使うエネルギーを、自分でつくる:ウィーンのブティックホテル・シュタットハレが、客室のミニバーをやめた理由
オーストリアの首都ウィーン。西の玄関口、ウィーン西駅の近くに、「ブティックホテル・シュタットハレ」がある。名前のとおり、コンサートなどが開かれる大きな会場「ウィーナー・シュタットハレ」にも歩いて行ける場所だ。
宿の公式サイトによると、ホテルは2009年、丁寧に修復された、100年ほど前の建物に移った。新しいホテルは、ただ快適なだけではない。1年を通して、使うエネルギーと同じだけのエネルギーを、自分でつくる。宿はこれを「ゼロエネルギーバランス」と呼び、ヨーロッパで最初のゼロエネルギーバランスのホテルだと説明している。
井戸の水と、屋根の太陽
宿の公式サイトによると、エネルギーをつくるのは、3つの仕組みだ。地下水の熱を使う「ヒートポンプ」、電気をつくる太陽光パネル、お湯をわかす太陽の熱のパネルである。2021年当時の公式サイトによると、太陽光パネルは93平方メートル、お湯のための太陽の熱のパネルは130平方メートルある。地下水のポンプと合わせて、断熱を極めた「パッシブハウス」の建物で使うエネルギーをまかない、1年でエネルギーの差し引きをゼロにしている。夏は少し多くつくり、冬は少し足りない。
部屋の温度の調節には、井戸の水を使うヒートポンプが大きな役目を果たす。建物のコンクリートの中に水を通して、冬は部屋を暖め、夏は冷やす。明かりは、建物のすべてがLEDだ。
ミニバーをやめて、ロビーで会う
この宿は、客室にミニバーを置いていない。公式サイトによると、ミニバーは電気を多く使う。約80台の冷蔵庫を買い、手入れするための費用がかからないうえ、置かないことで、二酸化炭素を毎年さらに2万1,024キロ減らせると、宿は説明する。
客は、飲み物が欲しければロビーに立ち寄る。宿は、そこで生まれる客との何気ない会話を大切にしている。冷たいビールや温かいお茶を出すだけでなく、会話が思わぬ方向に広がることも多いという。
たとえば、夜のロビー。部屋から下りてきた客が、受付の人と、明日行く美術館の話で盛り上がっている。
ほかにも、宿の公式サイトによると、ごみは100%分別してリサイクルし、水を節約するシャワーの頭を使う。自転車や電車、電気自動車で来た客には、宿泊の料金を10%引く「グリーン・ボーナス」を用意していた。
ラベンダーの屋根と、ミツバチ
宿の中庭は、壁一面がツタに覆われた緑の場所だ。公式サイトによると、見上げると、ラベンダーで覆われた屋根がある。その屋根にはミツバチがすみ、はちみつをつくる。はちみつは、100%有機の食材を使った朝食に出される。晴れた日には、中庭のテラスで朝食をとれる。
部屋ごとに、SDGsの目標を
宿の公式サイトによると、宿は、国連の17のSDGsの目標を、ホテルの毎日の仕事に生かしてきた。中でも大きな取り組みが、16の客室と朝食の部屋を改装し、それぞれを17の目標の一つにささげた「SDGsの部屋」だ。近所の社会的企業「ガバレージ」と組み、使い終えたものを生かした家具を置いた。改装は2020年の夏に終わった。
たとえば、エネルギーの目標の部屋では、ベッドの頭の板が太陽光パネルでできていて、その上には、オーストリアのブルゲンラント州で実際に使われていた風車の羽根が飾られている。
ものを買うときの考え方も変えた。2017年の秋、ごみを出さない暮らしの運動を広めたビー・ジョンソンさんがウィーンで講演し、宿に泊まった。それをきっかけに、宿は「断る、減らす、使い直す、リサイクルする、土に返す」の5つのRに沿って、買い物を見直した。大手の通販や家具店での買い物は、年に5回までと決めている。2017年には、ホテルの業界団体や大学、ごみを減らす団体、ほかのホテルと一緒に、ホテルのごみを減らす取り組みを始め、2020年の夏に、その成果を手引きとしてまとめた。取り組みのねらいは、環境への配慮が必ずしも出費を増やすのではなく、節約にもつながることを、ホテルの経営者に示すことだった。
食べ物の買い方も見直した。宿の公式サイトによると、朝食は100%有機の食材にこだわるだけでなく、できるだけ地元の旬の食材を選ぶ。地域の店を支えるため、買い物はできるだけ店で直接し、それができないときにだけネットで買う。
