72本の井戸と、屋根の上の940枚:ナパのホテル「バルデッソーノ」が、外から買うエネルギーを半分にしようとした方法
アメリカ・カリフォルニア州のワインの産地、ナパバレー。その中心の町ヨントビルに、ホテル「バルデッソーノ」がある。ホテルのサイトによると、この土地は1926年に、イタリアから来たジョンとルーシーのバルデッソーノ夫妻が、親族と一緒に買った20エーカーのぶどう畑と屋敷だった。いまは、そのうちの5エーカーにホテルが建つ。ルーシーが手入れした「ルーシーの庭」は今も残り、ホテルのレストランに野菜を届けている。
2010年のホテルの発表によると、ホテルは2009年2月に62室で開業した。そして開業からちょうど1年で、環境に配慮した建物の認証「LEED」の最高の段階、プラチナを受けた。当時、この段階を受けたホテルは、世界でほかに2つしかなかった。
外から買うエネルギーを、半分に
ホテルのサイトによると、目標は、外から買う電気やガス、石油を、ふつうのホテルの半分以下にすることだった。ホテルでエネルギーを最も使うのは、冷暖房だ。
そこで、まず建物の形で、熱の出入りを抑えた。どの建物にも深いひさしをつけ、夏の高い日差しはさえぎり、冬の低い日差しは部屋に入れる。各部屋には約19平方メートルのガラスがあり、昼は明かりがいらない。窓は熱を通しにくいガラスにした。部屋のセンサーが客の不在を感じると、温度の設定を数度ゆるめる。冷房が必要なときは、まず外づけのブラインドが自動で下り、日差しをさえぎる。サイトは、ヨーロッパでは一般的だが、アメリカではまだ広まっていない方法だと書いている。部屋の内側のカーテンでは、太陽の熱はほとんど防げないからだ。
地下90メートルの水と、屋根の太陽
それでも冷暖房が必要なときは、地下の水を使う。ホテルのサイトによると、敷地には、深さ約90メートルの井戸が72本ある。井戸の水は約21℃で、ヒートポンプは、この水の温度を数度変えるだけで、部屋を快適にできる。外の空気は、季節によって約マイナス1℃から約41℃まで変わるため、外の空気を使うより、はるかに少ない電気ですむ。同じ仕組みで、お湯も約49℃まで温める。
平らな屋根には、940枚の太陽光パネルが並ぶ。パネルは寝かせて置き、まわりからは見えない。サイトによると、200キロワットの発電で、ホテル全体の電気の約半分をまかなう。大きな投資だったが、費用は6年から8年もかからずに回収できるという。明かりはLEDなどの省エネの電球にし、客が部屋にいないときは、センサーが明かりを消す。夜空を明るくしすぎないよう、建物を下から照らす明かりも少なくした。
古い石と、捨てられるはずの木で建てる
ホテルのサイトによると、建物の材料にも工夫がある。敷地には、19世紀の終わりに一家が建てた、石づくりのワインの貯蔵庫があった。地下水が高く、地下に貯蔵庫を掘れなかったためだ。その建物を石ひとつずつに分けて取っておき、地元の石灰岩を薄く切って、建物の内と外の壁に使った。
木も、捨てられるはずだったものだ。くだかれるか燃やされるはずだったイトスギは、外壁の板に。実をつけなくなって農家が抜いたクルミの木は、床と扉に。ワインの樽だったアメリカスギは、天井に。客室の机も、食堂のテーブルも、救い出した木から切り出した。コンクリートには、発電所で出る灰を多く混ぜ、鉄も再生したものを多く使った。庭の造作や看板は、ナパバレーの土をつき固めてつくった。材料の多くは、約800キロ以内から運んだ。工事で出たごみは、93%以上を資源として回収した。
水も大切にする。トイレや蛇口は水の量が少ないものにし、庭には乾燥に強い地元の植物を植えた。使った水は、すべて町が処理して、庭の水やりに使い直す。近くの小川からは、建物を約11メートル離して建て、その間に川辺の地元の植物を植えた。生き物や魚のすみかを守り、土が川に流れこむのを防ぐためだ。2010年の発表によると、厨房と庭から出る野菜や植物のくずは、すべて堆肥にしている。
