森を植え直すのは、森で暮らす人と一緒に:エクアドルのマシュピ・ロッジが、保護区の外の1,200ヘクタールを回復させる方法
南米エクアドルの首都キトから、車で2時間ほど。アンデス山脈の西の斜面に、「チョコ」と呼ばれる熱帯の森が広がっている。地球上で特に生き物の種類が多い場所のひとつで、その森も今、失われつつある。この森の中に建つのが、ガラス張りの「マシュピ・ロッジ」だ。泊まれるのは最大47人。
ロッジは、3,200ヘクタールを超える私設の保護区「マシュピ・タイラ保護区」の中にある。マシュピは、自分たちを単なる宿ではなく、森を「再生させる力」だと説明する。客が1泊するごとに、そのお金が森の回復を支え、森を守る地域の人たちを支え、科学の研究を進める、という考え方だ。
たとえば、保護区の外の丘。地元の人たちが、斜面に苗木を植えていく。森の木と、実のなる木が並ぶ。何年か先には、鳥も人も、この木々から恵みを受け取るようになる。
保護区の外まで、森をつなぐ
マシュピは、研究で得た森の知識を、地域の人たち、客、そして世界と分かち合うことを目指している。科学は、研究と教育とエコツーリズム、そして地域の支援を組み合わせて初めて本当の力を持つ。自分たちの努力は、保護区とホテルを守るだけにとどまってはいけない。マシュピは、そう考えるようになったと説明している。
マシュピの取り組みは、保護区の中だけでは終わらない。マシュピは、アンデスの山の環境を研究する団体「コンデサン」、キトの水源を守る基金「フォナグ」、そして地域の発展を支える「フトゥロ財団」と組み、保護区の外にある1,200ヘクタールのチョコの森の回復に関わっている。
目的は、保護区のまわりの森をつなぎ、野生の生き物が行き来できる「緑の通り道」を強くすることだ。保護区だけが森として残っても、まわりが切り開かれていれば、生き物は孤立してしまう。
マシュピは、この取り組みを「数だけを追う植林ではない」と説明する。植えるのは136種の木。森の木と、実のなる木を組み合わせ、野生の生き物と人の両方を養う森を取り戻そうとしている。植えた実のなる木のうち、91.4%はもともとこの地域にある種類だ。外から持ち込まれた育てやすい木ではなく、地域の森の長い健康を優先した、意識的な選択だという。
土地の権利を、暮らす人の手に
森を守るには、そこで暮らす人の暮らしも守らなければならない。マシュピとフトゥロ財団は、そう考えている。長く続く保全には、社会の公正さが土台にあるという考え方だ。
その中心にあるのが、土地の権利の整理だ。この地域には、法律で認められるずっと前から土地と結びついて暮らしてきた農村の人たちがいる。彼らの土地の権利を正式なものにするための手助けをしている。
2024年には、1,111ヘクタールで土地の測量を行い、30人の土地の持ち主が権利の手続きの支援を受けた。地域の二つの団体が正式に立ち上がり、マシュピ、グアヤビジャス、パチハルの三つの村では、住民が参加して村の将来の計画をまとめた。話し合いが、村自身のものとして文書になったのだ。
森を切っていた人が、森を案内する
かつてこの森で木を切り、狩りをしていた人たちは、今では森を最も熱心に守る人たちになっている。自然を案内するガイドや、研究を手伝う「パラバイオロジスト」として訓練を受け、自分たちが誰よりもよく知る森で、仕事を築いてきた。マシュピは、保全と暮らしは対立するものではなく、同じひとつの力だとわかった、と説明している。
今、ロッジで働く人の48%は近隣の村の出身だ。地元の人の技術を育てるため、30件の研修の契約も結んだ。
食べ物も地域から届く。ロッジの食べ物と飲み物の仕入れの13%は近くの村からで、20の家族が新鮮な食材を、8の家族が加工品を届けている。料理の82%に、地域を代表する食材が少なくとも一つ使われ、地域の食の多様さを守っている。ロッジへの直接の販売で、少なくとも72の家族が恩恵を受けているという。8人の女性が立ち上げた団体は、9つの商品を販売するまでになった。
