GOAL 7 · TARGET 7.2 エネルギー・脱炭素 4分 / 2296文字 植えた木と測った炭素で、建てた分を取り戻す #136

建てるときに出た炭素を、森で取り戻す:デンバーのホテル「ポピュラス」が、炭素の収支を数字で公開する理由

米国コロラド州デンバーの中心部、市民センター公園から歩いて2分の14番街に、ホテル「ポピュラス」がある。2024年10月に開業した、13階建て・265室のホテルだ。開発したのはデンバーの不動産会社アーバン・ビレッジズで、建物の設計はシカゴの建築事務所スタジオ・ギャングが担った。運営はアパリアム・ホテル・グループで、2つのレストランを持つ。

建物の形は、コロラドの山に広がるアスペンの林から着想を得た。外壁の窓には、少し外へ張り出した「ふた」が付いている。このふたが室内に日陰をつくり、デンバーの寒暖差の大きい気候で、冷暖房の効率を上げる。雨水を外壁から流す役目もある。

ポピュラスは「米国初のカーボンポジティブのホテル」を名乗る。開発会社の定義では、建物を建てるときと、運営するときに出す炭素を合わせた量よりも多くの炭素を、木や土に吸収させることを、建物の一生を通じてめざす、という意味だ。

建てるときの炭素を、まず減らす

ホテルの炭素には、2つの種類がある。資材をつくり、運び、建てるときに出る炭素と、開業後に電気や食材を使って出す炭素だ。ポピュラスは、まず前者を減らすことから始めた。

公式サイトによると、構造には、スイスのホルシム社の低炭素コンクリート「ECOPact」を使った。一般的なコンクリートと比べて、二酸化炭素の排出が少なくとも30%少ない。さらに、敷地に駐車場をつくらなかった。駐車場の建物は、炭素を多く出す鉄骨や鉄筋コンクリートでできているからだ。新しく建てたホテルで駐車場を持たないのは、デンバーの中心部で初めてだという。ただし、車で来る客には、係員が車を預かるバレーパーキングを用意している。

内装にも、土地の素材や新しい素材を選んだ。ロビーに下がる大きな作品は、キノコの菌糸からつくった革の代わりの素材、およそ500枚でできている。受付の壁の板には、虫の被害で枯れた木を使い、フロントの机には地元のハコヤナギの丸太を使った。

残った分を、森で取り戻す

それでも、建てるときの炭素はゼロにはならない。そこで開発会社は、2022年の夏、米国森林局を通じて、コロラド州ガニソン郡の172エーカーを超える土地に、7万本を超える木を植えた。この植林は、建物の骨組みと外側の分の炭素を、木が育つ期間を通じて取り戻すためのものだ。内装の分は別に記録し、さらに木を植えて補う。業界誌によると、開発会社は認証を受けた炭素クレジットも7,000トン買った。

開業後は、「ワン・ナイト・ワン・ツリー」という取り組みで、1泊ごとに1本の木を植えている。国有林を支える財団と組み、森林局の専門家が選んだトウヒやマツなどの苗を、虫の被害や山火事のあとの国有林に植える。公式サイトによると、これまでに植えた木は3万4,000本を超えた。

数字を、四半期ごとに公開する

ポピュラスは、炭素の収支を「ダッシュボード」として公式サイトで公開し、四半期ごとに更新している。データは、電気のメーター、ごみの回収業者の記録、炭素クレジットの登録簿から集め、専門の会社が計算する。

2026年の第1四半期の数字では、建てるときの炭素が7,157トン、運営で出た炭素が311.07トン、認証を受けた炭素クレジットが8,500トンだった。8,500を、7,157と311を足した数で割ると、およそ113.8%になる。ダッシュボードが示す「113.8%カーボンポジティブ」は、この計算だ。100%を超えると、出した炭素より多くを取り戻したことになる。

ただし、この数字は森とクレジットを含めた収支だ。設計者のジーン・ギャングさんは、2023年に建築専門紙の取材に対して、「カーボンポジティブ」は敷地の外での植林も含めた開発全体の考え方を指すもので、「建物そのものがカーボンポジティブになるわけではない」と答えている。

運営でも、炭素とごみを減らす工夫を重ねる。公式サイトによると、電気はすべて再生可能エネルギーでまかなうことを約束し、照明はLED、空調には自動で細かく調整できる温度調節器を使う。敷地内の機械で食べ残しをすべて堆肥にして、コロラドの農場へ届ける。客室には繰り返し使える水筒を置き、各階に給水所を設けて、使い捨てのプラスチックをなくした。

