木の骨組みで、エネルギーを差し引きゼロに:アムステルダムのホテル・ヤカルタが、200室のうち176室を工場でつくった方法
オランダの首都アムステルダム。中央駅の東、IJ(アイ)川に突き出した細長い人工の島がある。「ジャワ島」という名前だ。宿の公式サイトによると、この島は19世紀の終わりに防波堤として造られ、1910年から1970年まで、オランダの汽船会社の拠点だった。大きな客船がここから、当時のオランダ領東インド(いまのインドネシア)に向けて、郵便や荷物、人を運んだ。
その島の先端に、「ホテル・ヤカルタ」が建つ。設計事務所の説明によると、アムステルダム市は、川に面した目立つ場所にふさわしい、建物だけでなく、街に開いた使い方と環境への配慮でも特別なホテルを求めて、事業者を募った。その募集に勝ったのが、オランダの設計事務所「SeARCH」と、ホテルの会社「ウェストコード・ホテルズ」だ。ホテルは2018年に完成した。部屋は200室。インドネシアとアムステルダムを結んだ海の歴史を形にしている。
高さ30メートルの、木の骨組み
設計事務所の説明によると、このホテルの一番の特徴は、高さ30メートルの、建物を支える木の骨組みだ。オランダでは珍しいつくりで、梁も柱も天井も窓枠も、森を守る認証「FSC」や「PEFC」を受けた木でできている。宿の公式サイトによると、使った認証材は6,000立方メートル。木は、育つ間に二酸化炭素を取りこむため、コンクリートの代わりに使えば、建てるときに出る二酸化炭素を減らせる。
部屋のつくり方にも工夫がある。200室のうち176室は、広さ30平方メートルの木の部屋として工場でつくられた。1部屋がちょうどトラック1台に載る大きさで、浴室もバルコニーも、設備も内装もそろった状態で運ばれた。現場では、薄いコンクリートの床と、木の板を重ねた丈夫な壁や天井を組み合わせ、すべての部屋を3週間のうちに積み上げた。工場でつくれば、現場の工事の時間とごみが減る。
壁と屋根で、太陽の電気をつくる
設計事務所の説明によると、建物の南と東の面には、建物と一体になった太陽光パネルが350枚、合わせて700平方メートルを超える広さで並ぶ。パネルは各部屋のバルコニーのデザインに組みこまれている。建物の中央の吹き抜けを覆うガラスの屋根にも、太陽の電池が入っていて、電気をつくりながら、下の庭への日差しをやわらげる。宿の公式サイトによると、つくった電気は、シャワーのお湯をわかすのにも使われる。
冷暖房には、地中に夏の冷たさと冬の暖かさをためておく仕組みを使う。宿の公式サイトによると、こうした工夫と、明かりのLED、壁の高い断熱、3重のガラスを組み合わせて、建物のエネルギー性能を示すオランダの指標「EPC」はゼロになった。宿は、オランダで最初のエネルギーの差し引きがゼロのホテルの一つだと説明する。建物の環境性能の評価「BREEAM」では、71.81%の点数で「エクセレント」を得た。駐車場には、電気自動車の充電の場所が20か所ある。
吹き抜けの、熱帯の庭
建物の真ん中には、アジアの木やヤシなどの植物が茂る熱帯の庭がある。設計事務所の説明によると、この庭は、夏も冬も、建物の温度をやわらげる役目を持つ。庭は、アムステルダムの植物園「ホルトゥス・ボタニクス」と一緒につくり、手入れをしている。宿の公式サイトによると、庭の水まきには雨水を集めて使う。庭は宿泊客でなくても自由に入れる。
建物の東と北の面は、アルミの板で覆われている。板には一枚ずつ違う穴の模様があけられ、アムステルダムの「黄金時代」と呼ばれる17世紀の交易船の絵を描き出す。宿の公式サイトによると、設計の段階では、将来この建物を使う人たちも話し合いの場に加わった。建物のつくりそのものが、客に環境への配慮を気づかせることもねらいの一つだ。
