使った水を、土の中で庭の水に変える:ビッグサーの宿「アリラ・ヴェンタナ・ビッグサー」が、160エーカーの森と海辺を守る方法
アメリカ・カリフォルニア州の海岸を走る国道1号線。山が太平洋に落ちこむ険しい海岸、ビッグサーに、宿「アリラ・ヴェンタナ・ビッグサー」がある。宿のサイトによると、海と山とアメリカスギの森が出会う場所で、160エーカーの敷地に、54の部屋とスイートが、草地や森の中に少しずつ分かれて建つ。
宿のまわりは、カリフォルニアでも数少ない、手つかずの海岸だ。宿のサイトによると、空には北アメリカで最大の陸の鳥、カリフォルニアコンドルが舞う。沖の海は海の保護区で、ラッコの保護区でもあり、海藻の森にラッコが浮かぶ。さらに沖では、シロナガスクジラやザトウクジラなどが、深い海を通って旅をする。南のサンシメオンの浜には、かつて絶滅の寸前まで狩られたキタゾウアザラシが、年に2回、子を産み育てるために集まる。宿の背後のサンタルシア山脈は、地下の岩の板がぶつかり合う力で、今も高くなり続けている若い山だ。宿は、観光の環境認証「EarthCheck」のシルバーを受けている。
使った水を、土の中で庭の水に
雨の少ないカリフォルニアで、宿が特に力を入れるのが水だ。宿のサイトによると、宿で使った水は、地下に埋めた管から少しずつ土にしみこませる仕組みで処理し、庭の水やりに使い直している。庭の水やりに使う水は、すべて使い直した水だ。雨の日や寒い日には、水やりを自動で止める。
庭には、乾燥に強い、カリフォルニアの気候に合った植物を植えた。客室の蛇口は水の量が少ないものにし、トイレは1回約6リットルの節水型にした。水を使わない男性用のトイレもある。タオルは、客が選べば取り替えずに使い続けられる。
ごみを、資源に戻す
宿のサイトによると、ガラスやアルミ、紙、電池などを、宿全体で分けて回収している。発泡スチロールは、宿のどこでも使わない。届いた荷物の詰め物は、できるだけ使い直す。古いシーツやタオルは、そうじの布に変える。厨房で使った油は、年に4回回収して資源に戻す。2023年の宿のサイトによると、庭の木の枝や葉は、細かくくだいて土に返している。
エネルギーも減らす。明かりはLEDにし、客室の冷暖房は、客の不在を感じて電気を減らす仕組みにした。使わない機器は電源を切る。冷暖房や冷蔵の設備の冷媒も、回収して使い直す。
客には、詰め替えて使えるボトルを無料で配り、宿のあちこちに水を補給する場所を置いた。家具の一部は、宿の敷地とそのまわりの木でつくった。2019年の宿のサイトによると、倒れたアメリカスギの木も、家具に生かしている。掃除には、体と環境にやさしい洗剤を使う。車で来る客のために、電気自動車の充電場所も用意した。ふつうの充電器が3か所あり、テスラの急速充電器が8台と、どの車にも使える充電器が2台ある。
働く人も、宿の中に住む
宿のサイトによると、宿は、40人を超える従業員のための住まいを、敷地の中に用意している。ビッグサーは、町から遠い。働く人が宿の近くに住めば、毎日の通勤の車が減り、排気ガスも減る。
食べ物でも海を守る。宿は、アメリカのモントレーベイ水族館が進める、持続可能な魚介を選ぶための取り組み「シーフード・ウォッチ」に加わり、その基準に沿って魚介を仕入れる。野菜や果物、肉はできるだけ地元の有機のものを使い、コーヒーと紅茶は、公正な取引の有機のものにしている。
敷地には、アメリカスギの谷にテントを張るキャンプ場もある。宿のサイトによると、40エーカーの谷で、テントの場所は小川の地形に沿って置かれている。
たとえば、朝の谷。キャンプの客が、テントの前で、小川の音を聞きながらコーヒーをいれている。
宿は、空の静けさも守ろうとしている。宿のサイトによると、ビッグサーの静けさと野生の生き物を守るため、ドローンを飛ばす客には、国や州の決まりを守るよう求めている。ビッグサーの近くの海の上でドローンを飛ばすことは禁じられており、州立公園の自然の保護区などでも飛ばせない。宿は、こうした決まりを客に伝えることも、自然を守る仕事の一つと考えている。
