GOAL 12 · TARGET 12.8 エネルギー・脱炭素 3分 / 2017文字 牛で耕して炭素を出さない #060

牛で耕す10エーカーの畑:ペルー・聖なる谷のインカテラが、客を畑に招く理由

ペルーのクスコとマチュピチュの間に、「インカの聖なる谷」と呼ばれる谷がある。アンデスの中でも過ごしやすい気候に恵まれ、インカの人々が畑を開き、トウモロコシやジャガイモなどを育てた土地だ。絵のような村々、民芸品、人々の温かさ。旅人が探しに来る「本当のペルー」が、今もこの谷に残っている。

この谷に、2015年、「インカテラ・アシエンダ・ウルバンバ」が開いた。かつての大農園「アシエンダ」の建物を思わせる、現代のホテルだ。建物を囲むように、有機栽培の畑が広がっている。

たとえば、朝の畑。牛が引く鋤(すき)のあとを、客がゆっくり歩く。掘り返された土のにおいの中で、ガイドが、この谷で何百年も続いてきた耕し方を説明する。畑のわきでは、背の高いトウモロコシが風に揺れている。

何百年も前と同じ方法で耕す

インカテラの研究・保全部門「インカテラ協会」によると、この有機の畑の広さは10エーカー(約4ヘクタール)。キヌア、「ウルバンバの巨大トウモロコシ」と呼ばれる大粒のトウモロコシ、さまざまな種類のジャガイモ、薬草を育てている。耕すのは、昔ながらの手で使う農具と、牛だ。何百年も前と同じ方法である。インカテラ協会は、こうして育てた作物を「炭素を出さない作物」と説明している。

畑でとれたものは、インカテラの各ホテルと、クスコ地方の地元の市場に届けられる。畑があることで、ホテルの食材の流れが、より持続可能なものになる。

この畑は、インカテラが各地で続ける「食をつくる取り組み」の一つでもある。インカテラ協会によると、マチュピチュのふもとのホテルの庭では、アンデスに昔からある果物や野菜を研究のために育てている。巣を傷めない方法で集めたハチミツを各ホテルに届け、有機の茶畑では、旅人に昔から伝わる摘み方を伝えている。

客が収穫し、耕し、味わう

この畑は、ただ食材をつくる場所ではない。開業のときにインカテラが紹介したところでは、客は畑で、キヌアやアーティチョーク、巨大トウモロコシなどを自分で収穫できる。土地を守るための自然な耕し方にも参加でき、その一つが、牛が引く「タクリャ」という鋤だ。

ホテルのレストランは、この畑の食材を使った料理を出す。滞在中の客には、インカテラの有機の紅茶を味わうお茶の時間も用意されている。インカテラによると、創業者のホセ・コエチリンが1976年にマチュピチュのふもとで手に入れた土地には、100年前からの茶畑があった。茶の木は自然の木陰で守られ、土の力を保っている。茶づくりにも、昔ながらの技術が受け継がれている。

無料の体験には、昔から伝わる飲み物「チチャ・デ・ホラ」づくりがある。トウモロコシからつくる飲み物で、客は収穫から、ひいて、発酵させ、味わうまでを自分の手で体験する。半日かけて、インカの人々の飲み物ができるまでをたどるのだ。

夕方には、山の小道を歩きながら薬草について学び、夕日を眺めながら、アンデスの世界で星を読む知恵がどれほど大切だったかを聞く散策もある。開業時の紹介によると、敷地では30種を超える鳥が見られ、ホテルのまわりの小道で鳥を探す体験もある。タカからハチドリまで、谷の鳥がまわりの自然とどうかかわっているかを学ぶ。「見張りの家」という意味の名を持つ丘「チャリャ・ワシ」に登り、谷を見渡す散策も用意されている。

暮らしの知恵を、旅の時間にする

開業時の紹介によると、客室は12室で、さらに24棟の独立した「カシータ(小さな家)」が加わる予定だった。特別につくった内装と、壁を飾るインカ以前の織物は、デニス・ギスラン=コエチリンが、夫でインカテラの創業者・社長のホセ・コエチリンの助けを借りて選んだ。部屋には、植民地時代の家具、インカの仮面、手づくりの木工品が置かれ、谷の文化の歴史を伝えている。部屋の窓からは、まわりの山と、収穫を待つ畑が見える。