1階は、どの方向からも入れる透明なガラスの壁で、街の人が気軽に立ち寄れる。ホテルを、旅人と近所の人の「もう一つの居間」にするという考えだ。
たとえば、雨の日の吹き抜け。ガラスの屋根を打つ雨の音を聞きながら、近所の人がヤシの木の下でコーヒーを飲んでいる。
客と一緒に、小さく減らす
宿の公式サイトによると、ホテルは日々の運営でも、客と一緒にできる工夫を重ねている。客が部屋の掃除を断ると、その日ごとに木が1本植えられる仕組み「ホテルズ・フォー・ツリーズ」に参加している。ロビーには水をくめる蛇口があり、サトウキビからつくった水のボトルに水を入れられる。アムステルダムのほかのホテルと一緒に、食べ物の無駄を減らす取り組みにも加わった。ベッドとタオルの布は、有機栽培でフェアトレードの綿を使う。働く人の制服は、大きな服の会社の余った布からつくられている。
日本の宿に置き換えると
ホテル・ヤカルタの工夫は、建物の骨組みに木を使い、部屋を工場でつくり、壁と屋根で電気をつくって、エネルギーの差し引きをゼロにしたことにある。新しく建てる予定がなくても、日本の宿にできることはある。屋根や南の壁に太陽光パネルを置けないか調べたり、窓を断熱性の高いガラスに替えたりできる。客が掃除を断ったときの節約分を、地域の植樹に回す仕組みもつくれる。
InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)として、20室・稼働率70%の宿を考える。年に5,110室泊。そのうち1割の511室泊で客が部屋の掃除を断り、掃除1回あたり600円の手間と費用が浮いたとすると、年に30万6,600円になる。その一部を地域の植樹に回すことができる。
持ち帰れる知識
- 木を骨組みに使うと、建てるときの二酸化炭素を減らせる
- 部屋を工場でつくると、現場の工事が短くなる
- 太陽光パネルは、壁やバルコニーにも組みこめる
- 客が掃除を断る選択を、目に見える良いことに結びつけられる
宿で考えられること
- 屋根や南の壁に、太陽光パネルを置けないか調べる
- 窓の断熱を高められる場所を探す
- 客が掃除を断ったときの節約分の使い道を決める
事業・予約への接続
ホテル・ヤカルタは、木と緑に囲まれた建物そのものを、宿の魅力として伝えている。客は、熱帯の庭のある吹き抜けで過ごし、自分の泊まる部屋が太陽の電気で動いていると知って、宿を選ぶ。
Sources / 参考情報
- ArchDaily(英文、設計事務所SeARCHの説明) - ホテル・ヤカルタ
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裏付け: BREEAMエクセレント、71.81%、EPCはゼロ、地中の熱と冷たさの仕組み・LED・高い断熱・3重のガラス・太陽光、木でコンクリートを置き換え、将来使う人が話し合いに加わる、客に環境への配慮を気づかせるねらい、電気自動車の充電の場所20か所 - Hotel Jakarta Amsterdam(英文) - 建物
裏付け: SeARCHの設計、認証材6,000立方メートル、200室、アジアの木とヤシと植物の庭、ホルトゥス・ボタニクス、庭は誰でも入れる - Hotel Jakarta Amsterdam(英文) - 歴史
裏付け: 19世紀の終わりに防波堤として造られる、1910年から1970年までオランダの汽船会社の拠点、客船がインドネシアへ郵便と荷物と人を運ぶ - Hotel Jakarta Amsterdam(英文) - 持続可能な取り組みの仲間
裏付け: 掃除を断ると木を1本植えるホテルズ・フォー・ツリーズ、ロビーの蛇口とサトウキビの水のボトル、ほかのホテルと食べ物の無駄を減らす取り組み、有機栽培でフェアトレードの綿の布、余った布からつくる制服