サイトには、こんな言葉がある。「私たちは完璧ではない。知識にも予算にも限りがある。それでも、ほかの人が試せるお手本になれたらと願う」。
日本の宿に置き換えると
バルデッソーノの工夫は、設備を足す前に、ひさしやブラインド、窓の向きで、冷暖房のいらない建物にしようとしたことにある。日本の宿でも、西日の当たる部屋に外づけの日よけをつけたり、改修のときにひさしを深くしたりできる。古い蔵の石や梁、地元で切られた木を、新しい建物に生かすこともできる。温泉や地下水の熱を、冷暖房やお湯に使えないか調べてみることもできる。
InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)として、20室・稼働率70%の宿を考える。年に5,110室泊。外づけの日よけで、冷房の電気を1室1泊あたり2キロワット時減らせたとすると、年に1万220キロワット時になる。電気代を1キロワット時30円とすると、年に30万6,600円の節約になる。
持ち帰れる知識
- 設備を足す前に、ひさしや日よけで熱を防ぐことができる
- 地下の水の温度は一年を通して変わりにくく、冷暖房に使える
- 古い建物の石や木は、新しい建物の材料になる
- 限界を正直に伝えることも、取り組みの信頼につながる
宿で考えられること
- 西日の当たる部屋に、外づけの日よけをつけてみる
- 改修のときに、古い材や地元の木を使えないか考える
- 地下水や温泉の熱を、冷暖房に使えないか調べてみる
事業・予約への接続
バルデッソーノは、目に見えにくい環境の工夫を、ホテルの価値として伝えている。客は、ワインの産地の高級なホテルに泊まりながら、そのホテルが環境のお手本になろうとしていると知って、ホテルを選ぶ。
Sources / 参考情報
- Bardessono(英文) - LEEDプラチナ
裏付け: 外から買うエネルギーをふつうのホテルの半分以下にする目標、ひさし、各部屋200平方フィートのガラス、熱を通しにくいガラス、不在時に温度を数度ゆるめるセンサー、外づけのブラインド(ヨーロッパでは一般的、アメリカでは未普及)、深さ300フィートの井戸72本と地中熱のヒートポンプ、井戸の水は約70°F、外気は30〜105°F、お湯を120°Fに予熱、屋根の940枚の太陽光パネル、200キロワットで電気の約半分、寝かせて置き見えない、回収は6〜8年未満、19世紀の石の貯蔵庫(地下水が高く地下に掘れない)を石ひとつずつ分けて地元の石灰岩を壁に、イトスギの外壁、クルミの床と扉、ワイン樽のアメリカスギの天井、カリフォルニアベイの机、救い出した木のテーブル、材料の多くは500マイル以内、工事のごみの93%以上を回収、節水型の器具、乾燥に強い地元の植物、使った水はすべて町が処理して水やりに、小川から35フィート離して川辺の地元の植物、LEDなどの省エネの電球と不在時に明かりを消すセンサー、建物を下から照らす明かりを少なく、発電所の灰を混ぜたコンクリートと再生した鉄、ナパバレーの土をつき固めた造作と看板、「私たちは完璧ではない」の言葉 - Bardessono(英文) - ホテルについて
裏付け: 1926年にジョンとルーシーのバルデッソーノ夫妻と親族が20エーカーを購入、いまは5エーカーにホテル、ルーシーの庭がレストランに野菜 - PR Newswire(英文) - バルデッソーノ、カリフォルニア初のLEEDプラチナのホテルに(2010年2月)
裏付け: 開業1周年でLEEDプラチナ、世界でほかに2つのホテルのみ、2009年2月に62室で開業、厨房と庭の野菜や植物のくずをすべて堆肥に