牧場だった6,000ヘクタールを、永久に守る:チリのエクスプローラが、国立公園の外に保護区をつくった理由
南米チリの南の果て、トーレス・デル・パイネ国立公園。その中心、ペオエ湖のほとりに、「エクスプローラ・トーレス・デル・パイネ」がある。1993年に開業した、この公園の中心に建つ唯一のホテルだ。
エクスプローラは、南米の人里離れた土地を旅する会社として、冒険好きの仲間たちが始めた。最初の拠点が、このパタゴニアのロッジだった。会社は今、旅の目的を「深く探検することで、自然の保全を進めること」だと説明している。土地の美しさと壊れやすさを肌で知った人は、それを守る必要を実感する、という考え方だ。
たとえば、夕方。一日の山歩きから戻った客が、ロッジの窓から湖と山を眺める。ガイドが今日見た鳥や足跡の話をすると、客は、この景色が当たり前にあるものではないことに気づく。
公園のロッジが、保全の出発点になった
ロッジは50室。客は、ガイドが案内する40を超える外出のプログラムから、自分の体力や関心に合わせて選ぶ。山の塔を目指す山歩き、氷河、湖、森、野生の生き物、ガウチョの文化。ガイドは、エクスプローラが自前で持つガイドの学校で育てられる。ロッジには自前の馬小屋もあり、パタゴニアの珍しい品種の馬で草原を進むこともできる。
エクスプローラによると、このロッジは、同社が保全に取り組む旅の始まりになった。そして近年、その取り組みは、国立公園の外へと広がった。
二つの牧場を、保護区に変える
国立公園の北東の外側に、エクスプローラの「トーレス・デル・パイネ保全保護区」がある。もとは二つの牧場「エスタンシア」だった土地だ。マゼラン地方の森、アンデスのふもとの低木林、草原、パタゴニアの砂漠と、さまざまな自然が集まり、サモラ川とラス・チナス川の二つの川が流れ、湿地やラグーンもある。エクスプローラによると、パイネの岩峰とバグアレス山脈の両方を一度に眺められる、この地方で唯一の場所だという。牧場には今もパタゴニアのガウチョが暮らし、昔ながらの暮らしを続けている。
広さは6,000ヘクタール。エクスプローラは、この土地を、チリの「保全のための物権」という法的な仕組みで守り、永久に保全できるようにするとしている。土地の32%が森で、そのうち19%はレンガやニレといった在来の木の森だ。
谷の一部には、何十年も牛の放牧に使われてきた、一年中草が育つ肥えた土地がある。エクスプローラは、保全という目的のために、ここでの放牧をやめた。
保護区は、自然保護の国際的な非営利団体「ザ・ネイチャー・コンサーバンシー」と組んでつくられた。土地の97%は探検と保全だけに使い、残りの3%で、観光、研究、教育などの施設をつくる。寄付による保全は長く続かないことが多い。そこでエクスプローラは、事業と非営利の取り組みの良いところを合わせ、保全を広げ、永く続けられる仕組みを目指している。
エクスプローラは、こうした保護区を、自分の力でお金を回して続けられる保護区にしようとしている。トーレス・デル・パイネの保護区の中には、10室だけの新しいロッジを開いた。北のアタカマ砂漠にある7,000ヘクタールの「プリタマ保全保護区」では、川がつくる温泉を、入場券を買った人に公開している。
調べて、見守って、計画する
保全は、まず知ることから始まった。2019年、エクスプローラは保護区の植物と動物を詳しく調べた。その結果、植物およそ130種、鳥50種、哺乳類15種が記録された。ダーウィンレア、フラミンゴ、コンドル、アルマジロ、グアナコ、そしてピューマもいる。
ピューマについては、保護区のあちこちに自動撮影のカメラを置き、ここでの行動を調べている。カメラは、牧場に住むガウチョたちが定期的に確かめ、新しい記録を探す。牧場の暮らしを知るガウチョが、保全の担い手にもなっているのだ。
保全の計画づくりには、「保全のためのオープン・スタンダード」という国際的な手法を使う。計画を立て、実行し、結果を見て見直す、という流れをくり返す方法だ。
