ハリケーンの倒木で9棟を建てる:ニカラグア湖の小島のロッジが、島に「ごみを持ち込まない」ことから始めた理由
中米ニカラグアの古い町グラナダ。その沖のニカラグア湖には、「グラナダの小島群」と呼ばれる小さな島々が浮かぶ。その一つに、「ジカロ・アイランド・エコロッジ」がある。島にあるのは、2階建ての「カシータ(小さな家)」が9棟だけだ。
カシータも家具も、地元でつくられた。材料は、ハリケーンで倒れた木である。
始まりは、一枚の貼り紙だった。公式サイトによると、2007年1月、ロンドンに住むカレン・エマニュエルは、休暇で訪れたグラナダのレストランで「島、売ります」という貼り紙を目にした。ニカラグアの観光の可能性を感じた彼女は、ロンドンに戻って封筒の裏で計算し、数週間後には島の手付金を送っていた。ロッジづくりと運営を支えたのは、中南米で持続可能な高級ホテルを運営するコスタリカの会社「カユガ・コレクション」のチームだ。
たとえば、朝。カシータのテラスから湖を眺めると、足元の柱も、手すりも、ベッドの枠も、かつて森に立っていた木だとわかる。その木は、切り倒されたのではない。嵐に倒されたあと、拾い集められたものだ。
嵐が倒した100万ヘクタールを超える森から
ロッジの公式サイトによると、2007年9月、ハリケーン「フェリックス」がニカラグアの北の大西洋岸に上陸した。上陸しても勢いは衰えず、むしろ強まりながら西へ進み、100万ヘクタールを超える熱帯雨林をなぎ倒した。亡くなった人は少なく、海外ではほとんど報じられなかったが、森が受けた打撃は大きかった。
ロッジの建物と家具をデザインし、建てたのは、家具と建物をつくる会社「シンプレメンテ・マデラ」だ。この会社は、嵐の前から、被害を受けた地域の先住民の人たちと、森を守りながら木を使う林業に取り組んでいた。嵐のあとは、環境団体や地域の人たち、政府機関と協力して倒れた木を回収し、家具や建物、工芸品に変えた。ジカロのロッジは、その成果の一つである。使われた熱帯の硬い木は、森の管理を認証する「FSC/レインフォレスト・アライアンス」の認証を受けている。
建てるときには、島の大きな木や岩を一つも取り除かなかった。島の形に合わせて建物を置いたのだ。カシータは木の上の家のように地面から持ち上げられ、木陰に包まれている。
ごみは「分ける」前に「持ち込まない」
島という場所がら、このロッジは、リサイクルの仕組みを整えたうえで、何より「減らす」ことに力を入れてきた。島に持ち込むごみを、できるだけ少なくするのだ。
飲み水は島でろ過して出すので、ペットボトルのごみが出ない。お湯は太陽の熱で沸かし、客室にも厨房にも使う。島にエアコンはなく、窓からの風と天井の扇風機で涼しさを保つ。せっけんや洗剤、スパの製品は自然に分解されるものを選び、プールの水は塩素を使わない方法できれいにしている。排水は島の処理施設で、ニカラグアの基準だけでなく国際的な基準も満たすように処理する。電線は地下に埋め、島の生き物の暮らしを妨げないようにした。
人の面でも、地域とのつながりを大切にしている。スタッフは地元で雇い、仕事は地元に頼み、食材も地元で買う、あるいは自分たちでつくる。観光がもたらす豊かさを、地域に広く行き渡らせるためだ。
生ごみが、豚のえさになり、台所の火になる
減らしきれない生ごみには、行き先がある。公式サイトによると、ジカロは2012年10月、地元の家族のために豚のつがいを買い、繁殖を始めた。豚は家族の食べ物になり、ロッジの生ごみを食べ、料理の燃料のもとにもなる。同じ月、ふん尿から燃えるガスをつくる「バイオダイジェスター」を養豚場に設けた。それまで、この地域の家族は木を切って煮炊きに使っていた。ガスに替えれば、木を守り、煮炊きによる健康への害も減らせる。
2013年9月には、地元の家族と鶏小屋をつくった。家族は有機の卵を売って収入を得て、ロッジも料理にその卵を使う。同じ年の11月には、ハーブや野菜を育てる小さな菜園も始め、とれたものはロッジと世話をする家族で半分ずつ分ける。いずれも島から船で5分ほどの場所にあり、客は無料で見学できる。
湖の対岸には、約88人の子どもが通う「パドレ・ネロ小学校」がある。電気が通っておらず、子どもたちは湖の水を使っていた。ジカロは米国の非営利団体「アース・エクイリブリウム」と組み、太陽光パネルで動く浄水の仕組みを導入する計画を進めた。費用は客の寄付だけでまかない、パネルは教室の明かりや地域の診療所の電気にも使う。完成すれば、周りに住む約600人も安全な水を使えるようになる、と紹介されていた。設備を長く使えるよう、管理を担う地域の人たちに研修を行い、修理のための資金も別に積み立てるという。