日本の宿に置き換えると
ヴェンタナの工夫は、水を一度使って捨てるのではなく、庭に返す流れをつくったことにある。日本の宿でも、雨水や、処理した水を庭の水やりに使えないか、地域の決まりを確かめながら考えられる。トイレや蛇口を節水型に替える。庭に、地域の気候に合った植物を植えて水やりを減らす。働く人の住まいを宿の近くに用意すれば、人手の確保と通勤の車を減らすことに、同時につながる。
InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)として、20室・稼働率70%の宿を考える。年に5,110室泊。1室1泊でトイレを5回流し、1回の水を13リットルから6リットルに減らせたとすると、年に約179立方メートルの水が減る。上下水道の料金を1立方メートル500円とすると、年に8万9,425円の節約になる。
持ち帰れる知識
- 使った水を処理して、庭の水やりに使い直すことができる
- 地域の気候に合った植物は、水やりを減らす
- 働く人の住まいを近くに置くと、通勤の車が減る
- 魚介の仕入れに、外の基準を使うことができる
宿で考えられること
- トイレや蛇口を、節水型に替えられないか調べる
- 雨の日に、庭の水やりを止める仕組みをつくる
- 古いシーツやタオルを、そうじの布として使い直す
事業・予約への接続
アリラ・ヴェンタナ・ビッグサーは、ビッグサーの森と海辺を守る取り組みを、宿の魅力として伝えている。客は、手つかずの自然の中で過ごしながら、その自然を守る宿だと知って、宿を選ぶ。
Sources / 参考情報
- Alila Ventana Big Sur(英文) - 持続可能性
裏付け: EarthCheckのシルバー、ガラス・アルミ・紙・電池などの回収、発泡スチロールを使わない、詰め物を使い直す、古いシーツをそうじの布に、厨房の油を年4回回収、LED、客の不在で電気を減らす冷暖房、冷媒の回収、使わない機器の電源を切る、40人を超える従業員の住まい、敷地の木の家具、詰め替えのボトルと補給場所、水やりはすべて使い直した水、地下に埋めた管の排水の仕組み、節水型の蛇口と1.6ガロンのトイレと水を使わない男性用トイレ、雨や寒い日に水やりを止める、タオルの使い続け、シーフード・ウォッチ、地元の有機の食材、公正な取引の有機のコーヒーと紅茶、環境にやさしい洗剤、電気自動車の充電場所(ふつうの充電器3か所、テスラの急速充電器8台と共通の充電器2台)、ドローンの決まり(ビッグサー近くの海の上は禁止、州立公園の保護区など) - Alila Ventana Big Sur(英文) - 宿のトップページ
裏付け: 国道1号線、海と山とアメリカスギの森、160エーカーの敷地に54の部屋とスイートが分かれて建つ - Alila Ventana Big Sur(英文) - 野生の生き物
裏付け: 手つかずの海岸、カリフォルニアコンドル、海の保護区とラッコの保護区、海藻の森のラッコ、シロナガスクジラ・ザトウクジラなどの回遊、サンシメオンのキタゾウアザラシが年2回、サンタルシア山脈は今も隆起する若い山 - Alila Ventana Big Sur(英文) - キャンプ場
裏付け: 40エーカーのアメリカスギの谷、小川の地形に沿ったテントの場所 - Alila Hotels(英文) - アリラ・ヴェンタナの持続可能性(2023年6月の保存版)
裏付け: 使った水はすべて地下の管の仕組みで処理して水やりに、庭の木の枝や葉をくだいて土に返す - Alila Hotels(英文) - ヴェンタナの持続可能な観光(2019年1月の保存版)
裏付け: 倒れたアメリカスギでつくった家具