700年の石を、昔の技でつなぎ直す:インドのシックスセンシズ・フォート・バルワラが、砦と森と湖をよみがえらせる方法
インド北西部、ラージャスターン州。州都ジャイプルから車で2時間半ほど走ると、バルワラという村に着く。野生のトラで知られるランタンボール国立公園までは、車で30分ほどだ。
この村に、14世紀に建てられた砦がある。もとはラージャスターンの王族が住んでいた砦で、その城壁の中には、2つの宮殿と2つの寺がある。砦の向かいには、アラバリ山脈の岩山の上に、チョウト・カ・バルワラ寺院がそびえる。この砦を改修してつくられたのが、リゾート「シックスセンシズ・フォート・バルワラ」だ。部屋は、城壁の中の48のスイートで、東側の部屋からは田園が、西側の部屋からはバルワラの村が見える。
公式サイトによると、砦を持つエスパイア・グループによる改修には、10年以上かかった。城壁の石の中には、700年前から同じ場所にあり、当時のままの石灰のしっくいと、さとうきびからつくる黒砂糖の蜜で固められているものもある。
たとえば、朝の城壁の上。宿の人が、石と石のすき間を指さしながら、客に昔の職人の技を説明している。
昔の技で直し、今の設備をそっと加える
公式サイトによると、700年前の宮殿と寺は、ラージャスターンの昔ながらの建て方で修復された。そのうえで、雨水をためるタンクや太陽光のパネルを、歴史ある建物の姿をそこなわないように組み込んだ。宿は、持続可能な観光の国際的な基準を定める団体「GSTC」が認めた基準に沿って運営されている。
宮殿の中も、昔の役割を生かして使われている。宿の資料によると、スパは女性たちのための宮殿だった建物に、バーは男性たちのための宮殿だった建物にある。昔の見張りの塔は、特別な食事の部屋になった。古い建物を壊して新しく建てるのではなく、直しながら使い続けることで、土地の歴史を次の世代に手渡している。
森を、もう一度植え直す
宿の取り組みは、城壁の外にも広がっている。公式サイトの記事によると、ラージャスターン東部は、かつて雨季の森に覆われていた。しかし1980年代に持ち込まれた外来の低木が広がり、土地の生き物や地下の水に大きな影響を与えてきた。
宿は、州の森林局、村の議会、寺の管理団体と一緒に、村を守るための委員会をつくった。外来の低木は、森林局が手で抜いている。そのあとに、この土地にもともと生える木を、少なくとも5,000本植える計画だ。土が足りない場所では、岩に穴をあけて植える。宿の大がかりな堆肥づくりが、木を育てる土を支える。宿の施設「アースラボ」では、地元の大麦や木の種を残す「種の銀行」もつくる。すでにジャッカルがすみつき、ヒョウも丘を歩き始めているという。
砦の中には、この土地の木がすでに育っている。赤い花を咲かせるグルモハール、葉を薬にも使うニーム、大きく枝を広げるバニヤン、地下で茎をのばして仲間を増やすドーク、寺によく植えられるピーパル。客は、宿の「歴史と再野生化の散歩」で、こうした木の下を歩きながら、土地の自然と歴史を学ぶ。一方で、村の人には牛を放す安全な草地も必要だ。宿は、村の長や学校と話し合いながら、自然を守ることと村の暮らしの釣り合いを探っている。
宿の東の森を植え直すのと並んで、聖なる湖をよみがえらせる取り組みも進めている。雨で流れ込んだ土砂を湖からさらい、干ばつに備える。2025年には、宿の人と130人の地元の人が、湖のまわりのそうじや、湖を大切にする呼びかけに取り組んだ。
数字で見る、2025年の宿
公式サイトによると、宿は2025年に、飲み水を自分たちでびんに詰めて、34万8,563本のペットボトルを使わずにすんだ。堆肥は1万7,454キロをつくり、畑では527キロの野菜を育てた。宿のまわりからは、484.64キロのごみを取り除いた。
村との取り組みもある。2025年には、地元の学校に2つの浄水の設備を取りつけた。村の子ども100人がヨガの授業を受け、冬には314人に毛布や上着を届けた。地元の職人が、代々受け継いできた手仕事の品を売る場もつくっている。
