GOAL 12 · TARGET 12.5 廃棄物・循環経済 4分 / 2153文字 建物の8割を残して建て直す #112

建物を壊さずに、生かす:ロンドンの1ホテル・メイフェアが、もとの構造の8割を残して炭素を抑えた方法

ロンドンの中心、高級な店や画廊が並ぶメイフェア地区。王立公園の一つ「グリーン・パーク」を見下ろすバークリー通りに、「1ホテル・メイフェア」がある。

開業時の発表によると、宿は2023年7月13日に開業した。自然に学ぶ高級ホテルのブランド「1ホテルズ」が、ヨーロッパで初めて開いた宿だ。部屋は181室で、そのうち137室が客室、44室がスイートだ。すべての部屋に、苔の壁、英国産のオークの床、ウェールズ産の粘板岩でつくった洗面台がある。

もとの構造の8割を、そのまま使う

ホテルを新しくするとき、古い建物を壊して建て直すと、がれきが出るうえ、新しいコンクリートや鉄をつくるために多くの二酸化炭素が出る。宿の公式サイトによると、1ホテル・メイフェアは、建物の一部を改修する方法を選び、もとの構造の80%を残した。これによって、およそ4,200トンの炭素を出さずに済んだ。

建物が出す二酸化炭素には、使っている間に電気やガスから出る分のほかに、材料をつくり、運び、建てる段階で出る分がある。後者は「エンボディード・カーボン(建物に埋め込まれた炭素)」と呼ばれ、一度建ててしまうと、あとから省エネをしても取り戻せない。骨組みを残すことは、この見えにくい炭素を、建てる前に減らす方法だ。

業界誌の報道によると、宿は、もとからあった2つの建物を使い直して改修し、80%を超える構造を残したうえで、2つの階を建て増した。客室には、エネルギーを効率よく使う管理の仕組みを入れた。宿には、緑の公園を望む「グリーン・パーク・ペントハウス」など、4つの特別なスイートがある。業界誌によると、上の階のスイートには広いテラスがあり、屋外の自然を部屋に取り込む工夫の一つになっている。別の業界誌によると、宿は、英国の建物の環境評価「BREEAM」の基準に沿って建てられた。

倒れた木と、使われてきた石

素材にも、物語がある。宿の公式サイトによると、客室には、手で削った石と、王室の領地「ウィンザー・エステート」から持続可能な形で調達した木を使っている。

業界誌の報道によると、ロビーの受付台は、イングランド南部サセックスで自然に倒れた、樹齢200年のオークの幹だ。設計チームが「バルコム・エステート」という領地で選んだ。ロビーには、北部ヨークシャーの古い石垣から集めた石を、地元の職人が積み上げた石の壁もある。天井からは、生きたスパニッシュモスに包まれた照明が下がる。内装を手がけた設計会社の担当者は、窓の脇に鏡を置いて光を部屋の奥まで届けるなど、屋外の自然を中に取り込む工夫を、あらゆる段階で考えたと語っている。

緑の壁と、屋根の雨水

建物の外壁は、生きた植物の壁が覆っている。宿の公式サイトによると、緑の壁は酸素を生み、温室効果ガスを吸い、建物の断熱にも役立つ。宿の敷地の中には、1,300の植物や低木、木が置かれている。

この緑の壁には、屋根に降った雨水を集めて送り、水やりに使う。各部屋の蛇口からはろ過した水が出て、ワインの瓶を再生した水差しで飲める。使い捨てのプラスチックは使わない。

電気、食べ物、身の回りの品

宿の公式サイトによると、部屋には効率のよい冷暖房と、人がいるかどうかを感じ取って明かりと空気の流れを調整するセンサーがある。宿の説明では、部屋を照らす電気は、一般的なホテルより50%少ない。街の移動には、電気自動車の送迎車と、無料の貸し自転車を用意している。

料理には、地元の農家や漁師、パン屋から仕入れた食材を使い、土を再生する農法で育った野菜も取り入れる。ごみを出さない夕食やカクテルも用意している。客室のハンガーは、使用済みの紙を再生してつくった。寝具には、地元で調達した持続可能な布と、有害な物質を使わない有機のマットレスを使う。地元の樹木の団体「ツリー・カウンシル」と組み、メイフェアの街の木の地図をつくり、宿のアプリで木の物語を読めるようにしている。