エクスプローラは、非営利団体と組むことを重んじ、ザ・ネイチャー・コンサーバンシーのほか、チリで野生の生き物を取り戻す活動をする「リワイルディング・チリ」などと協力している。社会や環境への配慮を認証する「Bコーポレーション」の認証も受けている。最終的には、世界の壊れやすい自然100万ヘクタールを守ることを目指している。
日本の宿に置き換えると
エクスプローラのように、宿のまわりの自然をまず調べ、見守ることは、日本の宿でも始められる。わかったことを客に伝えれば、それ自体が宿の体験になる。
InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)として、宿のまわりの林に自動撮影のカメラを5台、1台3万円で置くと、費用は15万円。写っていた生き物を紹介する夜のミニ講座を1人1,000円で開き、年に300人が参加すると、30万円になる。初年度で費用をまかなえ、残りを林の手入れに回せる。地元の大学や自然の団体と組めば、記録は地域の調査にも役立つ。
持ち帰れる知識
- 国立公園の外の土地を守ることで、守られる自然を広げられる
- 保全は、まずどんな生き物がいるかを調べることから始まる
- 地域の暮らしを知る人は、保全の担い手にもなれる
- 事業と保全を組み合わせると、取り組みを長く続けやすい
宿で考えられること
- 宿のまわりで、どんな植物や生き物が見られるかを調べてみる
- 地元の大学や自然の団体に、一緒に調べられないか相談してみる
- わかったことを、客室の案内や夕食の時間に紹介してみる
事業・予約への接続
エクスプローラの客は、保護区でしかできない外出のプログラムに参加できる。保全している土地そのものが、ほかでは味わえない旅の価値になっている。
Sources / 参考情報
- Explora(英文) - トーレス・デル・パイネ
裏付け: 国立公園の中のロッジ、50室、40を超えるガイド付きの外出(山の塔・氷河・湖・森・野生の生き物・ガウチョの文化)、自前のガイドの学校、自前の馬小屋とパタゴニアの珍しい品種の馬、ペオエ湖のほとり、このロッジが保全の旅の始まり、宿泊客は保護区でエクスプローラだけの外出に参加できる - Explora(英文) - 私たちについて
裏付け: 冒険好きの仲間たちが始めた、南米の人里離れた土地の旅、1993年にパタゴニアで開業、国立公園の中心に建つ唯一のホテル、深く探検することで保全を進める、美しさと壊れやすさを知ると守る必要を実感する - Explora(英文) - トーレス・デル・パイネ保全保護区
裏付け: 国立公園の北東側、二つのエスタンシア、マゼラン地方の森・アンデスのふもとの低木林・草原・パタゴニアの砂漠、サモラ川とラス・チナス川・湿地・ラグーン、パイネの岩峰とバグアレス山脈を一度に見られる唯一の場所、ガウチョが昔ながらの暮らしを続ける、2019年の調査(植物およそ130種・鳥50種・哺乳類15種、ダーウィンレア・フラミンゴ・コンドル・アルマジロ・グアナコ・ピューマ)、自動撮影のカメラとガウチョの確認、6,000ヘクタールを保全のための物権で永久に、森32%と在来のレンガ・ニレの森19%、97%を探検と保全、3%を観光・研究・教育などに、寄付は長く続かない・事業と非営利を合わせる、保全のためのオープン・スタンダード、何十年も放牧に使われた土地で放牧をやめた - Explora(英文) - エクスプローラの保全保護区
裏付け: ザ・ネイチャー・コンサーバンシーと組んでつくった保護区、100万ヘクタールを守る目標、事業として自立した保護区のモデル、アタカマの7,000ヘクタールのプリタマ保全保護区と入場券制の温泉、ザ・ネイチャー・コンサーバンシーやリワイルディング・チリとの協力、Bコーポレーションの認証、自動撮影のカメラなど科学的なデータ - Explora(英文) - トーレス・デル・パイネ保全保護区のロッジ
裏付け: 国立公園の端に開いた新しいロッジ、10室、保護区の中心から出発する外出、ガウチョが世話をする馬小屋