日本の宿に置き換えると
ジカロのやり方は、「出たごみをどう処理するか」より先に、「ごみになるものを入れない」「出たものを地域の役に立つ形で使う」と考える点にある。
InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)として、20室の宿で稼働率を70%とすると、年に5,110室泊。1室泊あたりの生ごみを0.4kgとすると、年に2,044kgになる。その半分を地元の農家の堆肥や家畜のえさに回せれば、年に1,022kgを燃えるごみから外せる。送り先の農家の話を客に伝えれば、食べ残しを減らすきっかけにもなる。
持ち帰れる知識
- 災害で倒れた木も、回収すれば建物の材料になる
- 島や離れた場所では、ごみを「持ち込まない」ことが一番の対策になる
- 生ごみは、地域の家畜や燃料に回せば資源になる
- 客の寄付を、地域の学校や水の問題に結びつけることができる
宿で考えられること
- 宿に入ってくる使い捨ての品を、一度すべて書き出してみる
- 生ごみを受け取ってくれる農家や堆肥の施設が近くにないか調べてみる
- 客が参加できる地域の取り組みを、チェックアウトのときに紹介してみる
事業・予約への接続
ジカロは、地域の取り組みの見学を客に無料で案内し、学校の浄水の計画には、チェックアウトのときの寄付やオンラインの寄付で参加できるようにしていた。泊まることが、地域を支えることにつながる。
Sources / 参考情報
- Jicaro Island Ecolodge(英文) - ジカロを建てる(2021年6月時点の公式サイト。インターネット・アーカイブで閲覧)
裏付け: 2007年9月のハリケーン・フェリックス、北の大西洋岸に上陸し強まりながら西へ、100万ヘクタールを超える熱帯雨林の被害、死者は少なく海外ではほとんど報じられなかった、シンプレメンテ・マデラ(嵐の前から先住民の人たちと林業、嵐のあと環境団体・地域・政府機関と倒木を回収し家具・建物・工芸品に)、倒木だけで建てた建物と家具、FSC/レインフォレスト・アライアンス認証、大きな木や岩を取り除かず土地に合わせた - Jicaro Island Ecolodge(英文) - 環境と地域(2021年時点の公式サイト)
裏付け: 地元の雇用・仕事の依頼・食材の購入と生産で観光の豊かさを広げる、リサイクルの仕組みと「減らす」ことへの重点、島に持ち込むごみを少なく、ろ過した飲み水でペットボトルなし、太陽熱の給湯(客室と厨房)、エアコンなし・風と扇風機、国内と国際的な基準を満たす排水処理、自然に分解されるせっけん・洗剤・スパの製品、塩素を使わないプール、地下の電線、地元の雇用と仕入れ - Jicaro Island Ecolodge(英文) - 地元の食材(2021年時点の公式サイト)
裏付け: 2012年10月の豚のつがいと繁殖(家族の食べ物、生ごみ、料理の燃料)、同月のバイオダイジェスター、木を切って煮炊きしていた、2013年9月の鶏小屋と有機の卵、2013年11月の菜園と半分ずつ、船で5分、無料の見学 - Jicaro Island Ecolodge(英文) - 地域への還元(2021年時点の公式サイト)
裏付け: アース・エクイリブリウム、地域の人たちへの研修と修理のための積立金、パドレ・ネロ小学校(約88人)、電気がない、湖の水を使っていた、太陽光で動く浄水の計画、教室の明かりと診療所、客の寄付だけでまかなう、完成すれば周りの約600人、チェックアウト時とオンラインの寄付 - Jicaro Island Ecolodge(英文) - 島(2021年時点の公式サイト)
裏付け: 2階建てのカシータ9棟、木の上の家のように持ち上げた、地元でつくったカシータと家具、大きな木と島の自然の形を残した - Jicaro Island Ecolodge(英文) - カレンの物語(2021年時点の公式サイト)
裏付け: 2007年1月の休暇、グラナダのレストランの「島、売ります」の貼り紙、ニカラグアの観光の可能性、ロンドンに戻り封筒の裏で計算し数週間で手付金、カユガ・コレクション(中南米で持続可能な高級ホテルを運営するコスタリカの会社)