客も、学ぶことができる。宿の持続可能性の責任者が、敷地の植物や、昔ながらの雨水をためる仕組みを案内する。アースラボでは、ニームの葉で自然の日焼け止めや虫よけをつくる。夏には、村の子どもと客が一緒に、プラスチックのごみについて学ぶ。
日本の宿に置き換えると
フォート・バルワラの工夫は、古い建物を、昔の技で直しながら、今の設備をそっと加えたことにある。日本にも、古民家や蔵、町家など、使われなくなった古い建物は多い。地元の大工や左官の職人と組んで直し、宿として使えば、建物も技も地域に残る。生ごみを堆肥にして、庭の木や地元の畑に返すこともできる。
InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)として、20室・稼働率70%の宿を考える。年に5,110室泊で、1室1泊あたり0.5キロの生ごみが出るとすると、年に2,555キロになる。これを堆肥に変えれば、その分だけ燃やすごみが減り、庭や畑を育てる土に変わる。
持ち帰れる知識
- 古い建物は、昔の技で直しながら、今の設備を加えて使い続けられる
- 建物の昔の役割を生かすと、客に歴史を伝えやすい
- 森を戻すには、行政や村、寺など、土地の人と組むことが欠かせない
- 宿の堆肥づくりが、地域の木や畑を育てる土になる
宿で考えられること
- 地域に、宿として生かせる古い建物がないか探してみる
- 建物を直す時に、地元の職人に昔の技を使ってもらえないか相談する
- 生ごみを堆肥にして、庭や近くの畑に返せないか考える
事業・予約への接続
フォート・バルワラは、700年の砦に泊まる体験と、森や湖をよみがえらせる取り組みを、宿の魅力として伝えている。客は、歴史と自然を守る宿だと知って、宿を選ぶ。
Sources / 参考情報
- Six Senses(英文) - フォート・バルワラの持続可能性
裏付け: 700年前の宮殿と寺をラージャスターンの昔ながらの建て方で修復、雨水をためるタンクと太陽光のパネルを建物の姿をそこなわずに組み込む、GSTCが認めた基準、2025年に34万8,563本のペットボトルを削減・1万7,454キロの堆肥・527キロの野菜・484.64キロのごみの除去・314人に冬の衣類、湖のまわりの取り組みに130人の地元の人、学校に2つの浄水の設備、100人の子どものヨガ、地元の職人の手仕事の品を売る場、持続可能性の責任者による植物と昔の雨水の仕組みの案内、村の子どもと客のプラスチックの学び - Six Senses(英文) - シックスセンシズ・フォート・バルワラ
裏付け: 14世紀の砦、もとはラージャスターンの王族のもの、チョウト・カ・バルワラ寺院に面する、2つの宮殿と2つの寺、この土地の植物だけの庭、東の森を植え直し聖なる湖をよみがえらせる - Six Senses(英文) - 記事「野生の側を歩く」
裏付け: 700年同じ場所にある石と当時の石灰のしっくいと黒砂糖の蜜、アラバリ山脈の岩山の寺院、エスパイア・グループによる10年以上の改修、雨季の森と1980年代に持ち込まれた外来の低木、森林局が手で抜く、森林局・村の議会・寺の管理団体との委員会、少なくとも5,000本の計画、岩に穴をあけて植える、堆肥づくり、大麦などの種の銀行、ジャッカルとヒョウ、グルモハール・ニーム・バニヤン・ドーク・ピーパルの木、歴史と再野生化の散歩、村の牛の草地と村の長や学校との話し合い、湖の土砂をさらう、ニームの葉で日焼け止めと虫よけ - Six Senses(英文) - フォート・バルワラ(宿の資料、PDF)
裏付け: ジャイプルから車で2時間半、城壁の中の48のスイート、東側は田園・西側はバルワラの村の眺め、女性の宮殿のスパ、男性の宮殿のバー、見張りの塔の食事の部屋、宿の畑と近くの村の農家から仕入れ - Six Senses(英文) - フォート・バルワラの立地
裏付け: ジャイプルから車で2時間半、ランタンボール国立公園から車で30分