食べ終えたカキの殻を、海に返す:ニューヨークの1ホテル・セントラルパークが、レストランの殻を1年かけて港へ送る理由
ニューヨーク、マンハッタン。6番街と58丁目の角、セントラルパークから歩いてすぐの場所に、「1ホテル・セントラルパーク」がある。外壁は3万6,000株のツタに覆われ、館内も合わせると、約4万の植物が育っている。
このホテルのレストランでは、客が食べ終えたカキの殻を捨てない。殻は集められ、1年かけて、ニューヨーク港の海へ戻っていく。殻は、ごみではなく、海の生き物の家をつくる材料になる。
たとえば、夜のレストラン。客がカキを食べ終えると、スタッフが殻を皿ごと下げていく。厨房の奥で、殻は生ごみとは別の、専用のバケツに入れられる。
殻が、港に戻るまで
ホテルの公式サイトによると、ホテルは、ニューヨーク港にカキの礁を取り戻す非営利の団体「ビリオン・オイスター・プロジェクト」と組んでいる。
団体は、殻を集めるためのバケツをホテルに用意する。ホテルは、レストランで出たカキの殻をごみに混ぜず、このバケツにためておく。集まった殻は、港に浮かぶガバナーズ島の、殻を寝かせておく場所に運ばれる。殻はそこで1年間、風や雨、虫にさらされ、自然の力できれいになる。準備の整った殻は、ニューヨーク港に戻され、海の生き物のすみかを取り戻すために使われる。
ホテルのレストラン「ジャムズ」は、料理界の権威ある賞を受けた料理人ジョナサン・ワックスマン氏が手がける店で、畑から食卓へという考え方を大切にしている。団体の会員になると、協力する店で使える特典を受け取れるが、ジャムズもその店の一つだ。
カキが、港の生き物を支える
なぜカキの殻なのか。団体の説明によると、ニューヨーク港には、かつて巨大なカキの礁が広がっていた。しかし、とりすぎや汚染、開発によって、礁は少しずつ姿を消していった。
カキの礁は、海の生き物のすみかをつくり、生き物の豊かさを支え、水をこし、波や浸食から岸辺を守る。団体によると、レストランから集めた殻は、新しいカキの礁の土台になる。一般に、カキの幼生は、ほかのカキの殻などにくっついて育つ。礁をつくるには、たくさんの殻が要る。
団体は2014年から活動を続けている。2030年までに、10億個のカキを港に戻し、100万人の生徒に港の自然を学んでもらうことを目標に掲げる。これまでに、港のおよそ18エーカー(約7ヘクタール)の礁に、1億8,300万個を超えるカキを戻した。ニューヨークの70を超えるカキ料理の店やシーフードの店と組み、320万ポンド(約1,450トン)を超える殻をリサイクルしてきた。いまも、年に30万ポンド(約136トン)を超える殻が集まる。協力する店には、同じグループの1ホテル・ブルックリン・ブリッジのレストランも名を連ねる。
団体は、礁を取り戻すことと、人を育てることを一体で考えている。都市の自然の再生は、それに心を寄せる人がいなければ長続きしない、というのが団体の考え方だ。そのため、生徒や先生が港で実際に調べ、記録する学びの場をつくっている。
公園のそばで、自然を手渡す
ホテルの中にも、自然を感じる工夫がある。玄関の扉は、回収した1,600本のニセアカシアの枝でつくった。客室には、6,288平方フィート(約580平方メートル)の、給水タンクから回収した木材が使われている。ロビーから2階へは、森をイメージした階段が続く。館内には2,000を超える植物が飾られ、作品を手がけた作家の多くはニューヨーク生まれで、自然への感謝をさまざまな素材で表現している。
蛇口からはろ過した水が出て、繰り返し使えるコップやボトルで、使い捨てのプラスチックをなくした。ロビーの売り場では地元の農産物を扱い、レストランでは食べ物のごみを出さないカクテルをつくる。服を掛けるハンガーは、使用済みの紙を再生したものだ。
ホテルは、カキの団体のほかにも、地域の非営利団体と組んでいる。ハウジング・ワークスや、シティミールズ・オン・ホイールズといった団体だ。公式サイトは、健康な水から、誰もが食べ物を得られる仕組みまで、地域を良くする取り組みを幅広く支えていると説明している。
日本の宿に置き換えると
日本の宿でも、カキやホタテ、アサリなどの貝殻は出る。貝殻をごみとして捨てるのではなく、資源として使う道を探すことはできる。
InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)として、冬の宿で年に1万個のカキを出し、殻が1個50グラムなら、年に500キログラムの殻が出る。処理を1キログラム40円で頼んでいれば年に2万円。地元の漁協や農家と組んで、殻を畑の土づくりや海の環境づくりに使ってもらえれば、処理の費用が減るだけでなく、「食べた殻が地元の海や畑に戻る」という物語を客に伝えられる。
1ホテル・セントラルパークは、レストランの皿に残った殻を、港の再生につないだ。客が食べ終えた一皿が、街の海を取り戻す小さな土台になっている。
持ち帰れる知識
- 飲食店のごみの中にも、自然の再生に役立つ資源がある
- 専門の団体と組めば、集める道具や運ぶ仕組みを用意してもらえる
- 資源が海に戻るまでの道のりは、客に伝えられる物語になる
- 宿の周りの自然を、地域の団体と一緒に守ることができる
宿で考えられること
- 宿で出る貝殻の量を、1か月量ってみる
- 貝殻を資源として使える団体や漁協、農家がないか調べてみる
- 食材が地元に戻る道のりを、客に紹介できないか考えてみる
事業・予約への接続
ホテルは、殻の回収を、客と一緒に祝う取り組みとして紹介している。カキを食べることが、そのまま港の再生への参加になる。
Sources / 参考情報
- 1 Hotel Central Park(英文) - ビリオン・オイスター・プロジェクトとの殻の回収
裏付け: 団体との協力、レストランのカキの殻、専用のバケツ、ガバナーズ島の殻を寝かせる場所、1年間の風・雨・虫、港への返還、客と一緒に祝う取り組み - 1 Hotel Central Park(英文) - サステナビリティ
裏付け: 約4万の植物、3万6,000株のツタ、1,600本のニセアカシアの枝の扉、6,288平方フィートの給水タンクの木材、森の階段、2,000を超える植物とニューヨーク生まれの作家、ろ過した水と繰り返し使える容器、ロビーの農産物の売り場、食べ物のごみを出さないカクテル、再生紙のハンガー、地域の非営利団体との協力 - 1 Hotel Central Park(英文) - よくある質問
裏付け: 6番街と58丁目の角、セントラルパークのすぐそば - Billion Oyster Project(英文) - よくある質問
裏付け: かつての巨大な礁と消えた理由、カキの礁の役割、10億個と100万人の目標、1億8,300万個と約18エーカー、70を超える店と320万ポンド - Billion Oyster Project(英文) - 公式サイト / 私たちについて / 寄付と会員
裏付け: 2014年からの活動、殻が新しい礁の土台になる、水をこす働き、会員の特典とジャムズ(ジョナサン・ワックスマン氏、畑から食卓へ)、再生と教育を一体で考える理由 - Billion Oyster Project(英文) - 殻を集めるレストラン
裏付け: 年に30万ポンドを超える殻、1ホテル・ブルックリン・ブリッジのレストランの参加