宿の前の浜から、島じゅうの浜へ:ドミニカ島のロザリー・ベイが、ウミガメの保護を広げた方法
カリブ海に浮かぶドミニカ国は、「ネイチャー・アイランド(自然の島)」と呼ばれる。その南東の海岸、ユネスコの世界遺産モルヌ・トロワ・ピトン国立公園のふもとで、澄んだロザリー川が大西洋に流れ込む。この河口の22エーカーの土地に建っていたのが、28室の宿「ロザリー・ベイ」だ。首都ロゾーから車で45分ほどの場所にある。
宿の前には、黒い砂の浜が広がっている。この浜には、オサガメ、アオウミガメ、タイマイという、絶滅のおそれがある3種類のウミガメが卵を産みに上がってくる。
たとえば、5月の夜。浜を見回る係が、大きなオサガメの足跡を見つける。宿の部屋に知らせが届き、客はそっと浜へ向かう。
ウミガメが守られていなかった浜
ナショナル ジオグラフィックの記事によると、ドミニカでは、ウミガメとその卵をとる密猟が、長いあいだ止められずにいた。変わったのは2003年だ。地域の人々、政府、そしてカリブ海のウミガメを守る専門家のネットワーク「WIDECAST(ワイドキャスト)」が手を組み、ウミガメを守ることを優先すると決めた。この取り組みの資金の多くを出したのが、のちに宿の主となるビバリー・ダイケルだった。
米国の海洋大気庁などがまとめた報告によると、2003年4月、WIDECASTはドミニカで地域の人々とともに進める計画「ロザリー・ウミガメ・イニシアチブ」を始めた。ドミニカのウミガメを本格的に調べて守る、初めての取り組みだった。
夜の浜を歩き、卵を移す
WIDECASTの2004〜2005年の報告によると、ロザリーの浜では、3種類のウミガメが季節をずらして卵を産む。オサガメは5月から6月はじめ、アオウミガメは7月の終わりから8月はじめ、タイマイは9月の終わりから10月はじめが、いちばん多い時期だ。
活動の中心は、夜の見回りだ。報告によると、2003年には、オサガメの巣の多くが、波に浜を削られて失われた。オサガメは波打ち際の近くに卵を産むことが多いため、危ない場所の卵を安全な場所へ移す取り組みが始まった。2004年には、ロザリーの浜で386匹の子ガメが海へ帰った。内訳は、タイマイが215匹、オサガメが118匹、アオウミガメが53匹だ。島のあちこちでも、地域の人々が巣を見つけて知らせ、守る手伝いをした。ウミガメのための通報の電話にも、多くの知らせが寄せられた。
宿の発表によると、2003年に7つだったオサガメの巣は、2010年には3種類あわせて69になった。活動は、夜の見回りのほか、浜のごみ拾い、学校などでの教育、記録の集計に広がった。宿の前の浜で始まった保護は、やがて島全体の浜へと広がっていった。
ナショナル ジオグラフィックの記者は、5月に宿に泊まり、宿の「自然を豊かにするチーム」を率いる案内人と夜の浜を歩いた。記事によると、オサガメのメスは、1シーズンに4〜5回卵を産む。後ろのひれで砂をかき出し、深さ約70センチの穴を掘る。客は、少し離れた場所から、その様子を静かに見守った。
風と湧き水で暮らし、島の人の手で建てる
ダイケルは米国ミネソタ州の出身で、ドミニカに移り住んだ。2019年時点の公式サイトによると、宿は、ダイケルとパートナーのオスカーが9年をかけて手作りで建て、2011年1月に開業した。建てたのは地元の人々で、LEDの照明、牛乳の容器を再生した椅子、環境に配慮して育てた綿のシーツなど、長く使える素材や再生できる素材が選ばれた。部屋の家具は島の職人が木を彫ってつくり、壁の布の絵はロゾーの作家の手によるものだった。
電気は、島で初めての風車と、200枚を超える太陽光パネルでつくっていた。風車の出力は225キロワットで、カリブ海の島々でも最大級だった。お湯は太陽の熱で沸かし、水は近くの湧き水を紫外線で浄化して使っていた。
丘の上には1.5エーカーの有機の畑があり、厨房で使う材料の多くをまかなっていた。足りない分は、地元の漁師や農家、ロゾーの市場から仕入れていた。週に1度は、案内役のスタッフが島の植物と健康について話しながら畑を歩く「畑の散歩」も開かれていた。宿は近くの村の人々にとって大きな働き口であり、地元の店や商いも支えていた。売店には、島の職人の手づくりの品が並んだ。
宿は、ドミニカの美しさを世界に伝えること、自然を守ること、地元の人々の暮らしを支えることを使命に掲げていた。ウミガメの保護では、米国の旅行誌トラベル・アンド・レジャーの賞を受け、ナショナル ジオグラフィックが選ぶ「ユニーク・ロッジ・オブ・ザ・ワールド」の最初の加盟宿の一つにもなった。