学校と、エネルギーと、水
教育にも力を入れる。フトゥロ財団は教育の団体と組み、五つの村の学校と協力して、330人の生徒と21人の先生に届く取り組みを続けている。地域の学校の生徒たちは、年に10回、ロッジを訪れる。ロッジの職員12人は、働きながら学ぶ制度で技術を磨いている。
ロッジの運営そのものも、環境への負担を減らしている。電気は、国の水力発電の送電網から再生可能なエネルギーを使い、照明はすべてLEDだ。2024年には、お湯をつくる設備をより効率のよいものに替え、電気の使用量を14%減らした。館内の給水所によって、これまでに17万9,640本のペットボトルの使用を防いだ。排水はすべて、厳しい処理をしてから自然に戻している。キトから電気自動車で来る客のために、充電設備も用意した。
日本の宿に置き換えると
マシュピのように、宿の外の森や里山の回復に、地域の人と一緒に関わることは、日本の宿でもできる。大切なのは、木を植える本数よりも、その土地にもともとある木を選び、そこで暮らす人の暮らしと結びつけることだ。
InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)として、20室の宿で稼働率を70%とすると、年に5,110室泊。1室に平均2人が泊まり、1人が朝食と夕食の2食をとると、年に2万440食になる。そのうち8割の料理に、地元の農家の食材を少なくとも一つ使えば、年に1万6,352食が、地域の畑と宿の食卓をつなぐことになる。
持ち帰れる知識
- 保護区だけでなく、まわりの森をつなぐことが生き物を守る
- 植える木は、本数よりも、その土地にもともとある種類を選ぶ
- 森を守るには、そこで暮らす人の権利と暮らしを守ることが欠かせない
- 宿の仕入れと雇用は、地域の暮らしを直接支える
宿で考えられること
- 宿のまわりで、森や里山の手入れをしている団体を調べてみる
- 献立の中で、地元の食材を使える料理を数えてみる
- 地元の学校の子どもたちに、宿の取り組みを見てもらえないか考えてみる
事業・予約への接続
マシュピ・ロッジは、客の1泊が森の回復と地域の暮らしを支えることを、数字で伝えている。泊まることが森を育てることにつながると知れば、客は宿を選ぶ理由を一つ多く持てる。
Sources / 参考情報
- Mashpi Lodge(英文) - 保護区
裏付け: 研究の知識を地域・客・世界と分かち合う、科学は研究・教育・エコツーリズム・地域の支援の組み合わせ、保護区とホテルを守るだけにとどまらない - Mashpi Lodge(英文) - サステナビリティ
裏付け: キトから2時間、3,200ヘクタールのマシュピ・タイラ保護区、宿泊が森の回復・地域・研究を支える、再生させる力、コンデサン・フォナグ・フトゥロ財団と保護区の外の1,200ヘクタールの回復、生態の通り道をつなぐ、数だけの植林ではない、136種の木、森の木と実のなる木、実のなる木の91.4%が在来種、土地の権利と社会の公正、2024年に1,111ヘクタールの測量・30人の土地の手続き・二つの団体・三つの村の参加型の計画、元は木を切り狩りをしていた人がガイドとパラバイオロジストに、職員の48%が近隣の村出身、30件の研修の契約、仕入れの13%・20家族と8家族、料理の82%、少なくとも72家族、8人の女性の団体と9つの商品、五つの村の学校・330人の生徒・21人の先生、年に10回の学校の訪問、12人の職員が働きながら学ぶ制度、国の水力発電の送電網、照明はすべてLED、2024年に電気14%削減、17万9,640本、排水の処理、電気自動車の充電設備、キト首都圏の中の保護区で最大47人