屋上には、四季を通じて木や花が育つ庭がある。強い日差しをやわらげ、虫や鳥の居場所にもなる。ホテルの前の通りには、木の根が広がれる土の仕組みを地下に入れて、街路樹を植えている。自然保護団体と、デンバー中心部の都市の森づくりの取り組みからの助成で実現した。

業界誌の取材に、開発会社の担当者は、ホテルを出す炭素より多くを吸収するやり方で建てて運営しながら、事業としても成り立つことを示したいと語った。不動産は持続可能であるだけでなく、自然を再生させるものであるべきだとも話している。

日本の宿に置き換えると

ポピュラスから学べるのは、「建てるとき」と「運営するとき」の炭素を分けて数え、計算の式と一緒に公開していることだ。式が見えれば、客は数字の意味を自分で確かめられる。改修を考える宿なら、資材の選び方を決める前に、建てるときの炭素を見積もってみる価値がある。

InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)として、20室・稼働率70%の宿を考える。年に5,110室泊で、1泊ごとに1本の苗木を植えるとすると、年に5,110本になる。苗木と植える作業の費用を1本300円とすると、年に153万3,000円だ。1室泊あたり300円を宿泊料に含めれば、この費用をまかなえる。

持ち帰れる知識

  • 建てるときの炭素と、運営するときの炭素は分けて数える
  • 計算の式を公開すると、数字の意味を客が確かめられる
  • 森やクレジットを含む収支と、建物そのものの性能は区別して伝える
  • 駐車場のような大きな設備を減らすことも、炭素を減らす手段になる

宿で考えられること

  • 改修のとき、資材ごとの炭素を見積もってみる
  • 宿の電気・ガス・ごみの量を、毎月記録してみる
  • 宿泊と植林を結びつける取り組みを、地元の森林組合に相談してみる

事業・予約への接続

ポピュラスは、アスペンの林を思わせる建物と、炭素の収支を公開する姿勢を、宿の魅力として伝えている。客は、泊まった1泊が1本の木になることを知って、ここを選ぶ。

Sources / 参考情報

  • Populus(英文) - 環境への取り組み(公式サイト)
    裏付け: 100%再生可能エネルギーの電気を約束、LEDと温度調節器、使い捨てプラスチックをなくす、屋上庭園が日差しをやわらげ生き物の居場所に、自然保護団体と都市の森づくりの取り組みの助成で街路樹の土の仕組み、ダッシュボードの2026年第1四半期の数字(113.8%、運営311.07トン、建てるとき7,157トン、認証クレジット8,500トン)、累計の吸収とオフセットを累計の排出と比べる計算、専門の会社がメーター・回収業者の記録・登録簿からデータを集める、ワン・ナイト・ワン・ツリーで3万4,000本超、国有林財団と組みトウヒ・マツなどを森林局の専門家が選ぶ、虫の被害と2018年の山火事のあとの国有林、食べ残しを100%堆肥にして地元の農場へ、客室の水筒と給水所、四季の屋上庭園
  • Populus(英文) - よくある質問(公式サイト)
    裏付け: 所在地は14番街で市民センター公園から徒歩2分、カーボンポジティブの定義、2022年夏に米国森林局を通じてガニソン郡の172エーカー超に7万本超を植林、骨組みと外側の分を植林で取り戻し内装は別に記録、窓の「ふた」が日陰をつくり雨水を流す、ECOPactで二酸化炭素を少なくとも30%削減、駐車場をつくらない(デンバー中心部の新築ホテルで初めて)、バレーパーキングあり、キノコの菌糸の素材およそ500枚の作品、虫の被害で枯れた木の壁、ハコヤナギの丸太の机
  • Populus(英文) - 私たちの物語(公式サイト)
    裏付け: スタジオ・ギャングの設計、コロラドのアスペンの林から着想
  • Hotel Management(英文) - デンバーのポピュラスが両立させる、環境とデザイン(2025年9月)
    裏付け: 265室・13階建て、開発はアーバン・ビレッジズ、認証を受けた炭素クレジット7,000トンを購入、出す炭素より多くを吸収しながら事業としても成り立つことを示す、不動産は持続可能なだけでなく再生させるものであるべき
  • Hotel Dive(英文) - デンバーに「カーボンポジティブ」のホテルが開業(2024年10月)
    裏付け: 2024年10月に開業、265室、2つのレストラン、運営はアパリアム・ホテル・グループ
  • The Architect's Newspaper(英文) - 建設中のデンバーのホテル「ポピュラス」の主張は、よく確かめるべきだ(2023年4月)
    裏付け: ジーン・ギャングさんの「敷地外の植林を含む開発全体の考え方を指す。建物そのものはカーボンポジティブにならない」

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