棚田と黒い砂浜の間に、土地の石で建てる:バリ島のスーリ・バリが、村の道と水路を残した理由
インドネシアのバリ島。南西の海岸にあるタバナンは、島でいちばんの米どころとして知られる。火山の山並みの下に緑の棚田が広がり、その先で、黒い砂浜がインド洋へとなだらかに続いている。空港からは車で1時間あまり、海の上の岩に建つ名高い寺タナロットからは、25分ほどの距離だ。
この海辺に建つのが、リゾート「スーリ・バリ」だ。宿の体験には、波が打ち寄せる岩の上の寺タナロットを訪ねる旅もある。土地の王宮までは、2キロほどしか離れていない。公式サイトによると、宿の設計、所有、運営を手がけるのは、シンガポールの建築事務所SCDAを率いる建築家スー・K・チャン。部屋は48棟のヴィラで、どの棟にも専用のプールがあり、山か海を見渡せる。宿の前には、1キロにわたって火山の黒い砂浜が続く。
たとえば、夕暮れの浜。白い衣装をまとった村の人たちが、供え物を手に、宿の敷地の中の道を通って海へと下りていく。
村の人の道と、田んぼの水路を残す
公式サイトによると、宿の設計は、土地の自然を調べ、まわりの村の人たちと話し合いながら進められた。気候だけでなく、昔からの暮らしの習わしや、信仰の習わしまで、設計に取り入れるためだ。
敷地には、村の人が儀式の時に浜へ下りていく行列の道があった。宿はこの道を残し、巡礼の人たちがいつでも浜に出られるようにした。近くの田んぼの昔ながらの水路も、敷地の中まで延ばし、水がきちんと流れるようにした。敷地の中や周りの田んぼを、できるだけ乱さないようにし、農家の人が田んぼの手入れに通えるよう、新しい道もつくった。
宿が建っても、村の人の祈りの道も、田んぼの水も、それまでどおりに続いていく。土地の暮らしを先に考えたうえで、建物を置いたのだ。
土地の石と、村の焼き物で建てる
建物には、土地の材料が使われている。公式サイトによると、壁を覆うのは「パラス・クラティン」という灰色の砂岩で、近くの川岸から人の手で切り出して運んだものだ。ヴィラの中には、地元の火山の石「バトゥ・チャンディ」が使われ、宿の前の黒い砂浜の色を部屋の中にも運んでいる。
スパの花模様のタイルは、焼き物で知られる隣の村プジャテンの職人が、この宿のためにつくった。建物を飾る、バリの伝統の模様を刻んだ素焼きのタイルも、15分ほど離れた村に頼んでつくってもらった。青銅や石の飾りも、地元の職人と一緒につくり上げた。土地の材料と職人の技で、宿をかたちづくったのだ。
風と光で涼しく、水を分けて使う
公式サイトによると、建物は、やわらかい自然の光を取り入れながら、昼間の熱をため込みにくい向きと形に設計された。火山の石と豊かな緑が、ヴィラを自然に冷やす。開けた中庭は、風と光を通し、冷房と照明を使う時間を減らす。木や低い植え込みは、風の通り道をふさがないように置かれている。
水も大切に使っている。島の地下水をくみ上げずに、建設も運営も行えるようにした。浴室や洗濯場、厨房には、水を少なく使える器具を入れた。庭に使う水と、暮らしに使う水の管を分けることで、水の使用量を50%減らしたという。植え込みや自然の草木には、再生した水をまいている。照明にも工夫がある。室内の照明には、水銀の少ない器具と、明るさを感じて点いたり消えたりする仕組みを使い、光を当てる場所も、電気を使いすぎないよう考えて決めた。
宿は、こうした取り組みが認められ、国際的な環境の認証の仕組み「アースチェック」の、建物の計画と設計の基準を満たしたと認定されている。
村から雇い、村から買う
公式サイトによると、建設の時から今まで、働く人の多くは地元から雇ってきた。食べ物や品物、サービスは、できる限り85%以上を地元から買う方針だ。新鮮な野菜や果物は、地元の市場で仕入れる。宿の料理には、近くの農家の野菜と、宿の畑で育てた香辛料を使っている。
