建物を、森に隠す:ビンタン島の「アリラ・ヴィラズ・ビンタン」の設計図から学ぶ、土地を削らない建て方
シンガポールから船で45分。インドネシアのビンタン島の北の海岸に、森と海にはさまれた斜面がある。ここに、リゾート「アリラ・ヴィラズ・ビンタン」を建てる計画が進められてきた。設計したのは、シンガポールの建築事務所WOHAだ。シンガポールの都心で、建物の中に空中庭園を重ねたホテル「パークロイヤル・コレクション・ピッカリング」(#009)を設計した事務所でもある。2016年の業界誌の記事によると、計画の広さは14.4ヘクタール。住宅と小さなホテル、それに美術館や画廊、店、レストラン、スパが集まる「村」を、一緒につくる計画だった。
WOHAは、自社のサイトで、この仕事を「未建設」としている。設計を始めたのは2010年5月で、2016年の記事では、開業は2017年半ばの予定とされた。このリゾートは、2026年10月の時点で開業が確認されていないが、設計図から何を学べるかを考えてみる。
建物が、緑に覆われていく
WOHAのサイトによると、計画の出発点は、都会に住む人を、もう一度自然とつなぐことだった。芸術や趣味を楽しむリゾートと、週末を過ごす家を兼ねる場所として考えられた。
設計の考え方は、「カモフラージュした建築」だ。建物を植物が覆っていき、草木や動物と人の暮らしが、同じ場所で共にあるようにする。建物を目立たせるのではなく、景色の中に隠すという発想だ。計画では、海辺の住宅12棟と、ホテルのヴィラ52棟を建てる。WOHAのサイトによると、建物の床面積の合計は、約7万1,000平方メートルになる。
斜面を、削らずに建てる
WOHAのサイトによると、建物は、土地のもともとの傾きに沿って置く。土を削ったり盛ったりする工事は、最小限にとどめる。木はできるだけ多く残し、工事には、軽い車両と人の手を、できるところで使う。大きな機械で土地を平らにしてから建てる方法とは、逆の考え方だ。
部屋は、海からの風を通す「風の通り道」になる向きに並べ、冷房に頼る必要を減らす。下の段のテラスは、すべて緑の屋根や庭にする。
プールにも工夫がある。計画では、自然のプールと湧き水だけを設ける。水は、生き物の力でろ過する仕組みと、水で育てる植物で、きれいにする。2016年の業界誌の記事によると、リゾートは、観光の環境認証を行う団体「EarthCheck」の基準に沿って建てる計画だった。
森の尾根に、開かれた村をつくる
WOHAのサイトによると、敷地の森の尾根には、芸術の村をつくる。設計者は、この村を、開発全体の上に冠のようにのる「熱帯のアクロポリス」と呼んだ。村は、宿の客だけでなく外の人にも開かれ、美術館や画廊、スパ、店、レストランが並ぶ。レストランでは、リゾートの有機農園と果樹園でとれた食べ物を出す。業界誌の記事によると、村の広さは4ヘクタールで、アジアの芸術や文化を伝える場として考えられた。料理学校や、地元と海外の芸術家の作品を見せる画廊、有機農園も置く計画だった。スパは、自然の材料だけを使う手当てに、ヨガや瞑想、食事の助言を組み合わせる計画だった。
宿の共用の場所は、町の広場のように働くよう設計された。目印になる大きな屋根は、町役場の時計塔のように、人が自分のいる場所を知る手がかりになる。
たとえば、夕方の尾根。客が、農園でとれた果物を手に、画廊の前の広場を歩いている。
計画の数字は、変わっていく
計画の中身は、時期によって変わっている。2016年の業界誌の記事では、住宅30棟と、40棟のヴィラのホテルとされた。いまのWOHAのサイトでは、海辺の住宅12棟とホテルのヴィラ52棟だ。計画段階の数字は、決まったものではなく、その時点の案として読む必要がある。それでも、土地を削らず、木を残し、風を通すという設計の考え方は、規模が変わっても学ぶことができる。
日本の宿に置き換えると
アリラ・ヴィラズ・ビンタンの設計図が示すのは、建物を目立たせるのではなく、土地と緑に溶け込ませる考え方だ。日本の宿でも、増築や改修のときに、斜面を大きく削らずに建てる方法や、残す木を先に決めてから設計する方法を、設計者と話し合える。部屋の窓の向きを見直して風の通り道をつくれば、冷房を使う時間を減らせるかもしれない。低い屋根を緑にすれば、客室からの眺めも変わる。宿の庭や畑を、地域の人も訪ねられる場所にすることもできる。
InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)として、20室・稼働率70%の宿を考える。年に5,110室泊で、1室1泊あたりの冷房の電気代を平均150円とする。風の通り道をつくって、冷房の電気代を2割減らせたとすると、1室1泊30円、年に15万3,300円の節約になる。
計画は未完成でも、この設計図は、建物を景色の一部にすることが、自然を守ることにも、客の体験にもなりうると示している。
持ち帰れる知識
- 建物を景色に溶け込ませることも、自然を守る方法になる
- 土地を平らにせず、傾きに沿って建てる方法がある
- 部屋の向きで風を通せば、冷房に頼る必要を減らせる
- 計画段階の取り組みは、実際の運営と分けて見る
宿で考えられること
- 増築や改修の前に、残す木と削らない土地を決めてみる
- 客室の窓の向きと、風の通り道を見直してみる
- 宿の庭や畑を、地域の人に開く日をつくってみる
事業・予約への接続
アリラ・ヴィラズ・ビンタンの計画は、芸術と自然と食を、宿の魅力の中心に置いた。建物が緑に隠れる景色や、森の尾根の村を歩く体験は、自然と共にある滞在を求める客に、宿を選ぶ理由として伝えられる。
Sources / 参考情報
- WOHA(英文) - アリラ・ヴィラズ・ビンタン
裏付け: ビンタン島の北の海岸、都会の人を自然とつなぐ芸術と趣味のリゾートと週末の家、「カモフラージュした建築」、海辺の住宅12棟とホテルのヴィラ52棟、町の広場のような共用部と時計塔のような屋根、森の尾根の「熱帯のアクロポリス」の村(美術館・画廊・スパ・店・レストラン、外の人にも開かれる)、有機農園と果樹園、土地の傾きに沿って土を削る工事を最小限に、風の通り道になる部屋の向き、下の段のテラスを緑の屋根や庭に、木をできるだけ残す、軽い車両と人の手、自然のプールと湧き水を生き物のろ過と水で育てる植物で浄化、状態「未建設」、設計の開始2010年5月、床面積の合計71,093平方メートル - Spa Business(英文) - アリラ・ヴィラズ・ビンタンに美術館、有機農園、スパ(2016年4月)
裏付け: 14.4ヘクタール、住宅と小さなホテルと村(美術館・画廊・店・レストラン・スパ)、2017年半ばに開業予定、シンガポールから船で45分、WOHAの設計、EarthCheckの基準に沿って建てる、4ヘクタールの村でアジアの芸術と文化、料理学校・画廊・有機農園、自然の材料の手当てとヨガ・瞑想・食事の助言を組み合わせるスパ、住宅30棟と40棟のヴィラのホテル