崩れた屋敷の石で、新しい客室を建てる:メキシコのシャブレ・ユカタンが、マヤの畑と文化を受け継ぐ方法
メキシコのユカタン半島。州都メリダから車で25分ほどの森の中に、古いアシエンダ(大農園の屋敷)がある。アシエンダ・チョチョラだ。ここに、40棟のカシータ(小さな一戸建ての客室)が点在する宿「シャブレ・ユカタン」が建っている。
この地域には、マヤの人々が何百年も暮らしてきた。宿の報告書によると、彼らは今もこの土地にいて、自然への愛と、伝統の知恵を、世界中から来る人々に伝えている。
たとえば、朝。庭師が、木の枠で地面から高く持ち上げた畑に、水をやっている。畑の土には、前の晩に厨房から出た果物の皮が混ぜてある。
崩れた石と、倒れた木を生かす
シャブレ・ユカタンの2022年の報告書によると、宿をつくるとき、アシエンダの古い建物から材料を救い出して使った。崩れ落ちた石を使い直し、残っていた建物は補強し、カシータとヴィラは、環境への負担ができるだけ小さくなるように組み立てた。室内では、倒れた木の根や幹を、そのままの形の美しさを生かして、一点ものの家具に生まれ変わらせた。
設計には、メキシコの建築家やインテリアデザイナーが加わり、地元の建て方を生かしている。古い屋敷を壊して新しく建てるのではなく、残された石と木に新しい役目を与えた。
宿の中心にあるのは、セノーテを囲むように建てられたスパだ。セノーテは、石灰岩の地面が崩れてできた天然の泉で、マヤの文化では神聖な場所とされてきた。そのまわりに施術の小屋が並び、マヤに伝わる蒸し風呂「テマスカル」の儀式も受けられる。毎週月曜日には、ユカタンの伝統の踊り「ハラナ」が披露される。
マヤの高い畑「カアンチェ」
宿は、マヤに伝わる畑づくりも受け継いでいる。カアンチェは、木の枠で地面から高く持ち上げた、マヤの伝統的な畑だ。公式サイトによると、宿では、畑の枠に使う木の栄養まで考えた、マヤの畑づくりの技を使っている。2022年の報告書では、ここで再現している収穫の方法の中には、100年以上使われていなかったものもあるという。
2025年の報告書によると、敷地には「ミルパ」「スパ」「イシイム」「マヤの台所」という四つの畑があり、地面の畑が30と、カアンチェが73ある。4人の庭師が世話をし、2025年12月から2026年4月までに、465キロあまりの野菜や果物がとれた。とれたものは、宿の厨房とスパで使われる。
畑の土には、草や枯れ葉に加えて、宿のレストランから出る果物の皮や種を混ぜている。2025年8月からは、厨房などから出た生ごみを堆肥にして、畑と鶏の小屋に戻す仕組みを整え、2026年4月までに約742キロの生ごみを堆肥に回した。
敷地では、ユカタン半島にもともといる、針を持たないハチ「メリポナ」も育てている。マヤの言葉で「シュナン・カブ」と呼ばれ、マヤの伝統の中で、文化と薬の両面で大切にされてきたハチだ。2025年には、70キロのはちみつがとれた。鶏の小屋では、2025年の3月から12月までに5,341個の卵がとれ、すべて宿の厨房で使われた。2022年の報告書によると、宿は、オジロジカ、アルマジロ、メリポナのハチといった、この土地の生き物を守ることを使命の中心に置いている。
地域の人と、ともに働く
2025年の報告書によると、シャブレ・ユカタンで働く284人のうち、59.6%にあたる169人が地元の地域の出身だ。料理は、メキシコシティの名店「キントニル」のシェフ、ホルヘ・バジェホが監修している。
