町の水には手をつけない:アタカマ砂漠のティエラ・アタカマが、敷地の井戸の水を浄化し、庭に回す理由
南米チリの北部に広がるアタカマ砂漠。極地をのぞけば、世界で最も乾いた場所とされる。その砂漠のオアシスの村、サンペドロ・デ・アタカマの外れに、「ティエラ・アタカマ」がある。28室のホテルだ。
ここでは、水は「どこから来て、どこへ行くか」まで考えて使われている。ホテルが使う水は、すべて敷地の井戸からくみ上げる。村の人たちが使う水には、手をつけないためだ。
たとえば、夕方。ホテルの入り口で、客を迎えるのは古い土の壁だ。その奥には、緑の庭が広がっている。乾いた大地の中で、その緑を育てているのは、一度使われた水である。
雨がほとんど降らない土地で
ホテルの公式サイトによると、アタカマ砂漠の年間の平均の雨の量は1ミリにも満たず、米国カリフォルニア州のデスバレーより50倍も乾いている。測り始めてから、一滴の雨も降っていない場所もあるという。このあたりは標高2,400メートルの高地で、昼は強い日差しで暑く、夜はぐっと冷え込む。
なぜこれほど乾いているのか。公式サイトの説明では、東のアンデス山脈がアマゾンからの湿った空気をさえぎり、西の海岸の山々が太平洋からの空気の流れをはばむ。さらに沖を流れるフンボルト海流が、湿気をできにくくしている。
それでも、砂漠に水がまったくないわけではない。地下には、何千年もかけてたまった水があり、今も調べが続いている。この土地では何百年も前から、アンデスの人々が畑を耕し、家畜を育ててきた。
だからこそ、限られた水を誰がどう使うかは、大きな問題になる。
井戸の水を、自分で浄化する
ティエラ・アタカマは、使う水をすべて敷地の井戸からまかなっている。公式サイトは、村の水の供給に手をつけないためだと説明する。
くみ上げた水は、「逆浸透膜」という細かな膜で水をこす装置で浄化する。この仕組みによって、ホテルは自分たちの使う水を自分たちでまかなえるようになった。
使った水も、そのまま捨てない。シャワーや洗面所などから出る、比較的汚れの少ない「グレーウォーター」と呼ばれる排水を、庭の水やりに使い直している。それが、作物の育つ土地をよみがえらせた。
牛の囲いの跡が、緑の庭になった
ホテルが建つのは、長いあいだ放置されていた、牛の囲いの跡地だ。入り口には、150年前の日干しれんがの壁が、そのまま残されている。
建物を設計したのは、建築家のロドリゴ・セアルレとマティアス・ゴンサレス。ホテルからは、アンデスの山々と火山が見渡せる。中でも目を引くのが、標高6,000メートル近い「人々の山」リカンカブール山だ。
ランドスケープ・アーキテクトのテレサ・モジェールは、この古い土の壁と、もともと生えていた植物を生かして庭をつくった。かつて見捨てられていた土地は、グレーウォーターの水やりによって、緑豊かな実りのある庭に変わった。
日干しれんがは、この地方で昔から使われてきた建材でもある。公式サイトによると、わら、水、粘土などでつくる赤みがかったれんがは、まわりの景色に溶け込み、熱を通しにくい。
エネルギーにも工夫がある。ティエラ・アタカマは、南米で太陽光による発電を始めた最初のホテルの一つだ。ハイブリッドの仕組みで毎日の電力をまかない、二酸化炭素の排出を年に240トン以上減らしている。
こうした取り組みは、その場かぎりのものではない。ホテルの運営は、状況に合わせて見直される環境管理の計画にそって進められている。
ホテルのスパの名前「ウマ」は、この地方の先住民の言葉、アイマラ語で「水」を意味する。砂漠では、水そのものが特別な存在なのだ。
乾いた土地にも、人の暮らしを支えてきた植物がある。公式サイトによると、「チャニャール」という木は高さ3〜10メートルに育ち、甘い実をつける。その実を煮詰めた、濃い蜜のような「アロペ」は、のどの痛みやせきをやわらげるのに使われてきた。
この砂漠には、ここにしか育たない植物もある。北チリの低木「リカリカ」は、香りのよい葉が薬草のお茶に使われ、ホテルでもさまざまな料理や飲み物に使われている。