日本の宿に置き換えると
シュタットハレの工夫は、古い建物でも、地下水と太陽を組み合わせてエネルギーを自分でつくり、そもそも要らない設備を置かない判断をしたことにある。日本の宿でも、客室の冷蔵庫を本当に置く必要があるか見直し、共用の場所に飲み物を置く形に変えられる。屋根に太陽光パネルや太陽の熱の温水器をつけることもできる。
InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)として、20室の宿を考える。客室の冷蔵庫1台の電気代を年に4,000円とすると、20台で年に8万円になる。冷蔵庫をやめてロビーの冷蔵庫1台にまとめ、その電気代を年に1万円とすると、年に7万円の節約になる。冷蔵庫を買い替える費用も、将来かからなくなる。
持ち帰れる知識
- 地下水と太陽を組み合わせると、古い建物でもエネルギーをつくれる
- 要らない設備を置かないことも、省エネになる
- 共用の場所に集めると、客との会話が生まれる
- 部屋のデザインで、宿の考え方を客に伝えられる
宿で考えられること
- 客室の冷蔵庫を、本当に置く必要があるか見直す
- 屋根に太陽光パネルや温水器をつけられないか調べる
- 電車や自転車で来た客への特典を考える
事業・予約への接続
ブティックホテル・シュタットハレは、エネルギーを自分でつくる建物と、SDGsの目標をテーマにした部屋を、宿の魅力として伝えてきた。客は、ラベンダーの屋根の下で有機の朝食をとり、ロビーで人と話す滞在を求めて、宿を選ぶ。
Sources / 参考情報
- Boutiquehotel Stadthalle(英文、2019年の保存版) - ゼロエネルギーバランス
裏付け: ヨーロッパで最初のゼロエネルギーバランスのホテル、2009年に修復した100年ほど前の建物に移る、1年で使う分と同じエネルギーを地下水のヒートポンプと太陽光と太陽の熱のパネルでつくる、グリーン・ボーナス、ミニバーを置かない、ごみを100%分別してリサイクル、LEDと節水のシャワーの頭 - Boutiquehotel Stadthalle(英文、2021年の保存版) - SDG 7 手ごろでクリーンなエネルギー
裏付け: 太陽光パネル93平方メートル、お湯のための太陽の熱のパネル130平方メートル、地下水のポンプ、パッシブハウス、1年でエネルギーの差し引きゼロ、夏は多く冬は少ない、井戸の水のヒートポンプで温度調節、コンクリートの中に水を通す冷暖房、すべてLED、ミニバーを置かない、約80台の冷蔵庫の費用、毎年さらに2万1,024キロの二酸化炭素、ロビーでの会話、ビールとお茶、ベッドの頭の板の太陽光パネルとブルゲンラント州の風車の羽根 - Boutiquehotel Stadthalle(英文、2019年の保存版) - 緑の心
裏付け: ラベンダーの屋根とミツバチとはちみつ、ツタの中庭、ウィーナー・シュタットハレに歩いて行ける、ごみを100%分別、太陽光と太陽の熱のパネル - Boutiquehotel Stadthalle(英文、2019年の保存版) - 街の中の庭
裏付け: ウィーン西駅の近く、壁一面のツタの中庭、ラベンダーの屋根のミツバチ、100%有機の朝食とはちみつ、中庭のテラスの朝食 - Boutiquehotel Stadthalle(英文、2020年の保存版) - SDGs
裏付け: 17の目標を毎日の仕事に生かす、16の客室と朝食の部屋をそれぞれ目標の一つにささげる、近所の社会的企業ガバレージ、使い終えたものを生かした家具、2020年の夏に改装を終える - Boutiquehotel Stadthalle(英文、2021年の保存版) - SDG 12 つくる責任つかう責任
裏付け: 2017年の秋のビー・ジョンソンさんの講演と宿泊、5つのR、大手の通販や家具店での買い物は年に5回まで、朝食の有機と地元の旬の食材、店で直接買いできないときだけネット、出費ではなく節約につながることを経営者に示すねらい、2017年にホテルの業界団体・大学・ごみを減らす団体・ほかのホテルと取り組みを始め2020年の夏に手引きにまとめる