川の石と、120年前の梁で建てる:ブラジルのシックスセンシズ・ボタニークが、残り12.4%の森の中に宿を置いた方法
ブラジル南東部の大西洋側には、「大西洋岸森林(マタ・アトランチカ)」と呼ばれる森が広がっていた。しかし、ブラジルの国立宇宙研究所(INPE)と自然保護団体「SOSマタ・アトランチカ」が2019年に発表した調べでは、まとまって残る森は、もとの広さの12.4%にすぎない。そして、残った森の80%は、個人などが持つ私有地にある。
つまり、この森が残るかどうかは、土地を持つ人の選び方に大きく左右される。その森の中に、ホテル「シックスセンシズ・ボタニーク」がある。
「泣く山」の中の宿
2020年11月10日、ホテルグループのシックスセンシズは、このホテルを2021年初めに開くと発表した。発表によると、ホテルはマンチケイラ山地の標高1,200メートルにあり、3つの川の谷が合わさる場所に建つ。サンパウロから車で2時間半、リオデジャネイロから3時間半の距離だ。
マンチケイラの山々は、泉や川がとても多いことから「泣く山」と呼ばれている。2021年2月の開業の発表によると、敷地には7つの泉があり、客は宿の自前の湧き水を飲める。発表は、水をきれいにする設備で、使った水をきれいにしてから自然に戻すことも伝えている。
ボタニークの公式サイトによると、宿はマンチケイラ山地の高いところにある、200万平方メートル(200ヘクタール)の私有の土地の中にある。
土地の材料だけで建てる
発表によると、このホテルは、もとは「ボタニーク・ホテル&スパ」という名前で、創業者フェルナンダ・ラルストン・セムレルさんの思いから生まれた。2012年に、地元の建築家やデザイナーが、土地の材料を使って建てた。ジャカランダの木材、自然の石、そしてチョコレート色の粘板岩(スレート)だ。発表は、このスレートが17か月に1度しか切り出されないと伝えている。
建物を支える壁には、すぐそばの川から運んだ、1つ3トンもある大きな石を使った。天井の梁は、隣のミナスジェライス州の農場から引き取った、120年前の古い梁だ。大きなガラスの壁が、外の森を室内に引き込む。
セムレルさんは、発表の中でこう語っている。「皮肉なことに、ブラジルには、深く、ほかにはないほどブラジルらしいホテルがありませんでした。ボタニークは、その空白を埋めるために、何年もかけて建てられました。建築も内装も、すべて土地のものです」。働く人も地元の人たちで、部署をなくした新しいかたちで仕事を学んだという。
たとえば、雨のあと。川の石の壁にふれると、ひんやりと冷たい。その石は、宿の下を流れる川から運ばれてきた石だ。
森を傷つけないように、増やす
2021年2月にシックスセンシズとして開いたとき、ホテルには本館の7つのスイートと、まわりの丘に点在する11のヴィラがあった。開業の発表は、さらに16のヴィラを加える計画を伝えている。どれも敷地の外で部品を作って組み立てる方式で、土地の材料を使い、まわりの植物や動物への影響が小さくなるよう、置く場所を選ぶという。
森は、客が楽しむ場所でもある。2020年の発表によると、自然の森には、歩いたり馬に乗ったりして巡る道がある。運動のプログラムには、アフリカ系ブラジル人の武術「カポエイラ」もある。食堂は本館の尾根の上にあり、つり下げた暖炉が部屋を暖める。食事は、畑から食卓へという考え方で、宿の有機の菜園と農場で育てたハーブや果物、野菜を使う。暖炉のそばのラウンジでは、宿で育てた発酵の飲み物や、まわりの菜園でとれた材料の飲み物を出す。
スパでは、地元でとれる材料を使う。客が専門の人と一緒に、地元の材料で体に塗るスクラブやパックを自分で作り、施術に使う体験もある。宿のチームは、地域の人たちとも話し合い、地元の伝統や文化、まわりの自然を守りながら、みんなの暮らしを良くする方法を探している。
森が残る国の、私有地の役割
