GOAL 11 · TARGET 11.4 地域・文化・コミュニティ 3分 / 2092文字 戦士の砦を、元の形のまま宿にする #118

直角のない砦を、すみずみまで図面に描いて直す:インドのアリラ・フォート・ビシャンガルが、戦士の砦を宿によみがえらせた方法

インド北西部のラジャスタン州。州都ジャイプールとデリーのあいだ、花崗岩の丘の上に、宿「アリラ・フォート・ビシャンガル」がある。公式サイトによると、236年の歴史をもつ「戦士の砦」を、静かな宿に生まれ変わらせた。オーストラリアの新聞シドニー・モーニング・ヘラルドの旅の記事によると、砦が建てられたのは1700年代の終わりだ。ムガル帝国が崩れていき、ラジャスタンの王たちが守りを固めていた、争いの多い時代だった。

いま、宿の部屋とスイートは87ある。公式サイトによると、ジャイプール・ガラナと呼ばれる地元の伝統の建築と、今のデザインを組み合わせている。

たとえば、夕暮れの砦。石の窓辺に座ると、乾いた大地と小さな村の屋根が、赤く染まっていくのが見える。

入るのにも、岩登りが必要だった

シドニー・モーニング・ヘラルドによると、砦の3人の持ち主の1人アトゥル・カプールが、改修を手がける建築家を探しはじめたのは2007年だった。当時は、砦の中に入るだけでも、岩登りと洞窟の探検のような動きが必要だった。宿が開業したのは、それからおよそ10年後だ。

改修を手がけたのは、ジャイプールの建築事務所「スタパティヤ」の建築家、リトゥ・カンデルワルとサンディープ・カンデルワルだ。米国のニュース局CNNの記事(ホテル業界のニュースサイト、イーホテリエに転載)によると、2人は1994年から歴史的な建物の保存に取り組んできた。それでも、この砦はいちばん大きな仕事だった。最初に砦を調べたとき、中は迷路のようで、どの隅にもコウモリやサルがすんでいたという。

直角のない建物を、すみずみまで描く

いちばん難しかったのは、最初の2年だった。CNNの記事によると、部屋も床も一つずつ形が違い、決まった形の間取りが一枚もなかった。サンディープは「直角が一つもない、自然に育ったような建物」と話している。そのため、建物のすべての隅について図面を描いた。

ほかにも壁があった。丘の上まで材料を運ぶ道がなかった。電気や水道の管を通すには、厚さ10フィート(約3メートル)の壁と、花崗岩の丘そのものに穴をあける必要があった。エレベーターの位置を決めるときは、推測をやめ、床に穴をあけて、明かりをつけたロープを下ろして中を確かめた。

それでも、元の建物はほとんどそのまま残した。手を加えたのは、部屋をつなぐために壁をあけたところと、エレベーターの通り道くらいだ。窓や入り口、アーチや柱、石の透かし彫りの窓、塔や壁まで、すべてを元の砦に合わせた。リトゥは「宮殿をつくらないように気をつけ、砦の物語が響くようにした」と話している。新しい部分としては、丘をジグザグに上る車道や、客室のための2つ目の棟をつくり、風が通るように窓を大きくした。外の壁は「ゲルア」と呼ばれる赤みのある黄土色で、塔や窓のほかには飾りが少ない。窓の一部は「ジャロカ」と呼ばれる張り出し窓で、昔は女性たちがここに座り、外の世界を眺めたという。

近くの材料と、手仕事で仕上げる

シドニー・モーニング・ヘラルドによると、外の壁は石の粉を使った「スルキ」で、内の壁は「アライシュ」で仕上げた。アライシュは、消石灰に大理石の粉、ヨーグルト、ジャガリーと呼ばれる煮詰めた砂糖を合わせた、ラジャスタンの伝統の壁の仕上げだ。

CNNの記事によると、布や石から照明、家具まで、ほぼすべてを60マイル(約97キロ)以内から集めるか、地元の業者が仕上げた。この地域には、じゅうたん織りや石の彫刻、金属や木の細工の職人が多い。じゅうたんは、つぎはぎや版木で模様を押す布など、地元の技法で手織りされ、壁には手で描いた絵が飾られている。