日本の宿に置き換えると
日本にも、アカウミガメが卵を産みに上がってくる浜がある。ロザリー・ベイのように、宿の目の前の自然を守る活動を、地域の人や専門家と一緒に支えることは、日本の宿でもできる。
InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)として、20室の宿で稼働率を70%とすると、年に5,110室泊。1室泊ごとに200円を、地域の浜や森で生き物を守る活動に積み立てるとすると、年に102万2,000円になる。見回りの道具や、子ども向けの観察会を支える資金になる。
持ち帰れる知識
- 宿の前の自然は、地域の人や専門家と組むことで守れる
- 一つの浜で始めた活動が、島全体に広がることがある
- 生き物の季節を知れば、客に伝えられる体験になる
- 建てるときから、地元の人の手と素材を使える
宿で考えられること
- 宿のまわりに、守るべき生き物や場所がないか調べてみる
- 地域で自然を守る団体や専門家と、話をしてみる
- 客が参加できる観察会や清掃を、季節に合わせて考えてみる
事業・予約への接続
ロザリー・ベイは、ウミガメが卵を産む夜を、滞在の特別な体験として伝えていた。客は、浜の生き物を守る宿に泊まること自体が、保護を支えることにつながると知って、宿を選んだ。
Sources / 参考情報
- National Geographic(英文) - ドミニカでウミガメを見る
裏付け: 3種類のウミガメが宿の黒い砂の浜で卵を産む、5月はオサガメを見る最盛期、ウミガメを見られるときに起こしてもらえる、2003年まで密猟が止められずにいた、2003年に地域・政府・WIDECASTが手を組んだ、ダイケルが資金の多くを出した、記者が5月に泊まり「自然を豊かにするチーム」の案内人と夜の浜を歩いた、メスは1シーズンに4〜5回産む、後ろのひれで約70センチの穴を掘る - WIDECAST / NOAA(英文) - 大西洋のオサガメの評価(2007年)
裏付け: 2003年4月にWIDECASTがドミニカで地域とともに進める計画「ロザリー・ウミガメ・イニシアチブ」を始めた、ドミニカのウミガメを本格的に調べて守る初めての取り組み - WIDECAST(英文) - ロザリー・ウミガメ・イニシアチブ 2004〜2005年報告
裏付け: 3種類の産卵の最盛期(オサガメ5月〜6月はじめ、アオウミガメ7月終わり〜8月はじめ、タイマイ9月終わり〜10月はじめ)、2003年にオサガメの巣の多くが浸食で失われた、オサガメは波打ち際近くに産む、巣の移動、2004年にロザリーで386匹(タイマイ215、アオウミガメ53、オサガメ118)の子ガメを放流、島じゅうで地域の人々が巣を知らせ守る手伝いをした、ウミガメの通報の電話 - eTurboNews(英文) - ロザリー・ベイがウミガメ保護計画を設立
裏付け: 宿の発表として、2003年にオサガメの巣は7つ、2010年に3種類で69、夜の見回り・浜の清掃・教育・記録、ダイケルはミネソタ州出身 - Rosalie Bay Resort(英文・2019年時点の保存ページ) - 宿について
裏付け: 28室、2011年1月開業、9年かけて手作りで建てた、ダイケルとオスカー、三つの使命、モルヌ・トロワ・ピトン(世界遺産)のふもとの南東の海岸、22エーカー、ロザリー川と大西洋、ロゾーから45分、ナショナル ジオグラフィックのユニーク・ロッジの最初の加盟宿 - Rosalie Bay Resort(英文・2019年時点の保存ページ) - エコ・リゾート
裏付け: 島で初めての風車、225キロワットでカリブ海の島々でも最大級、200枚を超える太陽光パネル、太陽熱のお湯、湧き水を紫外線で浄化、ウミガメの保護はロザリーの浜から島全体へ、トラベル・アンド・レジャーの賞、地元の人が手作りで建てた、LED・牛乳の容器を再生した椅子・綿のシーツ、職人の家具、ロゾーの作家の布の絵、売店の島の職人の品、村の大きな働き口で地元の商いを支える、地元の漁師と農家 - Rosalie Bay Resort(英文・2019年時点の保存ページ) - 有機の畑
裏付け: 丘の上の1.5エーカーの有機の畑、材料の多くをまかなう、ロゾーの市場から仕入れる、週1度の畑の散歩