国立公園の外でも、ピューマが暮らせるように:パタゴニアのアワシが、宿の土地を保護区にした理由
南米チリのパタゴニア、トーレス・デル・パイネ国立公園。その境界のすぐ外に、「アワシ・パタゴニア」がある。名前の「アワシ」は、南米の先住民の言葉ケチュア語で「家」を意味する「ワシ」から来ている。
アワシは2007年、チリ北部のアタカマ砂漠で最初のロッジを開いた。2013年から2018年にかけて、パタゴニアとアルゼンチンのイグアスにも広がった。
パタゴニアのロッジに並ぶのは、トーレス・デル・パイネの山々を正面に望む、独立したヴィラ16棟だけだ。ヴィラごとに専属のガイドと四輪駆動車がつき、客は自分の関心とペースに合わせて、毎日の行き先を決める。大勢で同じ場所に向かうのではなく、少人数で静かに自然の中へ入っていく。アワシの物語によると、自然への深い敬意から、土地への負担の少ない探検と、環境に配慮した運営を進めてきた。
たとえば、夜明け前。客は専属のガイドと、野生の動物の跡を追う専門の人たちと一緒に出発する。雪の上に残った足跡、地面に残されたしるし。それを一つずつ読み解きながら、パタゴニアで最も姿を見せない動物を探しに行く。ピューマだ。
公園の境界を越えると、守られなくなる
アワシの公式サイトによると、トーレス・デル・パイネ国立公園は、ピューマ、コンドル、グアナコといった在来の生き物の避難場所になっている。しかし、生き物たちが公園の境界の外に出ると、さまざまな危険にさらされる。
生き物にとって、人が引いた境界線は意味を持たない。公園の外の土地がどう使われるかで、そこを通る生き物の運命は変わる。
アワシ・パタゴニアは、ちょうどこの公園の端に建っている。そこでアワシは、ロッジの敷地に私設の保護区をつくり、守られる場所を広げて、生き物が自由に動き回れる土地をつくった。
草原と低木林と森が出会う7,000エーカー
この「アワシ・パタゴニア私設保護区」が守る土地は、7,000エーカー(約2,800ヘクタール)。パタゴニアの草原、アンデスのふもとの低木林、マゼラン地方の森という、三つの自然が出会う場所だ。違う自然の境目にあたるため、生き物の種類がとりわけ多い。国立公園の外へ移動する生き物にとって、大切な逃げ場にもなっている。
土地を管理するのは、ロッジのチームだ。客だけが入れるこの土地は、ほとんど手つかずのまま残され、保全の取り組みが続けられている。公式サイトによると、ここではグアナコ、レアの仲間のニャンドゥ、キツネ、コンドル、そして運がよければピューマが、人に邪魔されずに暮らしている。
カメラで見守り、客と一緒に守る
ピューマは、パタゴニアの食物連鎖の頂点に立ち、自然のつり合いを保つ大切な役目を担っている。アワシは、場所を選んで置いた自動撮影のカメラで、ピューマの動きや習性を見守っている。生き物をできるだけ邪魔しない方法だ。何年もの観察から、この土地のピューマの数や行動の傾向が、より深くわかってきた。
客は、ガイドと一緒にピューマを追う体験に参加できる。足跡やしるし、カメラがとらえた記録から、どの個体がどう動いているかを学び、野生のピューマに出会えるかもしれない時間を過ごす。ほかにも、近くの牧場でガウチョの文化に欠かせない馬に乗ったり、歩きや馬の旅の途中で大昔の海の生き物や植物の化石を見つけたりできる。
さらに客は、希望すれば、1人1回の滞在につき150米ドルの「保全への協力金」を支払うことができる。協力金は、生き物の観察、カメラを使った調査、責任あるピューマの追跡、すみかの保全、長い期間の科学的な研究に使われる。毎年、協力金で何ができたかをまとめた報告がつくられる。取り組みは、環境の保全や持続可能な取り組みに力を入れる財団「ファロ・ベルデ」の支援を受けて進められている。