宿は、ほかにも資源を大切にする工夫を重ねている。2022年の報告書によると、ペットボトルの使用をやめ、月に7,000本を超えるボトルを減らした。代わりに宿で水を浄化し、月に4,500本のガラスびんに詰めている。魚は、魚の数が減らないよう漁の量を調整する漁業者から仕入れ、宿のシェフたちは、メキシコで持続可能な漁業を広める運動「ペスカ・コン・フトゥーロ(未来のある漁)」に参加している。2025年には、使う電気の38.6%を太陽光でまかなった。宿の店では、20の地域に暮らす30人を超える職人の品を扱っている。宿のスタッフは、メリダの中心部にある地域の食堂「レフェットリオ・メリダ」で年に4回料理をつくり、約600人に食事を届けた。
日本の宿に置き換えると
日本の宿にも、古い建物、地域の祭りや踊り、昔ながらの畑や料理がある。シャブレ・ユカタンのように、それらを「古いもの」として片づけるのではなく、宿の体験の中心に置くことは、日本の宿でもできる。
InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)として、20室の宿で稼働率を70%とすると、年に5,110室泊。週に1回、地域の伝統芸能の保存会を招き、1回の謝礼を3万円とすると、年に52回で156万円になる。1室泊あたりでは、約305円だ。この費用で、地域の伝統を受け継ぐ人々を支えながら、客にはここでしかできない体験を届けられる。
持ち帰れる知識
- 古い建物の石や木は、新しい建物の材料として生かせる
- 伝統の畑づくりは、厨房を支える仕組みにもなる
- 地域の踊りや儀式は、宿でしかできない体験になる
- 生ごみを堆肥にして畑に戻せば、輪がつながる
宿で考えられること
- 宿や地域に残る古い建物や道具を、書き出してみる
- 地域の祭りや芸能の保存会と、話をしてみる
- 昔ながらの畑や料理を、客と一緒に体験できないか考えてみる
事業・予約への接続
シャブレ・ユカタンは、古い屋敷とマヤの文化の中で過ごす時間を、宿の一番の魅力として伝えている。客は、泊まることが、その土地の歴史と文化を受け継ぐことを支えると知って、宿を選ぶ。
Sources / 参考情報
- Chablé Yucatán(英文) - サステナビリティ報告書 2022
裏付け: マヤの人々が何百年も暮らし今も知恵を伝える、アシエンダの建物から救い出した材料、崩れた石の再利用と建物の補強、環境への負担が小さいカシータとヴィラ、倒れた木の根と幹の家具、収穫方法の中には100年以上使われていなかったものもある、草と枯れ葉とレストランの果物の皮や種を畑の土に、ペットボトルをやめ月7,000本超を削減、宿で浄化した水を月4,500本のガラスびんに、漁の量を調整する漁業者とペスカ・コン・フトゥーロ、オジロジカ・アルマジロ・メリポナを守る使命、レフェットリオ・メリダで年4回約600人、テマスカルの儀式、毎週月曜のハラナ、30人を超える職人と20の地域 - Chablé Hotels(英文) - サステナビリティ報告書 2025
裏付け: アシエンダ・チョチョラ、40棟のカシータ、四つの畑(ミルパ・スパ・イシイム・マヤの台所)で地面の畑30とカアンチェ73、4人の庭師、2025年12月〜2026年4月に465.15キロ収穫、厨房とスパへ、2025年8月から生ごみを堆肥にする仕組み、約742キロ、メリポナ(シュナン・カブ)は在来の針のないハチで文化と薬の価値、2025年に70キロのはちみつ、2025年3月〜12月に卵5,341個ですべて厨房へ、働く284人のうち169人(59.6%)が地元、太陽光38.6% - Chablé Hotels(英文) - シャブレについて
裏付け: ホルヘ・バジェホ(キントニル)が料理を監修、畑の枠の木の栄養まで考えたマヤの畑づくり、メキシコの建築家とデザイナーが地元の建て方を生かす - The 50 Best Discovery(英文) - シャブレ・ユカタン
裏付け: メリダから車で25分、セノーテを中心にしたスパ、セノーテはマヤの文化で神聖、まわりの施術の小屋、テマスカル