リゾートの中に、海の研究所を置く:モルディブのバンヤンツリー・ヴァビンファルが20年以上続けるサンゴの守り方
インド洋に浮かぶモルディブ。首都マレの空港からスピードボートで25分ほどの小さな島に、「バンヤンツリー・ヴァビンファル」がある。1995年に開業した、モルディブの高級リゾートの草分けの一つだ。島はサンゴ礁に囲まれ、プール付きのビーチヴィラが48棟並ぶ。
このリゾートには、2004年にできた海の研究所「マリン・ラボ」がある。公式サイトは、モルディブで最も早い時期にできた、リゾートの海洋保全の拠点の一つだと紹介している。研究所は、サンゴを元に戻す取り組み、サンゴ礁の見守り、客や地元の人への海の教育を担ってきた。
電気でサンゴを育てる
公式サイトによると、モルディブで初めての「電気のサンゴ礁」は、1996年に、近くの姉妹リゾート「ダワ・イフル」につくられた。2つ目は1998年。そして2001年、3つ目がヴァビンファルの島のまわりのサンゴ礁につくられた。
電気のサンゴ礁は、金属の枠に弱い電流を流す仕組みだ。枠のまわりにサンゴのかけらを植えると、サンゴの育つ速さが増す。
白くなったサンゴのあとで
2016年、世界中でサンゴが白くなって弱る「白化」が起き、この島のサンゴ礁も傷んだ。リゾートは、サンゴ礁が自然に回復する力を助け、変化に強くするため、サンゴのかけらを海底や、電気のサンゴ礁などの枠に移し植えてきた。
2016年には、ロープにサンゴを付けて育てる「ロープの苗床」それぞれに、1,000個のサンゴのかけらを植えた。公式サイトは、その結果を「期待できる」と伝えている。
最近は、サンゴを小さく切り分けて育てる「マイクロフラグメンテーション」にも取り組む。2026年3月のアースアワーの日には、マレの学校の生徒たちが島を訪れ、研究所で海の話を聞いたあと、自分の手でサンゴのかけらを水槽に植えた。夜になると、島じゅうの明かりを1時間消し、客と職員が浜辺に集まった。研究所と環境の責任者アレックス・バーデンさんは、小さな行動の積み重ねが意味のある変化を生むと話している。
2026年9月には、新しい試みも発表された。海面から約7メートルの深さに「サンゴの木」と呼ぶ枠を置き、泥がたまりにくく、サンゴを食べる生き物からも離れた場所で、かけらを育てる計画だ。これは試験的な取り組みで、ロープの苗床やマイクロフラグメンテーション、電気のサンゴ礁と並べて、結果を見守るという。
たとえば、朝の浅瀬。研究所の人が、ロープに並んだサンゴのかけらを一つずつ確かめ、育ち具合を記録していく。
客と一緒に、海を学ぶ
研究所の人たちは、客にも海を伝える。公式サイトによると、無料の海洋生物学の教室や、案内付きのシュノーケリングを開いている。
リゾートは、使い捨てのプラスチックも減らしてきた。バンヤンツリーのグループは、2018年のアースデイに、使い捨てプラスチックをなくす取り組みを始めた。公式サイトによると、ヴァビンファルとダワ・イフルは、使い捨てプラスチックの使用量を75%減らし、グループの中で最も大きな成果を上げた。
島の文化も大切にしている。公式サイトによると、週に1日、職員がモルディブの伝統の服を着て働き、レストランでは土地の料理をテーマにした夕食を出す。夜にはバーで、太鼓を打ち鳴らして歌う伝統の芸能「ボドゥベル」が披露される。
環境への取り組みは、外部の認証でも確かめられている。観光の環境認証「アースチェック」で、2012年から認証を続けて受け、2022年にはゴールド認証を得た。認証では、エネルギーや水、ごみ、紙の使用量などを毎年測っている。
島の外へ広げた清掃
2025年、開業30年を記念して、リゾートは全国の海岸を一緒に掃除する日「サーフ・クラマー」を呼びかけた。モルディブの言葉で「一緒にきれいにしよう」という意味だ。業界誌「ホテリエ・モルディブ」によると、地元の環境団体「クリーン・モルディブ」と組み、全国の32の島から3,000人を超えるボランティアが集まり、25トンのごみを集めた。国連児童基金(ユニセフ)などの団体や、マレ市議会も支えた。同誌は、民間の組織が率いた海岸の清掃として、モルディブでいちばん広い範囲で行われたと伝えている。総支配人のエリアス・ペルトフトさんは「地域が目的を持って集まるとき、自然との絆が新たになる」と話している。