学びも支えている。地元の小学校で英語の教室を開き、観光の仕事を学ぶ人を育てる地元の財団と、奨学金の取り組みも行っている。バリで暮らしに困る人を支える団体とも組み、健康や安全について教え、環境を大切にすることを伝えている。
日本の宿に置き換えると
スーリ・バリの工夫は、建てる前に土地の暮らしを調べ、村の道や水路を残したことにある。日本の宿でも、建て替えや改装の時に、地域の祭りの道や、田んぼの水路、昔からの通り道を確かめ、残す工夫ができる。壁や床に地元の石や瓦、木を使い、地元の職人に頼めば、宿が地域の技を伝える場にもなる。
InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)として、20室・稼働率70%の宿を考える。年に5,110室泊で、1室1泊あたり0.3立方メートルの水を使っているとすると、年に1,533立方メートルになる。庭の水やりに雨水をためて使うなどして、全体の1割をまかなえれば、年に約153立方メートルの水道水を使わずにすむ。
持ち帰れる知識
- 建てる前に村の人と話し合うと、土地の暮らしを壊さずにすむ
- 土地の材料と職人の技で建てると、宿が地域の技を伝える場になる
- 建物の向きや中庭の工夫で、冷房と照明を減らせる
- 使い道ごとに水を分けると、水をむだなく使える
宿で考えられること
- 宿のまわりの祭りの道や水路を、地図に書き出してみる
- 改装の時に使える、地元の石や瓦、木を調べてみる
- 庭の水やりに、雨水を使えないか考える
事業・予約への接続
スーリ・バリは、棚田と黒い砂浜の景色と、土地の材料と村の暮らしを大切にした建物を、宿の魅力として伝えている。客は、バリの村とともにある宿だと知って、宿を選ぶ。
Sources / 参考情報
- Soori Bali(英文) - 持続可能性
裏付け: アースチェックの建物の計画と設計の基準を満たした認定、光を入れ熱をため込みにくい設計、火山の石と緑で冷やす、中庭の風と光で冷房と照明を減らす、島の地下水をくみ上げない、水を少なく使う器具、庭の水と暮らしの水の管を分けて50%削減、再生した水で植え込みに水やり、水銀の少ない照明器具と明るさを感じる仕組み、バリで困る人を支える団体ソレメンと健康・安全・環境を伝える、働く人の多くを地元から、85%以上を地元から買う方針、地元の市場の野菜と果物、15分ほどの村に頼んだ伝統の模様の素焼きのタイル、小学校の英語の教室、観光の仕事を学ぶ人の財団との奨学金、島でいちばんの米どころ、田んぼを乱さない、農家の人のための道、巡礼の人がいつでも浜に出られる - Soori Bali(英文) - スーリ・バリ
裏付け: 棚田と火山の山並みの海岸、タナロットを訪ねる旅 - Soori Bali(英文) - スーリ・バリについて
裏付け: 建築家スー・K・チャンが設計・所有・運営、SCDA、土地の材料、48棟すべてに専用プールと山か海の眺め、1キロの黒い砂浜、近くの農家の野菜と宿の畑の香辛料 - Soori Bali(英文) - 設計
裏付け: 土地の自然を調べ村の人と話し合う設計、暮らしと信仰の習わしを取り入れる、儀式の行列の道を残す、田んぼの水路を敷地に延ばす、風の通り道をふさがない植え込み、アースチェックの基準に沿った建設と運営 - Soori Bali(英文) - 内装
裏付け: 近くの川岸から人の手で切り出したパラス・クラティン、プジャテンの職人のスパのタイル、火山の石バトゥ・チャンディ、地元の職人と青銅や石の飾り - Soori Bali(英文) - 立地
裏付け: 南西の海岸のタバナン、火山と棚田と黒い砂浜、タナロットから25分、空港から1時間あまり、王宮まで2キロ