の不足を補える量だと説明している。建てることで街の緑が減るのではなく、むしろ増えるということだ。

緑は、街の暑さもやわらげる。役員によると、午後1時に撮った熱の画像では、この塔の外壁は、一般的なガラス張りの外壁より最大で約25度低かった。周りに熱を返す量が減り、都市が周りより暑くなる「ヒートアイランド」をおさえる助けになる。

シンガポールの国土は約728平方キロメートルで、そこに550万人を超える人が暮らす。土地を有効に使うために建物を上へ伸ばしてきたが、その分、かつて土地を覆っていた緑は失われた。そこでシンガポール政府は、地上で失われた緑を補うように、建物の上や横、中に緑をつくることを開発事業者に求める制度を設けている。葉の面積が大きく、緑の量を増やしやすい植物を選ぶことも勧められている。この塔は、その考え方を最も大きく形にした建物の一つだ。2018年には、高層ビルの国際的な団体から、世界で最も優れた高層ビルに選ばれた。設計事務所の役員は、高い建物も地上だけでなく、意味のある生き物のすみかになれることを示した、と話している。

日本の宿に置き換えると

日本の宿でも、建物の外側に緑を育てることはできる。高層ビルでなくても、窓辺や壁の一部から始められる。

InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)として、南向きの客室の窓10か所に、つる植物の緑のカーテンを育てるとする。苗とネットの費用を1か所3,000円とすれば、年に3万円。夏の冷房の電気代が1か所あたり1,000円下がるとすれば、1万円の節約になる。お金だけを見れば元は取れないが、窓の外で花が咲き、実がなる様子は、客が写真に撮りたくなる宿の景色になる。

オアシア・ホテル・ダウンタウンは、ビル街の真ん中で、建物そのものを庭にした。地面が足りないなら、空中に地面をつくればいい。その発想が、街に緑を返している。

持ち帰れる知識

  • 植物は、日当たりや風に合わせて植え分けると育ちやすい
  • 地上より上に「地面」をつくれば、人が集まる場所を増やせる
  • 緑の量を数字で測ると、建物が街に返す緑がわかる
  • 外壁の緑は、街の暑さをやわらげる助けになる

宿で考えられること

  • 日当たりの強い窓や壁を探してみる
  • 緑のカーテンや鉢植えで、外から見える緑を増やしてみる
  • 屋上やベランダを、客がくつろげる庭にできないか考えてみる

事業・予約への接続

緑に覆われた塔は、それ自体が街の目印になった。ホテルの公式サイトは、つる植物に囲まれた屋上のプールを、季節や時間で景色が変わる場所として紹介している。

Sources / 参考情報

  • Oasia Hotels(英文) - オアシア・ホテル・ダウンタウン
    裏付け: 314室、緑の外壁と高さ30メートルの空中庭園、27階の二つのプールと21種類のつる植物、12階の芝生とラウンジ
  • Oasia Hotels(英文) - 米国の報道「シンガポールの有名な『生きた塔』の内側」の転載(2022年6月、公式サイトに掲載)
    裏付け: 2012年の着工と4年後の完成、国土約728平方キロメートルと550万人超、緑を補う制度と葉の面積の大きい植物、役員の言葉(生き物のすみか、自然の生きた芸術作品)、赤いアルミの網と21種類、日当たり・風・育つ速さで植え分け、季節で変わる見た目、内側から見た日差しをさえぎる緑の壁、屋上の上の冠、緑の容積率と都市再開発庁、1,100%と敷地10か所ぶん、4つの空中庭園と33種類、合わせて54種類、午後1時の熱の画像で最大約25度、緑をつくる制度
  • WOHA(英文) - オアシア・ホテル・ダウンタウン
    裏付け: 「穴だらけで、風が通り、毛深く、緑あふれる塔」、層ごとの空中庭園と地面を増やす考え方、2016年4月の完成、2018年の世界で最も優れた高層ビル
  • World-Architects(英文) - WOHA:オアシア・ホテル・ダウンタウン
    裏付け: 高さ190.15メートル、6・12・21・27階の空中庭園、網の面積2万5,490平方メートル、冠の高さ42メートル、赤い網の理由、風通し、空中庭園が冷房の空間に代わる風通しのよい場所

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