食卓も、土地とつながっている。ロッジのシェフ、ナタリア・パスは、地元の食材と持続可能なやり方を大切にし、チリの食材と伝統を生かした料理をつくる。南太平洋のフィヨルドでとれた魚、南の海のタラバガニ、地元で育てた子羊、とれたての野菜、在来の木の実が並ぶ。
アワシは、世界のホテルとレストランの団体「ルレ・エ・シャトー」の一員でもある。団体が掲げる持続可能性の12の約束は、生き物の多様性、文化の遺産、地域の人々に重きを置いており、アワシの日々の運営の指針になっている。
日本の宿に置き換えると
アワシのように、宿の土地や近くの自然を守る取り組みに、客が任意で参加できる仕組みは、日本の宿でもつくれる。大切なのは、使い道と成果を毎年わかりやすく伝えることだ。
InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)として、20室の宿で稼働率を70%とすると、年に5,110室泊。1室に平均2人が泊まるとすると、年に10,220人泊。1人1泊200円の任意の協力金に、30%の人が参加すると、年に3,066人泊、61万3,200円になる。里山の手入れや、生き物の調査に回し、その結果を翌年の客に伝えれば、協力する人も増えていく。
持ち帰れる知識
- 保護区の外の土地も、生き物にとっては大切な通り道や逃げ場になる
- 宿の土地を守ることで、守られる場所を広げられる
- 生き物をカメラで見守る調査は、客の体験にもなる
- 客の協力金は、使い道と成果を毎年伝えることで信頼につながる
宿で考えられること
- 宿のまわりで、どんな生き物が暮らし、どこを通っているかを調べてみる
- 近くの自然を守っている団体や研究者と、一緒にできることを話してみる
- 客が任意で参加できる協力金の仕組みと、その報告の方法を考えてみる
事業・予約への接続
アワシ・パタゴニアでは、ピューマを追う体験と保全への協力金が、一つの取り組みとして結びついている。客の体験が、そのまま保護区を守る力になっている。
Sources / 参考情報
- Awasi(英文) - パタゴニアを一緒に守る
裏付け: 国立公園に接する私設保護区、7,000エーカー、パタゴニアの草原・アンデスのふもとの低木林・マゼラン地方の森が出会う、境目で生き物の種類が多い、公園の外へ移動する生き物の逃げ場、チームが管理し客だけが入れる手つかずの土地、ピューマは頂点の捕食者でつり合いを保つ、場所を選んだ自動撮影のカメラ、邪魔をしない、何年もの観察で数や行動がわかってきた、足跡・しるし・カメラの記録と個体、1人1回の滞在につき150米ドルの任意の協力金とその使い道、毎年の報告、ファロ・ベルデ財団の支援 - Awasi(英文) - アワシ・パタゴニア
裏付け: 近くの牧場での乗馬とガウチョの文化、大昔の海の生き物と植物の化石、ナタリア・パスと地元の食材・持続可能なやり方・チリの食材と伝統、フィヨルドの魚・タラバガニ・地元の子羊・野菜・在来の木の実、トーレス・デル・パイネの山々とサルミエント湖を望む私設保護区、独立したヴィラ16棟、部屋ごとの専属のガイドと四輪駆動車、自分のペース、すべての滞在を客に合わせてつくる、グアナコ・ニャンドゥ・キツネ・コンドル・運がよければピューマ、夜明け前に専属のガイドと追跡の専門の人たちと出発 - Awasi(英文) - 自然をつくる
裏付け: 国立公園はピューマ・コンドル・グアナコの避難場所、公園の外では危険にさらされる、公園の端にあるので敷地に私設の保護区をつくり守られる場所を広げた、ルレ・エ・シャトーの一員、12の約束(生き物の多様性・文化の遺産・地域の人々)がアワシの運営の指針 - Awasi(英文) - 私たちの物語
裏付け: ケチュア語の「ワシ」は家、2007年のアワシ・アタカマ、2013年から2018年にパタゴニアとイグアスへ、自然への敬意から負担の少ない探検と環境に配慮した運営