日本の宿に置き換えると
日本では、水が足りないと感じる場面は少ないかもしれない。それでも、水をくみ上げ、きれいにし、温め、流すには、エネルギーも費用もかかる。ティエラ・アタカマのように、宿の水の流れを一度たどってみることは、日本の宿でもできる。
InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)として、20室の宿で稼働率を70%とすると、年に5,110室泊。1室泊あたりシャワーで80リットルの水を使い、節水型のシャワーヘッドで30%減らせるとすると、1室泊あたり24リットル、年に12万2,640リットル(約123立方メートル)の節水になる。お湯を沸かすエネルギーも、その分だけ減る。井戸水や地下水を使う宿なら、くみ上げる量を毎月記録し、地域の水への影響を考えることも大切だ。
持ち帰れる知識
- 宿が水をどこからとるかは、地域の暮らしに直接かかわる
- 一度使った水も、汚れの少ないものは庭の水やりに使い直せる
- 古い建物の跡や壁を残すと、土地の歴史を伝える宿の顔になる
- 土地に合った昔からの建材は、快適さと環境への配慮を両立できる
宿で考えられること
- 宿の水が、どこから来て、どこへ流れていくのかを図にしてみる
- 月ごとの水の使用量を記録し、多く使っている場所を探してみる
- 雨水や汚れの少ない水を、庭の水やりに使えないか調べてみる
事業・予約への接続
ティエラ・アタカマは、入り口に残した150年前の土の壁や、緑の庭を、宿の顔にしている。土地の歴史と、水を大切にする姿勢が、そのまま宿の物語になっている。
Sources / 参考情報
- Tierra Atacama(英文) - ロッジ
裏付け: 水はすべて敷地の井戸から、村の水の供給に手をつけないため、逆浸透膜の装置で浄化し自分たちでまかなう、グレーウォーターを水やりに使い作物の育つ土地をよみがえらせた、見捨てられていた土地が緑豊かな実りのある庭に、南米で太陽光による発電を始めた最初のホテルの一つ、ハイブリッドの仕組みで毎日の電力、年に240トン以上の二酸化炭素の削減、長いあいだ放置された牛の囲いの跡、入り口の150年前の日干しれんがの壁、テレサ・モジェールが古い壁と既存の植物を生かした、ロドリゴ・セアルレとマティアス・ゴンサレス、アンデスの山々と火山の眺め、標高6,000メートル近いリカンカブール山(人々の山)、環境管理の計画に沿った運営、28室、ウマはアイマラ語で水、世界で最も乾いた場所の一つ - Tierra Atacama(英文) - アタカマはなぜ「世界で最も乾いた砂漠」と呼ばれるのか(2021年1月29日)
裏付け: アンデス山脈がアマゾンの湿った空気をさえぎる、海岸の山々が太平洋の空気の流れをはばむ、フンボルト海流で湿気ができにくい、年間の平均の雨の量は1ミリ未満、デスバレーより50倍乾いている、測り始めてから雨が降っていない場所もある、地下に何千年もかけてたまった水と今も続く調査、アンデスの人々が何百年も畑と家畜を育ててきた、ホテルが地下の水を使うのは村の人たちの水の使用に影響しないため、極地をのぞけば世界で最も乾いた場所 - Tierra Atacama(英文) - よくある質問
裏付け: 標高2,400メートル、昼は暑く夜は冷え込む、リカリカの低木と薬草のお茶 - Tierra Atacama(英文) - サンペドロ・デ・アタカマの百年の建物(2024年11月18日)
裏付け: わら・水・粘土などでつくる赤みがかった日干しれんが、景色に溶け込む、熱を通しにくい、この地方で昔から使われてきた技術 - Tierra Atacama(英文) - アタカマの植物を知る(2022年12月21日)
裏付け: チャニャールは3〜10メートル、甘い実、実からつくる濃い蜜のようなアロペでのどの痛みやせきをやわらげる、リカリカはこの地方にしか育たない、香りのよい葉、料理や飲み物に使われ、ホテルでもさまざまに調理して出している