宿の公式サイトによると、宿は、出すごみを減らして資源に回すこと、使う量を細かく測って管理すること、世界の炭素を減らす事業を支えることで、残る排出も埋め合わせようとしている。炭素の排出、エネルギー、水、ごみ、生き物の多様性などのデータを集め、仕組みを見直していくとしている。宿の看板の「1」の文字は、ほぼ木と大理石だけでつくった。館内の芸術作品は、街の人々と歴史に目を向けたものだ。

たとえば、チェックインの時間。客が受付台の木目を指でなぞり、その木が倒れるまでに見てきた長い年月を思い浮かべている。

日本の宿に置き換えると

1ホテル・メイフェアの工夫は、建て直すのではなく、もとの建物の骨組みを残すことで、炭素とごみを大きく減らしたことにある。日本の宿でも、改修のときに柱や梁、建具、家具を残して使えないか、まず調べることができる。地元で倒れた木や、古い蔵の石を受付や壁に生かせば、その素材の物語を客に伝えられる。

InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)として、20室の宿の改修を考える。1室あたり10万円分の家具やテーブルを、新しく買わずに修理して使い続けたとすると、20室で200万円分の新品の購入を避けられる。修理の費用は別にかかる。

持ち帰れる知識

  • 建物を壊さずに残すことが、最も大きな削減になることがある
  • 倒れた木や古い石は、素材の物語ごと客に伝えられる
  • 屋根の雨水は、植物の水やりに使い直せる
  • 人の気配を感じるセンサーで、明かりと空気の無駄を減らせる

宿で考えられること

  • 改修の前に、残せる柱、梁、家具を調べる
  • 地元の倒木や古材を、受付や壁に使えないか探す
  • 屋根の雨水を、庭や植物の水やりにためる

事業・予約への接続

1ホテル・メイフェアは、建物を残して生かしたことと、素材の物語を、宿の魅力として伝えている。客は、倒れた木の受付台や緑の壁に囲まれ、都会の真ん中で自然を感じることを楽しみに、宿を選ぶ。

Sources / 参考情報

  • 1 Hotels(英文) - 1ホテル・メイフェアの持続可能性
    裏付け: 一部改修でもとの構造の80%を残しおよそ4,200トンの炭素を抑える、緑の壁が酸素を生み温室効果ガスを吸い断熱に役立つ、手で削った石とウィンザー・エステートから持続可能に調達した木、1,300を超える植物、部屋を照らす電気が一般的なホテルより50%少ない、電気自動車の送迎車、雨水を外壁の緑の壁の水やりに、ろ過した水、地元の農家・漁師・パン屋と土を再生する農法、ごみを出さない夕食とカクテル、再生紙のハンガー、ツリー・カウンシルの木の地図とアプリ
  • 1 Hotels(英文) - 1ホテル・メイフェア
    裏付け: グリーン・パークのそば、2つの既存の建物を改修、ろ過した水の蛇口とワインの瓶を再生した水差し、屋根の雨水で外壁の緑の壁に水やり、1,300の植物・低木・木、効率のよい冷暖房と人を感じ取るセンサー、地元で調達した寝具と有機のマットレス、無料の貸し自転車
  • Hospitality Net(英文) - 1ホテル・メイフェアの開業(2023年7月14日)
    裏付け: 2023年7月13日開業、1ホテルズのヨーロッパ初の宿、バークリー通りとグリーン・パーク、181室(客室137室とスイート44室)、全室の苔の壁・英国産オークの床・ウェールズ産粘板岩の洗面台
  • Hotel Management Network(英文) - 1ホテル・メイフェアの開業(2023年11月7日)
    裏付け: 2つの既存の建物を使い直し80%を超える構造を残す、2つの階の建て増し、客室のエネルギー管理の仕組み
  • Hospitality Design(英文) - 1ホテル・メイフェアの設計(2023年9月26日)
    裏付け: BREEAMの基準に沿って建てる、サセックスで自然に倒れた樹齢200年のオークの受付台、バルコム・エステートで選ぶ、ヨークシャーの古い石垣の石と地元の職人の石の壁、スパニッシュモスの照明、窓の脇の鏡など自然を取り込む工夫

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