INPEの発表によると、2017年から2018年にかけて、大西洋岸森林の伐採は前の年より9.3%減った。それでも、森がもとの1割ほどしか残っていないことに変わりはない。残った森の多くが私有地にある以上、その土地をどう使うかが、森の未来を決める。
ボタニークは、建物を少数に絞り、土地の材料で建て、森の中に道をつくって客を案内する。森を切り開いて客を集めるのではなく、森そのものを宿の価値にしたのである。
日本の宿に置き換えると
日本の宿も、里山や森、川に囲まれていることが多い。ボタニークの工夫は、まわりの土地にある石や古い材木を建物に生かし、増やすときも自然への影響が小さい建て方を選んでいることにある。改装のときに、地域で取り壊される古民家の梁を引き取ったり、敷地の森に散策の道を整えたりすることは、日本の宿でもできる。
InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)として、20室・稼働率70%の宿を考える。年に5,110室泊で、1室泊あたり150円を敷地の森や散策の道の手入れにあてると、年に76万6,500円になる。森を宿の魅力として育てる、毎年の元手になる。
持ち帰れる知識
- 残った森の多くが私有地にある国では、土地を持つ人の選び方が森を守る
- 近くの川の石や古い梁は、土地らしさを伝える建材になる
- 建物を少数に絞ると、森そのものを宿の価値にできる
- 増やすときに、敷地の外で作る方式を選ぶと、森への負担を減らせる
宿で考えられること
- 地域で取り壊される古い建物の材木を、引き取れないか調べてみる
- 敷地や近くの森に、客が歩ける道を整えられないか考えてみる
- 増築や改装のときに、木や地形への影響を先に確かめてみる
事業・予約への接続
ボタニークは、森の中にある少数の部屋と、土地の材料で建てた建物を、宿の魅力として伝えてきた。客は、ブラジルの森と文化を深く味わうために、この宿を選ぶ。
Sources / 参考情報
- Hospitality Net(英文) - シックスセンシズが2021年初めにボタニークを開く(2020年11月10日の発表)
裏付け: 2021年初めにシックスセンシズとして開く予定、マンチケイラ山地、サンパウロから2時間半・リオデジャネイロから3時間半、標高1,200メートル、3つの川の谷が合わさる場所、「泣く山」と泉や川、もとはボタニーク・ホテル&スパ、フェルナンダ・ラルストン・セムレルさん、2012年に地元の建築家とデザイナーがジャカランダの木材・自然の石・チョコレート色のスレートで建てる、スレートは17か月に1度しか切り出さない、川の3トンの石の壁、ミナスジェライス州の農場の120年前の梁、大きなガラス、セムレルさんの言葉、部署をなくした働き方、自然の森を巡る歩く道と馬の道、カポエイラ、尾根の上の食堂とつり下げた暖炉 - Hospitality Net(英文) - シックスセンシズ・ボタニークがブラジルで開業(2021年2月10日の発表)
裏付け: 開業時に本館の7つのスイートと丘に点在する11のヴィラ、さらに16のヴィラを敷地の外で作り土地の材料で影響が小さい場所に、宿の有機の菜園と農場のハーブ・果物・野菜、暖炉のそばのラウンジの宿で育てた発酵の飲み物と菜園の材料の飲み物、スパで地元の材料のスクラブとパックを作る体験、7つの泉の湧き水、水をきれいにして自然に戻す設備、地域の人たちとの取り組み - Botanique(ポルトガル語) - ボタニーク公式サイト
裏付け: マンチケイラ山地の高いところにある200万平方メートルの私有の土地 - INPE(ブラジル国立宇宙研究所、ポルトガル語) - 大西洋岸森林の伐採が9.3%減少(2019年5月23日)
裏付け: SOSマタ・アトランチカとINPEの調べ、まとまって残る森はもとの12.4%、残った森の80%は私有地、2017〜2018年の伐採は9.3%減少