客にとって、ここでの体験は、食べ物がどこから来て、どのようにつくられるのかを、自分の手で知る時間になる。牛で耕す畑も、トウモロコシの飲み物も、この谷で受け継がれてきた暮らしの知恵だ。

日本の宿に置き換えると

インカテラ・アシエンダ・ウルバンバのように、宿の畑や地域の農家と組み、客が収穫や昔ながらの食づくりを体験できるようにすることは、日本の宿でもできる。田植え、稲刈り、みそや漬物づくりなど、地域に残る知恵は多い。

InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)として、20室の宿で稼働率を70%とすると、年に5,110室泊。1室に平均2人が泊まるとすると、年に10,220人泊になる。そのうち10%の人が、1回1,500円の収穫体験に参加すると、年に1,022人、153万3,000円の売上になる。畑でとれた野菜をその日の夕食に出せば、体験と食事が一つの物語になる。収穫の時期に合わせて体験の内容を変えれば、季節ごとに訪れる理由にもなる。

持ち帰れる知識

  • 宿の畑は、食材の流れを持続可能にするだけでなく、客が学ぶ場にもなる
  • 昔ながらの耕し方や食づくりは、それ自体が体験の価値になる
  • 収穫から味わうまでを体験すると、食べ物がどこから来るのかを実感できる
  • 地域の文化の歴史を、部屋の内装や体験で伝えることができる

宿で考えられること

  • 近くの農家に、客が収穫を手伝える時期がないか聞いてみる
  • 地域に伝わる食べ物や飲み物のつくり方を、体験にできないか考えてみる
  • 宿で出す料理の食材が、どこでどうつくられたかを客に伝えてみる

事業・予約への接続

インカテラ・アシエンダ・ウルバンバでは、伝統の飲み物づくりや鳥を探す散策を、無料の体験として用意している。畑と谷の暮らしに触れる時間が、宿に泊まる理由そのものになっている。

Sources / 参考情報

  • インカテラ協会(英文) - 在来の作物の畑
    裏付け: マチュピチュのホテルの庭でアンデスの果物や野菜を研究のために育てる、持続可能な方法で集めたハチミツを各ホテルへ、有機の茶畑で昔からの摘み方を伝える、10エーカーの有機の畑、キヌア・ウルバンバの巨大トウモロコシ・さまざまなジャガイモ・薬草、炭素を出さない作物という説明、昔ながらの手で使う農具と牛で何百年も前と同じように育てる、インカテラの各ホテルとクスコ地方の市場への持続可能な供給
  • インカテラ(英文) - インカテラ・アシエンダ・ウルバンバの紹介(2015年4月13日)
    裏付け: 2015年の開業、12室とその夏に開く予定の24棟のカシータ、デニス・ギスラン=コエチリンが夫で創業者・社長のホセ・コエチリンの助けを借りて選んだ内装とインカ以前の織物、キヌア・アーティチョーク・巨大トウモロコシの収穫、自然な耕し方への参加と牛が引くタクリャ、30種を超える鳥
  • インカテラ(英文) - 体験
    裏付け: クスコとマチュピチュの間の聖なる谷、絵のような村・民芸品・人々の温かさが本当のペルーを伝える、アシエンダの様式のホテル、アンデスの中でも過ごしやすい気候、インカの人々がトウモロコシやジャガイモなどの畑を開いた、母屋の部屋と独立したカシータ、植民地時代の家具・インカの仮面・手づくりの木工品
  • インカテラ(英文) - レストランとバー
    裏付け: 敷地の有機の畑の食材を使った料理、滞在中の客への無料のお茶の時間と有機の紅茶
  • インカテラ(英文) - 外出の体験
    裏付け: 無料のチチャ・デ・ホラづくり(収穫・ひく・発酵・味わう、半日)、夕方の小道で薬草とアンデスの星の知恵、ホテルのまわりで鳥を探す(タカからハチドリまで、まわりの自然とのかかわり)、チャリャ・ワシ(見張りの家)の丘
  • インカテラ(英文) - インカテラの有機の茶(2024年12月10日)
    裏付け: 1976年に創業者ホセ・コエチリンが手に入れた土地、100年前からの茶畑、自然の木陰で守り土の力を保つ、昔ながらの技術
  • インカテラ(英文) - 客室
    裏付け: 部屋から見えるまわりの山と収穫の畑

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