石の壁で涼しく、地元の人とともに

公式サイトによると、砦の中では、壁や屋根に岩を組み込んで熱を通しにくくし、空調をあまり使わずにすむようにしている。お湯は太陽の熱でわかし、部屋は風が通り光が入る開けた造りで、明かりの電気を減らす。庭には水をあまり使わない土地の植物を選び、使った水はできるだけきれいにして水やりに回す。宿の中で、ごみのリサイクルも行う。

働く人の多くは、地元から雇っている。食材も、できるだけ地元の仕入れ先から集め、利益を分け合う協同組合を優先する。料理の体験では、客が蜂蜜や野菜をとり、ヤギの乳をしぼるところから、ラジャスタンの料理を学ぶ。

日本の宿に置き換えると

アリラ・フォート・ビシャンガルの工夫は、古い建物を新しく見せるのではなく、元の形と物語を残すことを選んだことにある。日本でも、古い蔵や町家、旅館を直すときに、残すところを先に決め、地元の職人と材料で仕上げることができる。直した理由を客に伝えれば、建物そのものが、土地の歴史を伝える場所になる。

InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)として、20室・稼働率70%の宿を考える。年に5,110室泊で、1室泊あたり200円を、建物の修繕のために積み立てるとすると、年に102万2,000円になる。10年続ければ、1,022万円を、古い建物を守るために使える。

持ち帰れる知識

  • 古い建物は、残すところを先に決めると、物語ごと受け継げる
  • 図面のない建物も、一つずつ描けば直すことができる
  • 地元の職人と材料で仕上げると、建物が土地になじむ
  • 厚い石の壁は、空調に頼りすぎない涼しさをつくる

宿で考えられること

  • 古い建物の、残したい部分と直したい部分を書き出してみる
  • 地元の職人や、伝統の技法を使える業者を探してみる
  • 建物の歴史を、客に伝える案内をつくってみる

事業・予約への接続

アリラ・フォート・ビシャンガルは、元の形を残した砦と、地元の職人の手仕事を、宿の魅力として伝えている。客は、土地の歴史の中に泊まれる宿として、ここを選ぶ。

Sources / 参考情報

  • Hyatt(英文) - アリラ・フォート・ビシャンガル公式サイト
    裏付け: 236年の歴史をもつ戦士の砦、ジャイプールとデリーのあいだ、87の部屋とスイート、ジャイプール・ガラナの建築と今のデザイン、蜂蜜や野菜をとりヤギの乳をしぼる料理の体験
  • Hyatt(英文) - アリラ・フォート・ビシャンガルの持続可能性
    裏付け: 壁と屋根に岩を組み込み空調を減らす、太陽の熱でお湯、風と光が入る開けた造り、水をあまり使わない土地の植物、使った水を水やりに、宿の中のごみのリサイクル、働く人の多くを地元から、地元の仕入れ先と協同組合を優先
  • The Sydney Morning Herald(英文) - 戦士の砦がアリラ・フォート・ビシャンガルになるまで(2019年3月)
    裏付け: 1700年代の終わりに建てられた、ムガル帝国が崩れていく時代、3人の持ち主の1人アトゥル・カプールが2007年に建築家を探しはじめた、中に入るのに岩登りと洞窟の探検、およそ10年後に開業、外の壁はスルキ・内の壁はアライシュ(消石灰・大理石の粉・ヨーグルト・ジャガリー)
  • eHotelier(英文、CNNの記事の転載) - アリラ・フォート・ビシャンガル、この夏開業(2017年4月)
    裏付け: スタパティヤのリトゥとサンディープ・カンデルワル、1994年から保存に取り組む、コウモリとサル、最初の2年がいちばん難しい、直角がない・決まった間取りが一枚もない・すべての隅に図面、材料を運ぶ道がない、厚さ10フィートの壁と花崗岩の丘に穴、明かりをつけたロープでエレベーターの位置を確かめる、壁をあけた所とエレベーター以外は元の建物を残す、「宮殿をつくらない」、ジグザグの車道・2つ目の棟・大きな窓、60マイル以内の材料か地元の業者、赤みのある黄土色「ゲルア」の外の壁、張り出し窓ジャロカ、地元の職人のじゅうたんと手描きの絵

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