日本の宿に置き換えると
ヴァビンファルの工夫は、海を守る専門の拠点を宿の中に置き、何十年も続けてきたことにある。一つの方法に頼らず、電気のサンゴ礁、ロープの苗床、マイクロフラグメンテーションと、方法を並べて比べている点も大切だ。日本の海辺の宿でも、地元の漁協や大学、水族館と組んで、藻場やサンゴ、干潟を見守る場を持てる。
InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)として、20室・稼働率70%の海辺の宿を考える。年に5,110室泊のうち1割の511室泊で、1回2,000円の海の教室に参加してもらうと、年に102万2,000円になる。この収入を、海の見守りや教室の運営にあてられる。
持ち帰れる知識
- 海を守る専門の拠点を宿の中に置くと、取り組みが長く続く
- 方法を一つに決めず、並べて比べると、土地に合う方法が見つかる
- 客への教室は、海を守る仲間を増やす場になる
- 記念の年は、地域を巻き込む取り組みを始めるきっかけになる
宿で考えられること
- 宿の前の海や浜で、見守れる生き物や場所を探してみる
- 地元の漁協や大学、水族館と、一緒にできることを話してみる
- 海の清掃を、客や地元の人と一緒に開いてみる
事業・予約への接続
バンヤンツリー・ヴァビンファルは、研究所の取り組みを、客が参加できる体験として伝えている。客は、生きたサンゴ礁とそれを守る人に出会うために、ここを選ぶ。
Sources / 参考情報
- Banyan Tree(英文) - バンヤンツリー・ヴァビンファル(公式サイト)
裏付け: 空港からスピードボートで25分、島を囲むサンゴ礁、プール付きのビーチヴィラ48棟、2004年からの海の研究所(モルディブで最も早い時期のリゾートの海洋保全拠点の一つ)、サンゴの回復・サンゴ礁の見守り・客と地元への教育、1995年開業 - Banyan Tree(英文) - サステナビリティ(公式サイト)
裏付け: 2022年にアースチェックのゴールド認証、2012年から認証を継続、エネルギー・排出・水・ごみ・紙などを毎年測定、2016年の白化、自然な回復を助け強くするための移植、電気のサンゴ礁は弱い電流でサンゴの成長を速める、1996年にダワ・イフルでモルディブ初、1998年に2つ目、2001年にヴァビンファルで3つ目、2016年にロープの苗床それぞれに1,000個で期待できる結果、2018年のアースデイから、使い捨てプラスチック75%削減でグループ最大、無料の海洋生物学の教室と案内付きのシュノーケリング、週に1日の伝統の服・土地の料理の夕食・ボドゥベル - Hotelier Maldives(英文) - バンヤンツリー・ヴァビンファル、3,000人超のボランティアと「サーフ・クラマー」(2025年10月30日)
裏付け: 開業30年の記念、全国の海岸清掃の日、32の島から3,000人超、25トン、クリーン・モルディブと協力、ユニセフやマレ市議会などが支援、「一緒にきれいにしよう」の意味、民間が率いた海岸清掃でモルディブ最大の範囲、総支配人エリアス・ペルトフトさんの発言 - Hotelier Maldives(英文) - バンヤンツリー・ヴァビンファル、アースアワーで保全活動(2026年3月29日)
裏付け: マレのアフマディーヤ学校の先生と生徒、研究所での海の話、マイクロフラグメンテーションの体験、生徒がサンゴのかけらを水槽に植える、明かりを1時間消し浜辺に集まる、アレックス・バーデンさんの発言 - Hotelier Maldives(英文) - バンヤンツリー・ヴァビンファル、開業記念月の体験(2026年9月14日)
裏付け: 9月23日にサンゴの木を植える計画、海面から約7メートル、泥と捕食者から離して育てる、試験的な取り組みで、ロープの苗床・マイクロフラグメンテーション・電気のサンゴ礁と並べて見守る